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第五十九話【出発】

 翌日の朝。

 

 瑠璃と月は旅立ちの準備をするために町のなかを歩き回っていた。


「他に何を買いますか?」と月。


 その表情はすっかり元通りになっている。

 宿屋でのんびりとした時間を過ごしたことによって、かなり落ち着いたようだ。


「う~ん。おそらくあとは食料だけだと思うけど……」


「珍しく自信がなさそうですね」


「遠足の前とかよく不安になるだろ? あれと同じで、忘れ物がありそうな気がしてならない」


「まあ気持ちはすごくわかります。特に何も忘れていないはずなのに、なぜか不安になるんですよね」


「こういう時の対処法としては、なくてもなんとかなる! って思い込むしかない。実際魔物さえいれば生きていけるしな」


「確かに……」


「というわけで、最後に食料を購入するぞ。ゴールドを残しておいても意味がないから、全部使い切ろう」


「そうしましょう」


 基本的にダンジョンで手に入れた物については、料理であってもアイテムボックスに収納することができる。


 それは昨夜、宿屋で出された夕食で実験済みだ。

 

 アイテムボックスに入れている間は時が止まった状態になるため、ずっと新鮮なまま維持できるのは幸いだろう。

 

 ただし、生きている生物や水などをそのまま収納するのは不可能だ。


 二人はいろんなお店を訪れ、パン、魚、野菜など肉以外の食料を購入していった。

 

 肉は基本的に魔物から調達できるからである。


      ◇

 

 そして次の日。

 

 瑠璃たちは一ヶ月以上の時を過ごしたパルスの町をあとにし、道に沿って歩き出した。

 


 寂れた市街地を進んでいく途中で、月がふいに立ち止まり、

 

「あっ、この井戸でちょこちゃんと出会いましたよね」


「ああ。なんか、昨日のことのような気がする」


「実際は一ヶ月以上前でしたっけ?」


「多分……。時が経つのは早いもんだな」


「年を取ってきてから、ますますそれを実感してます」


「わかる」


「あの、ちょっと井戸のなかを覗いてみませんか? もしかすると新しい仲間がいるかもしれないですし」


「まあ、可能性はゼロじゃないな。見てみよう」


 二人はそんなやり取りをして井戸の前へと移動。

 最初に瑠璃がなかを覗き、

 

「……うん、いない」


「本当ですか?」


「見てみろ」


「…………確かにいないですね。もう一匹くらいかわいい子が欲しかったんですけど」と残念そうに月。


「俺はちょこだけで充分だ。二匹もいたら面倒を見れる自信がない」


「私が見るので大丈夫ですよ。というか、結婚してからもっと瑠璃さんが頑張ってくれていれば、今頃祈の弟か妹がいたのに……どうして二人目を作ってくれなかったんです?」


「何度も言うけど、俺は何かひとつを大切にしたいタイプなんだよ。たとえば、ハーレムとか不倫はめちゃくちゃ嫌いだし」


「ハーレムと子どもの人数は関係ありませんよ。私だってパートナーは瑠璃さんだけがいいですけど、子どもは三人くらい欲しいですもん。なので、やっぱり今日の夜にでも……その……」


「うっ……。よ、よし、そろそろ先に進もう。まだ市街地の先へ行ったことないし、何があるのか楽しみだなぁ~」


 そう言って歩き出す瑠璃。

 

「むぅぅ……。どうして無視するんですかっ!」


 瑠璃は雑念を振り払うように近くを歩いていたちょこを抱っこし、頭を撫で始めた。


「お前はかわいいなぁ~」


「にゃ~ん」


「瑠璃さぁ~ん」



 市街地を抜けると、再び草原が広がっていた。


 高低差があまり存在せず平坦なため、わりと遠くまで見通せる。

 


 30分ほど道なりに歩いた辺りで、分かれ道に遭遇した。


 真っすぐのほうは今まで通り道が続いているのだが、右方向には遺跡のようなものが見える。


「月、提案がある」


「あの遺跡に行きたいんですよね?」


「惜しい」


「惜しい?」


「ちなみにちょこは俺の言いたいことがわかるか?」


「にゃ~ん!」


「うん、正解。お前すごいな」


「いやいや、今のは返事をしただけでしょ」と月。


「俺くらいになれば鳴き声から今現在ちょこが考えている思考を読み取ることが──」


「──結局どんな提案なんです?」


「普通に割り込んできやがった。まあいいか。今からあの遺跡を制覇しよう」


「……じゃあ私の答えで正解じゃないですか」


「制覇と言ってもただのクリアじゃなくて、スピード重視の攻略をしてみたい」


「…………ん?」


「タイムアタックみたいな」


「いや……危ないですよ」


「大丈夫だろ。だって一ヶ月もパルスの町周辺でレベル上げをしていたんだし、現にこの辺の魔物も弱く感じる」


「まあそうなんですけど」


「それに、昔みたいにダンジョンを攻略してみたいっていうのもある。初心忘るべからず!」


「あー、何度も話で聞きましたけど、ダンジョンに潜り始めた頃の瑠璃さんってかなり無茶をしていたらしいですね。どのギルドにも所属していなかったのに、一人だけクリアする速度がおかしかったですし」


「あれはソロだからこそ早かったんだよ」


「普通であれば絶対そんなことはないんですが……瑠璃さんを見ているとそんな気がします。この前のキングバルーンにやられそうになった時とかも、結局一人でなんとかなってましたし」


「そうそう。だからわりと雑に攻略してもなんとかなるってわけだ」


「じゃあ、やってみます?」


「よしきた!」


「とはいっても私は瑠璃さんの邪魔になりそうなので、ちょこちゃんを抱っこして後ろからついていきますね」


「了解」


「あと、絶対に無理だけはしないでくださいよ? 死なれたくないですから」


「その時は二人でヒールをかけてくれ」


「その事態がないようにしてください」


「まあ、頑張ってみる」


 というわけで二人は右方向の道を進み始めた。

【書籍情報】


『ダンジョンでただひたすらレベルを上げ続ける少年』


発売から1ヶ月が経ちました(>ω<)


書籍版では、全ページ大幅改稿に加えて、WEB版では語られなかった主人公【瑠璃】とヒロイン【月】の過去のエピソードをそれぞれ追加しております。


また、イラストレーターのねいび先生が手掛けられた素晴らしい口絵や挿絵もありますので、興味のある方はぜひ!

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