第一話【秋葉原】
突然出現した、世界に唯一のダンジョン。
秋葉原に入り口があり、今では周辺が観光スポットのようになっている。
ダンジョンを見てみたいという理由で世界中からやってくる観光客や、一攫千金を狙う冒険者たちがたくさんいるため、いつも秋葉原はものすごい人で溢れている。
ダンジョン攻略に必要な装備や道具を売っている店。
酒場。
冒険者ギルド。
料理店。
どこも賑わっているが、なかでも一番人口密度が高いのはダンジョンの入り口前だ。
パーティーを集める者や、ギルドメンバーの待ち合わせをしている者、観光客、一人でダンジョンへと向かう者など、さまざまである。
「村雨さん。今日からはとうとう200階層を目標に攻略していくんですか?」
そんな男性の言葉に、全身真っ白の鎧を着た高身長の男性は頷いて答える。
「ああ。準備は万全だし、ギルドメンバー全員のレベル上げも行った。誰かが死ぬ心配はないだろう」
「……やっぱり村雨さんは優れたリーダーですね。大規模ギルド【天神ノ峰団】の団長でありながら、世界レベルランキング第二位なんですから」
「それもこれもお前たちメンバーが十分な働きをしてくれているからだ。いつも感謝している」
「いえいえ、そんな」
とその時。
『とある冒険者によりファーストステージがクリアされたため、続いてセカンドステージを出現させます。……繰り返します。とある冒険者によりファーストステージがクリアされたため、続いてセカンドステージを出現させます』
上空から大音量の音声が聞こえてきた。
同時に地震が起こり始める。
「ファーストステージがクリア? なんの話だ?」
白い鎧の男性が眉間にしわを寄せて言った。
「俺たちにもわかりません」
揺れは徐々に強くなっていく。
「きゃーっ! か、階段……大きな階段が地面から出てきているわ!」
どこからかそんな女性の声が聞こえた。
「ほんとだ! なんだありゃ」
「みんな。巻き込まれるぞ、近くにいるやつは避難しろ」
「あの階段。まさか……さっきアナウンスで言っていたセカンドステージとやらじゃねぇのか?」
次々と騒ぎは広がっていく。
白い鎧の男性はメンバーたちを一瞥し、口を開いた。
「お前たちは揺れが収まるまでここにしゃがんでいろ。俺は様子を見てくる」
「いえ、俺たちも行きます」
「そうですよ。団長ひとりでは行かせません」
「……そうか。じゃあついてこい」
天神ノ峰団は、騒ぎになっている場所へ移動する。
全員がたどり着く頃には、もうすでに揺れは収まっていた。
「……なんだこりゃ」
「タイミングといい、おそらくセカンドステージだと思われます」
彼らの目の前には、真っ白の階段が存在していた。
ずっと地下へと続いている。
◆ ◇ ◆
同時刻、人混みから少し外れた所に突如ひとりの少年が現れた。
琥珀川瑠璃である。
彼は何かの力によって、ダンジョンの最下層から地上にワープさせられたのだ。
普通であれば、突然人が出現したことに周りが驚くだろう。
だが騒ぎが大きかったこともあり、瑠璃に気づいたものは誰もいなかった。
「あれ? 俺……さっきまでダンジョンのなかにいたはずなんだけど」
そうつぶやいて辺りを見渡す。
ふいに太陽光が視界に入り、彼は思わず目を細めた。
「太陽ってことは、外だよな? ……あれ? まさかとは思うけど、あの部屋からワープしてきたのか?」
その結論に至るまでには、さほど時間がかからなかった。
「おい、聞いたか? 新しい階段が現れたんだってよ。もしかすると新ダンジョンじゃねぇのか?」
「俺たちも行ってみようぜ」
そんなやり取りをして走って行く二人組。
再び周りを見渡すと、一か所にものすごい数の人が集まっていた。
「新しいダンジョン? ……まあ、とりあえず俺も見に行ってみるか」
そうつぶやいて歩き出す瑠璃。