第二十一話【強くなる方法】
更に半年後。
「瑠璃さん!」
鳳蝶月が正座をしながら彼の名前を呼んだ。
「なんだ?」
「一生のお願いがあります。パーティを組んで私のレベルを上げてもらえませんか?」
「おい! この前、一生経験値はいらないみたいなことを言ってなかったか?」
「い……言ってません」
「いや、約束したし」
「それは三次元の考え方だと思います。つまり私は瑠璃さんにレベル上げをしてもらって当然なんですよ。同じ四次元の思考回路にいるのにそんなこともわからないんですか?」
「いや、わからんな。……というかその考え方は俺とは違うぞ。間違えて二次元のほうに下降している可能性がある」
「絶対に違います」
瑠璃は一度「はぁ……」とため息をつき、口を開く。
「仕方ない。もう一度だけだからな」
「えっ!? いいんですか?」
「嫌なのか?」
「もちろん嬉しいんですけど、今までの話の流れからして断られる感じだったじゃないですか」
「これが四次元の思考回路だ」
瑠璃が得意気にそう言うと、月がジト目になった。
「……最近ようやく確信できたんですけど、瑠璃さんって適当に喋ってますよね?」
「適当に喋っているわけではない。でも、考えて喋っているわけでもない」
「何を言ってるんです?」
「四次元の思考回路にたどり着けばわかる」
「いつもそれじゃないですか。……どうせ自分でもわかってないんでしょ?」
「そんなことよりもさ。前から思っていたけどランキングの上位たちって天神ノ峰団? とかいう組織に所属している人が多くない? 月も含めて」
「都合が悪くなった途端急に話を変えましたね。ま、天神ノ峰団は世界一の大規模ギルドですから」
「ふ〜ん」
「私もその一員なんですよ? すごくないですか?」
「俺は自分の力で強くなれる人のほうがすごいと思うけどな」
彼の言葉に月は納得したように頷く。
「うん。瑠璃さんならそう言うと思いました」
「そもそも一人のほうが経験値が全部自分のものになるしな。大規模ギルドとやらは安全で良いかもしれないけど、俺には足を引っ張り合っているだけに見える。現に俺とここまでレベル差が開いているわけだし」
「それは瑠璃さんがおかしいだけなんですよ。……どうやったらそのレベルにたどり着けるのか、興味本位で教えてほしいです」
「ひたすら魔物を殺す。それだけだ」
「知ってましたけど、単純ですね」
「そう。世の中とは本来単純なものなんだ。それをややこしくしているのが知性のある人間たちだと俺は思う。ただ獣のように経験値に飢えて戦い続けていれば、誰でも俺と同じように強くなれる」
「ちなみに、今まで死にそうになったりとかはしなかったんですか?」
「セカンドステージにきて以降はないけど、前のダンジョンでは毎日死にかけていたぞ?」
「えっ?」
「具体的には何があったっけ。……スケルトンの錆びた剣が太ももに貫通した状態で三日間続けて魔物の群れと戦った時とか。あーあと、両腕と片足が折れたまま格上の魔物たちに囲まれた時はさすがに諦めかけたな」
「もういいです。お腹がいっぱいになりました」
「えー。まだまだあるんだけど」
「……瑠璃さんって本当に人間なんですか?」
「俺ほど人間らしい人間もいないだろう」
「多分どこかが壊れていると思います」
「失礼な奴だな。っと、俺の勘によるとあと数秒で魔物たちが復活するから、経験値が欲しいならさっさとパーティ申請をするんだな」
「あ、えっ。ちょっと待ってくださいよ」
そんなこんなで、それなりに楽しくやっている二人であった。




