第二十二話【全力パンチ】
そしてとうとう五年後。
「むしゃむしゃ……ゴクッ」
歳をとってもほとんど変化のないかわいい顔に似合わず、月が無言で白竜の肉を貪っていく。
両手で生肉を口に運び、たまに血をがぶ飲み。
「月。お前、出会った頃に比べて男らしくなったな」
「それ……くちゃ、くちゃ……褒めてます?」
「もちろんだ。俺は気を遣わずに本能のまま生きているやつのほうが好きだ」
「そ、そうですか?」
「ああ」
「……でも実際慣れてきたからかはわからないんですけど、魔物の生肉が美味しく感じるんですよ」
「よし……。いきなりだけど、どの魔物の肉が一番おいしいか同時に言おう」
「いいですよ」
「白竜!」
瑠璃だけが先に言った。
「ちょ、一緒に言おうって提案したのは瑠璃さんじゃないですか」
「お前が俺に合わせるべきだろ。で、なんの肉が一番なんだ?」
「間違いなく白竜ですね」
「気が合うな。やっぱり俺と月は似ているような気がするぞ」
「多分誰に聞いても白竜って答えると思います。食感とか味とか、全然レベルが違いますもん。焼いて食べたらもっとおいしいんでしょうけど」
普通ではお目にかかれず、また討伐もめちゃくちゃ困難なだけあって、白竜はかなり美味なお肉であった。
一流のコックが料理した場合、目玉が飛び出るほどの味になるだろう。
一日経てば消えてしまう魔物の肉が市場に出ることはほとんどないが。
「それはともかく、そろそろ挑戦するか」
そう言って瑠璃はドロップ品の布の服を着用していく。
ファーストステージの最初のほうに出てくる敵が落とす物で、彼は大量に所持していた。
「えっ……あの膜ですか?」
「ああ。最後に挑戦したのは半年くらい前だっけ? あの時点でもう少しでいけるような感覚はあったし、今なら壊せそうな気がする」
「それもそうですね」
「というわけで、月はオリハルコンの壁を頼むぞ」
「……えっ? 嫌ですよ?」
「はぁ?」
「だって手が痛いですもん」
「おい、なんのためにお前のレベルを上げたと思っているんだ! 結局100万になるまで寄生していたくせに」
「本当ならもっとやってほしかったんですけど、瑠璃さんがケチなせいで100万で止まったんですよ!」
「最初の約束と全然違うじゃねぇか。ったく、ただでさえ俺のレベルが上がりにくくなってきているってのに」
「そりゃー5000万を超えていたら上がりにくくもなるでしょ。私のせいじゃありませんよ。というか今思ったんですけど、なんでそんなに上がるんですか? どう考えても獲得経験値が私と一緒だとは思えないんですけど」
「ああ、違うぞ」
「ですよねぇ~。って、えぇ!? どういうことですか?」
「俺って独身なのにもかかわらず指輪を付けているだろ?」
「まあ、確かに。……てっきりおしゃれを意識してつけているのかと思ってましたけど、違うんです?」
「意味もなくこんな邪魔なのつけるわけないだろ。正確には覚えていないけど、これは500階層くらいのボスを倒した時に手に入ったんだ。昔見たアイテムボックスの説明欄によると、効果は獲得経験値が二倍になる」
「えっ? めっちゃずるいですね」
「ずるいと言われても、ここにいるということは、月たちのギルドメンバーも誰かが装備しているんじゃないのか?」
「いえ、確かに500階層でボスが出てきましたけど、ドロップ品は何もなかったはずです」
「でも俺は間違いなくそこで手に入れた」
「じゃあ……運ですかね?」
「普段の行いだと思うぞ」
「あー、なるほど。普段の行いが悪いほど出やすいっていうシステムになっていたんですね。そう言われたら確かに納得がいきます」
「おい!」
獲得経験値が二倍になる指輪は、500階層を初めてクリアした人にのみ与えられるものであり、地球には存在しない物質でできたレア装備品だ。
しかし二人がそのことを知る由もない。
「というか早くオリハルコンに攻撃しろ」
「私の攻撃力じゃどうせ無理ですって」
「全部は壊さなくてもいい。ちょっとでも壁を削っておきたいんだよ。月だってそろそろここから出たいだろ?」
「……わかりました。私が手伝うからには絶対に破壊してくださいね」
「おう、任せとけ。ちゃんとパンチの名前も決めたからな」
「それ。絶対に関係ないですから」
「ツッコミはいいから、早くしてくれ」
「なんか腑に落ちないですけど、もういいです。それが瑠璃さんですし」
そう言いつつ、月はオリハルコンの壁へと近づいていく。
そして拳を構え、全力で何度も殴り始めた。
「はぁぁぁ。……ぬうぅぅぅ!! いったぁい。もう無理です」
拳に血を滲ませつつもほんの少しだけ壁を破壊したところで、彼女は横へとずれた。
「よし、あとは任せろ。必殺…………全力パンチィ!!」
そう叫びながら瑠璃が本気で壁を殴った瞬間。
あまりの速度と威力に、空間そのものがねじ曲がった。
オリハルコンの壁が一枚の紙のように破れ、瑠璃の拳が膜を容易く貫通していく。
同時に、この部屋が真っ白に輝き始めた。
「な、なんですか!?」
「知らん」
「ちょっ……なんか光ってますぅ」
「膜を壊せたから、外に出られるんじゃないか?」
「なんでそんなに冷静なんですか──」




