第八話【脱走】
瑠璃は、天神ノ峰団全員を率いて上へと走っていく。
「それで、鳳蝶は階段の罠にかかって以降、何年もセカンドステージのダンジョンから帰ってこなかったけど。……今先頭を走っている琥珀川瑠璃くんと一緒にいたから無事だったってことかな?」
そんな村雨の質問に、月は頷いた。
「そうです。今まで出口のない異空間? みたいな部屋に閉じ込められていて、今日ようやく瑠璃さんのおかげで脱出できたんですよ」
「なんだと? 異空間の部屋?」
「はい。虹色に光る膜みたいなのに覆われていたので、間違いないかと」
「で、今日脱出してそのままセカンドステージをクリアし、サードステージへとやってきたってわけか。……それにしてはここへくるのが早くないか?」
「まあ瑠璃さんが謎解きみたいな部屋のドアを全て破壊しながらきましたから」
「あー、なるほど。確かにあの桁違いなレベルならそれができてもおかしくないな」
「それで村雨さんたちを助けにきたんですけど、どうしてみなさんは自分たちで脱出しないんですか? 天神ノ峰団であればここから出るくらい簡単だと思いますが」
「いや、無理だな」
「あぁ不可能だろう」
村雨だけでなく、黒髪の夜霧までもが即否定した。
「どうしてです?」
「お城だけでなく街中にもたくさんの獣人が潜んでいるというのもあるが……俺たちは獣人の王の強さを目の当たりにしてしまったんだよ」
「王様がそんなに強いんですか?」
「実はここに閉じ込められてすぐ、俺たちは一度脱出しようとしたんだ。しかし、あいつの強大な力を前に、手も足も出なかった。……結局、命を助けてもらう代わりにこの地下で働くことになったってわけだ」
「ん? あの王座に座っていた年寄りの獣人、めちゃくちゃ弱そうだったぞ? 俺を前にして体を震わせていたし」
瑠璃が振り向いて言った。
「確かに見た目は弱そうなんだが、青色の薬みたいなものを飲んだ瞬間に突然雰囲気が変わったんだ。そして気づいたら俺たちは全員膝をついていた」
「ああ。さすがの俺も勝ち目がないと判断せざるを得なかったぜ」
村雨に続き、赤髪の赤松がにやけながらつぶやいた。
「なんだそれ面白そうだな。……ぜひ一度手合わせを願いたいものだ」
瑠璃は鬼のような笑みを浮かべる。
「瑠璃さん。戦うのは構いませんが、拳の風圧で私たちを殺さないでくださいよ?」
月が言った。
「そのくらいのコントロールはできるから安心しろ」
「でも、戦うとは言っても本当に大丈夫なのか? あの王様の力は異常としか言いようがなかった。いくらレベルが高かろうと、到底人間が勝てる相手じゃない。とにかくスピードが異常なんだ」
村雨が不安そうな顔をする。
「俺を殺せるような相手だといいんだけどなぁ」
「「「は?」」」
瑠璃の発言に、近くにいた人たちが胡乱げな表情を浮かべた。
「最近手ごたえを感じなさ過ぎて、ずっとイライラしていたんだよ。あーでも、あの虹色の膜を破ることができた時の快感はすごかったな」
「瑠璃さん、それ以上は止めましょう。……みんなが引いてます」
月がそう告げた。
「あ、そう?」
「というか鳳蝶もこの数年でとんでもないレベルに達しているな」
振り向きながら赤松が尋ねた。
「閉じ込められていた部屋に強敵が無限湧きしていて、瑠璃さんがちょっとだけパーティを組んで鍛えてくれたんです」
「はぁ? 寄生かよ。お前ずるいな」
「そんなことないですよ! 協力してもらえるように瑠璃さんを説得するのがどれだけ大変だったことか」
「お前、体を売ったのか?」
「赤松さんの頭のなかは昔と変わらずそんな発想ばかりですね。瑠璃さんは全然そういうことに興味を持たない人なんですよ。だからレベル上げを手伝ってもらえるまでに三年以上かかったんです」
「ははっ、よほど鳳蝶に魅力がなかったんだろうな」
「なっ、いらないお世話ですよ!」
「まあお前は昔から小柄だったし──」
「──おい」
突然、瑠璃が赤松の頬を掴んで持ち上げた。
凍えるほど冷たくて重たい圧を発している。
「ふぐっ……。な、何をする」
「月はお前らの誰よりも魅力的だ。取り消せ」
「…………わ、わるい。俺が間違っていました」
「わかればいい」
彼はそう言い残して再び先頭へと戻っていく。
「ほら、調子に乗るから瑠璃さんが怒りましたよ?」
そんな月の言葉に、赤松は体を震わせながら首を横に振る。
「……俺はもう喋りたくない。怖すぎるだろ」
「なぁ、今の琥珀川瑠璃くんの動きが見えたか?」
村雨が隣にいた黒髪の夜霧に小声で尋ねた。
「いえ、全く」
「だよな。俺も瞬きすらしていなかったのにもかかわらず、何も見えなかった」
「このスピードなら、獣人の王に抵抗できるかもしれませんね」
「ああ」




