第五話【地下大国】
獣人はなんとか着地をしつつも、彼の後ろ姿をじっと見つめる。
「やばいやつに手を出してしまったかもしれない。……だが、あの人の手にかかればあいつも終わりだろう」
そんなつぶやきが瑠璃に聞こえるはずもない。
もうすでに瑠璃は圧倒的なスピードでお城の前へと到着していたのだから。
「おい、お前! さっき遠くの天井に大穴を空けた侵入者だな!」
「今すぐ逮捕する」
門番の獣人二人が大声で言った。
「おい、通らせてもらうぞ」
「チッ、今すぐ増援を呼んでこい。その間俺がこいつの相手をしておく」
「おう」
そんな会話がされたかと思えば、獣人の一人が正面の扉を開けてなかへと入っていく。
「ただの人間風情がこの地下大国に乗り込んできてただで済むと思うなよ」
「一応聞くが、ここに月っていう女がきていないか?」
「黙れ」
「その反応からして、このなかにいそうだな。抵抗せずに侵入させてくれるなら殺さないけど、どうする?」
「人間如きがふざけたことをぬかすな! 見逃すはずないだろ──グアッ!?」
見えないほどの速度で放たれたジャブにより、獣人が破裂した。
レベルアップの音が響く。
「抵抗したら殺すって言っただろ? 俺はアニメやゲームの主人公みたいに甘くはないぞ」
そう言い残して瑠璃はお城のなかへと入っていく。
扉の先では、もうすでに大量の獣人が武器を構えてこちらへと向かってきていた。
玄関だけでなく、通路や階段にもいる。
「へぇ、予想以上に対応が早いな」
瑠璃は感心したように頷く。
「おい、やつを絶対に逃がすな」
「貴様! そこから一歩でも動いたら殺す」
「なぁちょっと尋ねたいんだが、もしかしてここに人間が閉じ込められていないか?」
彼がそう尋ねると、一人の獣人が大声で答える。
「それがどうした? お前になんの関係がある」
「やっぱり月はここにいるのか。……もし解放してくれるならお前らを誰ひとり殺さないと約束するが、どうする?」
「そんなの承諾するわけないだ──グハッ」
「「「「ギャァァ!!」」」」
その場にいた獣人全てが、わずか一瞬にしてただの肉塊に変わった。
レベルアップの音が響く。
「あーあ、先に交渉で済ませてあげようと思ったのに。これだから聞く耳を持たない悪党は嫌いなんだ」
瑠璃はものすごい速度で階段を上り、中央の巨大な扉を開けてなかへと入る。
するとそこは王座の間だった。
一番奥に歳をとった獣人が座っている。
そしてレッドカーペットの左右にはたくさんの獣人たちがいて、全員が瑠璃に武器を向けている。
全部で50はいるだろう。
「何者だ、貴様! これ以上近づくなら、お前を殺す」
「はぁ、お前ら全員同じことしか言えないのか?」
一人の獣人が発した言葉に、瑠璃はため息を吐いて尋ねた。
「なっ、我々を愚弄するか」
「よし、一応お前らにも交渉を持ちかけてやろう。もしここに捕らえられている人間を解放するなら、ここにいる全員は殺さないでやろう。どうする?」
「そんな条件をのむはずがないだ──ゴボッ」
「「「「グゲェェェ!!」」」」
およそ50の獣人が一秒と経たずに全滅した。
レベルアップの音が響く。
ここまで頻繁にレベルアップをするということは、ダンジョンに徘徊している魔物とは比べものにならないほど強いのだろう。
白竜には到底及ばないが。
「頭が固いやつらは嫌いだ。せっかく俺がチャンスを与えてやったのに」
そう言いつつ、彼は王座の前に移動した。
「あんたが王様?」
「……な、なんなんだお主は」
王様であろう老人は、体を震わせつつも瑠璃に尋ねた。
「王様かどうか聞いているんだけど。……答えないなら、後ろにいるあいつらみたいに殺すよ」
「ひっ、お、王です」
「ならどこに人間が捕らえられているのか知っているだろ? さっさと教えろ」
「お、教えますからどうか命だけは……」
「早くしろ」
「ダンジョンで捕らえた人間どもは全員この城の地下にある採掘場で働かせていたり、ち、地下牢に閉じ込めていたりしています!」
「複数いるのか? ……となると月が言っていた別の団員とやらもここにいるわけか。なるほどな、ありがとう」
そう言って瑠璃はすぐさま踵を返す。
「地下への扉の鍵はここに……て、あれ?」
王様が懐から地下牢の鍵を取り出した時には、王座の間には誰もいなかった。
残っているのは部下の死体とも呼べない肉塊のみ。
「くそっ。とんでもないやつが現れおって。……生きてここから帰れると思うなよ」
そう言って獣人の王は、瓶に入っている青い液体を一気飲みした。




