第五十二話【猫の名前】
瑠璃は両手で猫を持ち上げ、顔の前に持ってくる。
「ひとつ聞く。お前は敵か?」
「にゃ~ん」
「僕は悪いねこじゃないよ! だって?」
「にゃ~ん」
「そうかそうか。かわいいやつだな」と猫を頬に擦りつける。
「ちょっと!! 一人ばっかりずるいですよぉ~!! いつになったら上がってくるんですかっ」
頭上から月の声が聞こえてきた。
「すまん、あと一時間くらい待っててくれ」
「だめです、早くしてください!」
「はいはい」
瑠璃は猫を頭の上に乗せ、
「おい、落ちるから絶対に動くなよ?」
「にゃ~ん」
「素直でよろしい」
それから瑠璃が上へ戻ってきたのと同時に、月が猫を抱きかかえた。
「あなたは猫ちゃんですか?」
「にゃ~ん」
「にゃ~ん」と真似をする月。
「さて、とりあえず町に帰るか。そろそろ戻り始めないと途中で夜になるぞ」
「あ、そうですね。この猫ちゃんを守りながら野営するのは厳しいかもしれないですし」
「ああ」
瑠璃と月は市街地をあとにし、草原を道なりに戻っていく。
その途中で、
「あの、瑠璃さん」
「ん? こいつの名前を決めたいのか?」
「よく私の言いたいことがわかりましたね」
「まあ俺も同じことを考えていたからな」
「私が名付けてもいいですか?」
「名前による」
「じゃあ……ねこちゃん!!」
「いや、さすがに普通過ぎるだろ。却下だ」
「……ですよね。正直あまり考えずに言いました」
「かわいいと思うなら、もっと真剣に考えてやれよ」
「う~ん」
月はたっぷり一分ほど悩み、
「ココア!」
「う〜ん……。なんかピンとこないから、ニャンちゅ〇だにゃ~ん! なんてどうだ?」
「怒りますよ? まともに考えてください」
「お前もな」
「私はまともでしょ!?」
「それなら、たぬき型ロボットってのは?」
「ぼくはたぬきじゃな~い! ……ふざけないでもらえます?」
「一応乗るんだな」
「シロなんてどうでしょう?」
「あえてクロは?」
「モモとか、かわいいと思います」
「おしり!」
「プリンもいいですよねぇ」
「パンティ!」
「色的にミルクとか……」
「おっ、パイの実!」
「…………」
月は彼にジト目を向ける。
「わるかったよ。謝るからそんな顔するなって」
「邪魔なのでもう意見を出さないでもらえます?」
「……うん、俺も途中からそのほうがいいような気がしてきた」
月はその後も真剣に考え続け、町に到着する直前でようやく猫の名前を【ちょこ】に決めたのだった。




