第五話【車内】
次の日。
瑠璃たち一行は、車に乗ってデスティニーランドへと向かっていた。
運転席にはすっかり白髪だらけになった父親。
助手席に、しわが増えているものの整った目鼻立ちの母親。
後ろに瑠璃、祈、月。
そして最後尾に弟の吹雪と、その嫁。
合計で七人乗っている。
「にしても瑠璃、いくらなんでも突然すぎるだろ。お前のせいで残り少ない有給休暇を使っちまったじゃねぇか!」
父親が振り向くことなく言った。
「別にいいだろ。というか、昔俺が渡した金塊やらを売って大金を手に入れているんだから、もう働かなくてもいいんじゃないか?」
「そうは言ってもなぁ。実際仕事をしていたほうが楽しいんだよ」
「あぁ……。それは、なんかわかる気がしなくもないな」
「だろ?」
「兄さん。本当にこういうことは前もって言ってくれないと困るよ。今日は大事な会議があったのに……」
27歳となった弟の吹雪が、困ったような表情で愚痴を漏らした。
それなりに大人びた顔つきで、正直瑠璃と同い年かそれ以上に見える。
「細かいことは気にすんな。しょうもない中小企業の会議よりも、祈のお別れ会のほうが大事だろ?」
「それはそうだけど……。紫苑もバイトを休むために昨日の夜、店長に電話で怒られていたし」
「そうなのか?」
瑠璃の問いかけに、吹雪の嫁は笑いながら答える。
「あはは、別にウチはいいっすよ。むしろ休む口実ができてラッキーって感じ」
「おー、お前やっぱりノリいいな。吹雪も見習ってほしいものだ」
「ほんと……。ウチの旦那ときたらいつも真面目で、ちょっと面白みにかけるんっすよねぇ。ま、そこがいいところでもあるんだけど」
金髪で活発そうな見た目の彼女が、吹雪の頬をつつきながら言った。
「紫苑は逆に不真面目すぎるんだよ!」と吹雪。
「でも瑠璃さんって、やっぱりいつ見ても若いしかっこいいっすよね。本当に50代なんすか? 一度でいいから二人でどこかに出かけてみたいっす」
そんな紫苑の言葉を聞いた途端、月がむっとした表情を浮かべる
「いつもいつも瑠璃さんを誘わないでください! 怒りますよ?」
「じょ、冗談じゃないっすか」
「月の言う通りだ。俺はお前みたいなヤンキーと出かける気はない。諦めろ」
「誰がヤンキーっすか!」
「そんな時間があるなら、一秒でも長く月といたいし」
「ふふっ、私もですよ」
「はぁ。相変わらずのバカップルっぷりっすねぇ~。……あの、吹雪さん。ウチも吹雪さんと一秒でも長く一緒にいたいっす」
紫苑が目を輝かせながら言うと、吹雪は顔を赤くしてそっぽを向く。
「う、うるさい! 恥ずかしいからやめろ」
「あはは! 照れてる」
「照れてない。兄さんたちの前でそういうことを言うな」
「……じゃあ、二人きりの時だったら……OK?」
「うっ…………ああ」
「なんだかんだ言いつつ、お前らも仲いいよな」
「兄さんたちほどではない」
「瑠璃さんと月さんには敵わないっす」
吹雪と紫苑は同時に返答した。
とそこで母親がこちらを振り返り、口を開く。
「そういえば祈くん。どうして急に異世界へ行こうだなんて思ったの?」
「あ、それは俺も知りてぇなぁ」と瑠璃の父親も便乗。
「ウチも聞きたい」
「僕も興味がある」
「俺は知っているけど、もう一度聞いておきたい」
「私もです!」
「えぇ……。そんな全員に注目されたら恥ずかしいよぉ」
祈は下を向いてしまった。
「大丈夫よ。笑ったりしないから」と母親。
「ほんと?」
祈が首を傾げて尋ねたのと同時に、瑠璃の父親が笑いながら言う。
「がはは! どうせあれだろ? エルフとか猫耳美少女を侍らせてハーレムを楽しみたいんだろ?」
「あなたは黙っててください!」
「えっとね。僕……昔からずっと、このまま退屈な人生を送るくらいなら、死んだほうがいいって思ってたんだ。……みんなに心配をかけたくなかったから、言わなかったけど」
すると、一気に車内が静かになる。
「……ん? 言っていることが昔の瑠璃とそっくりだな」
最初に口を開いたのは父親だった。
「えぇ、そうね。瑠璃もそんな感じのことを言ってダンジョンに向かったもの」
「それで昨日お父さんに相談したら、異世界に行く方法があるって言われて……。やるならなんでも早いほうがいいかなと思って」
祈の言葉に、父親は頷き、
「その行動の早さも昔の瑠璃と一緒だ」
「とにかく僕は、生きていると実感できるような場所で一生を過ごしたい」
「かっこいいっすね」
紫苑が感心したようにつぶやいた。
続けて吹雪も、
「うん、いいと思うよ」
他の全員が納得したように頷いているなか、瑠璃の母親だけは心配そうな表情をしていた。
「瑠璃はともかく、月さん。……あなたはそれでいいの?」
「えっ?」
「私もお腹を痛めて産んだ子をダンジョンへと行かせた経験があるからわかるけど……、辛いでしょう?」
「…………いえ、大丈夫です! 私は祈を信じてますから、この子のやりたいようにやらせます」
昨日とは打って変わり、月は満面の笑みを浮かべて返答する。
それが無理をして作った笑顔だということに、瑠璃と母親だけは気づいた。
しかし二人ともそれを言及しようとはしない。
「……そう。あなたがそれでいいなら」
「はい」




