第二話【最下層】
「もう何階層にいるのか把握できてないけど、そろそろ最下層にたどり着くような気がする」
土でできた階段を前にして、ひとりの少年がつぶやいた。
彼は琥珀川瑠璃、18歳。
ボロボロの布の服とズボンを着用しており、誰がどう見ても弱そうな見た目をしている。
ここはダンジョンの999階層に位置し、人の姿は彼以外に見られない。
だけどもし誰かがいたなら、その異様な光景を見て驚きのあまりひっくり返るだろう。
三頭のケルベロス。
ひとつ目の巨大なサイクロプス。
翼の生えたライオン。
瑠璃の後ろには、およそゲームの終盤で出てくるような魔物の死体が大量に転がっていた。
暗いため土と血の色が判断しにくい。
だが死んでいるのは事実だ。
彼は後ろを振り返り、口を開く。
「この階層の敵は弱すぎて相手にならないし、もっと楽しい戦いがしたいな。……次の階層は強敵がいるといいんだけど」
そして階段を下り始めた。
この世界に突然ダンジョンとレベルシステムが出現し、もう三年。
その間、常に圧倒的な差でトップに君臨し続けた少年。
そう、瑠璃がレベルランキング第一位の正体だった。
世間ではランキング画面のバグや、天才プログラマーによる書き換えではないかと噂されているのだが、そんなことを本人が知る由もない。
なんせ彼はダンジョンが出現して以降、一度も外に出ていないのだから。
ただひたすら魔物を倒し、死を恐れることなく先へ進み続けた。
腹が減ったら魔物を食らい、眠たくなったら床で眠る。
たとえ寝ているところを魔物に襲われても、自分のステータスであればすぐに死ぬことはないと知っていた。
だからすぐにカウンターを入れ、また眠りに落ちる。
システム上、どうやらHPは物を食べたり寝たりすると回復するらしく、今まで瑠璃のHPがゼロになることはなかった。
何度も死にかけてはいるのだが、本人は心が折れるどころかむしろ楽しそうなのだ。
確実にネジが外れてしまっている。
だがそうでもないと、決してここまでたどり着けはしなかっただろう。
階段はすぐに終わり、巨大な青色の扉が視界に入ってきた。
「いつもと違う。……やっぱり俺の勘は当たっていたか」
そう言いつつ、ステータス画面を開く。
【琥珀川 瑠璃 男
Lv10003
HP 25095
MP 50
攻撃力 85050
防御力 20050
素早さ 20050
賢さ 50
幸運 50
『所持スキル一覧』
HPアップ Lv1003
攻撃力アップ Lv9000】
人によって初期ステータスの値は違うのだが、ここまで行くと誤差の範囲でしかない。
たとえばヘビー級のボクサーはレベル1でも攻撃力が200くらいあったりするが、一般人は基本的に50ほどしかない。
だが、誰でもレベルがひとつあがるごとにステータスポイントが10もらえる。
才能なんて努力ですぐに追い越すことができる世界というわけだ。
「たとえ何が襲ってきても、これだけ強かったら負けることはないだろ。途中の階層でレベルを上げすぎたせいで、そこら辺の雑魚敵はもう相手にならないし」
瑠璃は青い扉を開けていく。
やがて視界に入ってきたのは、クリスタルでできたような水色の部屋だった。
全体的に円の形でそこまで広くない。
「なんだこの部屋……」
扉や階段どころか、見た感じ何もない。
「ということは、やっぱりここが最下層なんだな? ……ふぅ、長かった」
彼がそうつぶやいた瞬間、部屋の中心に光が現れ始めた。
思わず目を瞑ってしまいたくなるほど眩しい。
それはだんだん何かの形になっていく。
目を細めつつも、瑠璃はじっと見つめていた。
「あれは……ゴーレムか?」
サイズは三メートルほど。
ラスボスと呼ぶにはいささか力不足に見えるその見た目に、瑠璃は少し落胆したようにため息を吐く。
「はぁ……。最後があんなやつかよ。どうせこれで終わりなんだし、もっと強そうなやつと──っ!?」
相手がいきなり近づいてきた。
見た目とは裏腹に、ものすごく速い。
瑠璃はもろにパンチをくらい、いつの間にか閉まっていた扉に直撃する。
「……いいねぇ、おもしれぇじゃん。精々楽しませてくれよ?」
すぐに立ち上がり、彼は勢いよく走り出す。
迫りくるパンチを紙一重で躱し、硬そうな胴体をぶん殴った。
とてつもなく鈍い音が響く。
「俺の攻撃力をなめんじゃねぇ!!」
ゴーレムは少し怯みつつも、すぐにパンチを繰り出した。
「動きが丸見えだぜ、おい」
瑠璃は笑いながらギリギリで躱し、再び胴体を殴る。
続けて左フックを混ぜ、最後にアッパーで相手を吹き飛ばした。
真上に飛んだゴーレムは天井にぶつかり、すぐに落下してくる。
「どうした? もうおしまいか」
相手は地面に倒れたまま動かなくなった。
少しずつ光の粒になって消えていく。
どうやら戦闘不能になったらしい。
「やっぱり全然手ごたえなかったな。…………はぁ、もう長いこと本気を出せていないような気がするぞ」
瑠璃が残念そうにつぶやいた直後。
『とある冒険者によりファーストステージがクリアされたため、続いてセカンドステージを出現させます。……繰り返します。とある冒険者によりファーストステージがクリアされたため、続いてセカンドステージを出現させます』
どこからともなく機械的な音声が聞こえてきた。
Chapter 1【FIRST STAGE】~ 終 ~
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