第七話【採掘場】
「おっ、誰か見えてきたぞ」
走って三十秒ほど発掘場を下りていくと、布の服を着た高身長のおじさんが見えてきた。
青色のつるはしを使って土の壁を掘っている。
ダンジョンの中なのにもかかわらず、採掘場の地面が自動修復されないのは、この青いつるはしのおかげだったりする。
なぜこんな物が存在しているのかは獣人たちですら知らないのだが、掘った分だけダンジョンの地形を変えることができるという不思議な代物だ。
獣人たちはダンジョンに生み出されて以降、建物を建てるためや領土を広げるために地面や壁を掘り続けている。
まるでダンジョン攻略にくる冒険者を迎え撃つための準備をしているかのように。
「よく見るとまだ下にもたくさんの人がいますね」
とそこで、おじさんが瑠璃と月の存在に気づいたらしく、手を止めて口を開く。
「君たちも獣人たちに捕まったのかい?」
「いや、俺たちは──」
「──あー! 村雨さんじゃないですか」
瑠璃の言葉を遮って月が言った。
「その声にその顔は……鳳蝶か?」
「はい。みなさんを助けにきました」
「助けにきたのは俺であって、お前はただ捕まっただけなんだけどな」
「うるさいですよ瑠璃さん。……えっと、村雨さん。ここから出ましょう」
「地上へと繋がっている扉の鍵と、外の獣人たちはどうするんだ?」
「大丈夫だと思います。ここに琥珀川瑠璃さんがいるので」
そう言って月は瑠璃を指をさす。
「琥珀川瑠璃? どこかで聞いたことがある……あっ!? あのランキング一位に君臨し続ける者の名か!」
「その通りです」
「き、君は本当にあの琥珀川瑠璃で間違いないのかい?」
「うん」
「どうやってそのレベルに!? いや、今までどこで何をしていたんだ?」
「説明するのがだるいし、早く行かないなら置いていくぞ? あまりのんびりしていたら天井の穴が全部塞がりそうだ」
瑠璃が言った。
「ま、待ってくれ。すまなかった。すぐにみんなを呼んでくるからもう少しだけ待ってくれないか?」
「あー、うん」
村雨は勢いよく下に向かって走り出した。
「相変わらずせっかちですね」
「興味のないやつに時間を使うのは気が進まないんだよ。正直月以外どっちでもいいし。お前がギルドを脱退するために嫌々助けにきただけだからな」
「私としてはそう言ってもらえて少しうれしいんですけど、でも一応あの人大規模ギルドの団長ですよ? 見た感じレベルランキングはかなり落ちているみたいですけど」
「まあ、月がいる限り勝手に一人で帰ったりしないから安心してくれ」
「は、はい」
「にしても遅いな」
「まだ呼びに行ったばかりですよ!?」
「いやいや、俺だったら十秒くらいで全員連れてこられるぞ」
「それは瑠璃さんだからこそです。というかもう少し全体的に落ち着いたほうがいいですよ」
「俺は早く次の階層に進みたいんだよ。最近強敵と戦ってないからストレスが溜まっているし」
「そんな生き方をしていたら、いずれ絶対に大きな失敗をすると思います」
「その失敗から学ぶこともあると思うけどな。人間は敗北を経験してこそ成長するものだし」
「いや、大きい失敗はしないに越したことはないですよ」
「それについてはいったん永遠に棚に上げておくとして」
「いったんとか言いつつ、永遠って……この人外さんは一体何が言いたいのでしょうか」
「なんであの人たちは自分の力で脱出しようとしないんだろうな。大規模ギルドなんだろ?」
「あ、それは私も疑問に思いました。天神ノ峰団は全員でかなりの人数がいますし、余裕で逃げられそうな気がしますけど」
「う~ん、なんか匂うな」
「ですね。この地下大国には天神ノ峰団が恐れる何かがありそうです」
瑠璃は鼻から大きく息を吸い込む。
「これは月の汗の匂いか?」
「て、失礼ですね! ……えっ、嘘でしょ? 私匂います?」
「かなりな」
「たまに薬草や布の服を使って身体を拭くだけで何年もお風呂に入ってないので、当然と言えば当然ですが。……匂いの原因は瑠璃さんのほうじゃないんです?」
「かもしれない」
「でも、本当に臭いですか? 私には何も匂わないんですけど」
「いや、俺にもわからん」
「じゃあなんで言ったんですか!!」
「なんとなくだ。……だけど、俺に関しては人生の半分くらいダンジョンで過ごしているし、絶対匂っていると思う」
「つまり私たちの鼻がおかしくなっていると?」
「もしくは、自然のなかで過ごしすぎて匂いが出ない体になったとか」
「そんなことあります?」
「ま、俺と違って月は匂いを発しているだろうけどな」
「なんでですか!?」
とそこで、大量の人数が走ってやってきた。
村雨が頭を下げつつ口を開く。
「二人ともすまん。待たせたな」
「よし、じゃあ行くか。遅れているやつは守らないからな?」
そう言って瑠璃は控えめに走り出した。




