第三話【東京】
第30階層。
階段を下りてオリハルコンのドアを開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
「は?」
「はい?」
二人は同時にそんな声を上げる。
それも無理はないだろう。
立ち並んでいる巨大なビルやマンション。
交差点。
信号機。
そこは、どこからどう見ても東京の街並みだった。
「ここってダンジョンだよな?」
「え、ええ……。そうだと思います」
「一応魔物が徘徊しているし、ダンジョンで間違いないんだろうけど、どうにも信じられないな」
「なんというか、まるで東京みたいですね」
瑠璃は拳を握り、口を開く。
「次の階層へ行けるかもしれないし、とりあえず地面を掘ってみるか」
「ちょっと待ってください。もしかするとこの階層に天神ノ峰団のみんなが閉じ込められているかもしれないですし、少し探索しませんか?」
「見るからに広そうだからすげぇ面倒だけど……。まあ、確かにその団長とやらを見つけないといけないし、探すしかないか」
「ありがとうございます。別行動にしますか?」
「あー、そうだな。そのほうが効率がよさそうだ。とりあえず30分くらい経ったらここへ集合しよう」
「はい」
そんな会話をし、別々の方向へと走り出す二人。
瑠璃のスタートダッシュの勢いで、アスファルトに大穴が空いた。
「ちょっ、力を抑えてくださいよ?」
そんな月の言葉が彼に届くことはない。
瑠璃は一瞬にして巨大なビルの頂上へ上り、辺りを見渡す。
「うっわ、マジで? 地平線の彼方まで全部街じゃん。……広っ!」
同時に、この範囲を探さないといけないのかとうんざりする瑠璃。
「ま、月と一緒にダンジョンを攻略したいし、やるしかないか。ギルドに所属したまま無言で別のやつと行動し続けるのが、人としてだめだということくらいはさすがにわかるしな」
そうつぶやき、瑠璃は走ってビルの上を移動していく。
◆ ◇ ◆
月は建物のなかを中心に探索していく。
瑠璃がビルに上ったのを見ていたため、彼女は細かい部分を探そうと決めたのだ。
「う~ん、みんながいるとしたらどんな所なんでしょうか……」
電源の入っていないエスカレーターを下り、デパートの地下へと向かう月。
「地上は瑠璃さんに任せておけばなんとかなりそうですし、私はとりあえず地下街を探してみることにしましょう」
彼女が地下街へと移動すると、やはりここも正確に作られていた。
人は一切いないが、売店や通路が確かに存在している。
とその時、一匹の巨大な狼が月に襲い掛かった。
「ガルルル」
「邪魔です!!」
「キャンッ」
月のパンチにより、巨大な狼は一撃でダウンした。
地面に倒れてそのまま動かなくなる。
殴って抉れている部分を見て、彼女はふとつぶやく。
「瑠璃さんなら、きっと跡形もなく消せるんでしょうね」
今の瑠璃が本気で殴れば、風圧で魔物どころか周りの建物まで消滅する。
あの異空間を破壊して脱出するまでに、そのくらい人外な化け物になっていたのだから。
「瑠璃さんさえ協力してくれれば、私ももう少しレベルが上がっていたはずなのに……。まあ、なんの対価も払わずにここまで育ててくれただけでも十分優しいですよね」
そう言って月は微笑む。
「今頃瑠璃さんはビルの上を走っていたりするんでし──ふぐっ!?」
何者かが突然彼女の口元をハンカチで押さえた。
睡眠薬でも入っていたのだろう。
だんだんと意識が遠のいていきながらも、彼女は必死に目を開いて犯人の姿を確認しようとする。
だが地下街ということもあってあまり明るくないため、はっきりと見えない。
「誰、です……」
月はそのまま静かに気絶していった。




