第三話【家族旅行】
「まさか祈がそんなことを言い始めるなんて……。誰に似たんでしょうか」
「月だろ」
「絶対に瑠璃さんですよ!」
「ま、それはともかく、俺は別にいいと思うぞ。たとえ親であろうと、子どもの人生を強制する権利なんてないし」
「……でも、今まで大切に育ててきた息子をわけのわからない異世界に送るなんて、正直不安です」
「祈なら大丈夫だって。これでも俺の血を引いているからな」
「とりあえず神様に尋ねてみませんか? もしかすると無理って言うかもしれませんし」
「あー確かに。……おい、地球の神様! 聞こえているか?」
瑠璃が上を向いてそう言うと、少しの間が空いたあとでどこからともなく声が聞こえてくる。
『んん? 呼んだかの?』
「おっ、本当に返ってきた」
「私、てっきりもう通じないかと思ってました」
「……えっといきなりで悪いが、お前って人間を魔法や魔物が存在しているような異世界に転移させたりできるのか?」
『それは、最後の願い事を使って質問するということか?』
「いや、違うから。その最後の願いを使うかどうかの判断をするために聞くんだよ。スーパーとかでも無料で試食とかあるだろ? あれと同じだ」
『相変わらず自分勝手じゃのぅ。まあこれでようやくお主との契約も終わりじゃし、今回だけ特別に教えてやろう。結論から言えば、異世界転移は可能じゃ』
「おぉー……。やっぱりお前すごいな」
『だが、最近の日本で流行っておるチート能力を授けたりするのは無理じゃぞ? バランスを崩す原因となって、向こうの異世界の神に文句を言われるのは嫌じゃからのぉ』
「だってさ。それでいいか? 祈」
「うん。むしろ自分の力だけで生きてみたい」
「よく言った。さすがは俺の娘だ」
「息子だって!」
『それで、もう異世界転移はするのか?』
「僕はいつでも──」
「──いや、もう少しだけ時間をくれ」
祈の言葉を遮った瑠璃は、二人を交互に見ながら続ける。
「月、祈。明日の朝から一泊二日の旅行に行くぞ」
「えっ?」
「旅行って……。突然ですね」
「最後に思い出作りというか、月だっていきなり子どもと別れるなんて気持ちの整理がつかないだろ?」
「私としては異世界になんて行ってほしくありませんけど」
「それも含めてこれから家族で相談しよう」
「…………はい」
月は納得していないような表情をしつつも頷いた。
「というわけだから、あと二日ほど待ってくれるか?」
『了解じゃ。また呼んでくれ』
「悪いな」
『そんなの今更じゃよ』
その言葉を機に神様の声は聞こえなくなった。
瑠璃はパンを食べながら、
「祈。先生は俺たちが誤魔化しておくから、友達には自分で上手いこと伝えろよ?」
「あ、うん。わかった! ご飯を食べ終えたら直接会いに行ってくる」
「荷物の用意だったり、バイトのキャンセルだったり、今日の夜は忙しくなりそうです。瑠璃さんもちゃんと準備を手伝ってくださいね?」
「了解。今夜は本でも読んでのんびりしておくから、頑張ってくれ」
「えっ……何を了解したんですか!?」
「冗談だって。まずは旅行先を決めないといけないし、宿もとらないとな」
瑠璃はステーキの最後の一切れを口に運んだ。
「で、二人はどこに行きたい?」
「僕はマチュピチュを見てみたいな」
「私は……強いて言うなら、メキシコのカンクンにあるリゾート地に行ってみたいです」
「お前ら絶対二日で帰る気ないだろ。まあ別にそれでもいいんだけどさ。せっかく家族全員で行ける最後の旅行になるわけだし、俺の父さんと母さんと弟たちも一緒に行けるような国内にしないか?」
「それもそうですね……。ちなみに瑠璃さんはどこへ行きたいんです?」
「東京デスティニーランド!」
「あ〜。これはまた、かわいいところを出してきましたね」
「実はまだ一度も行ったことないんだよ。若い頃からずっとダンジョンに潜っていたおかげで修学旅行も参加しなかったし」
「そういえば私もです。じゃあそこにしましょうか。……祈もそれでいい?」
「うん。お父さんとお母さんが一緒なら、僕はどこでもいいよ」
祈が頷いて言った。
「さて、俺は今から父さんたちに事情を説明してくる」
「あ、瑠璃さん。ちょっと待ってください」
椅子から立ち上がって歩き出そうとした彼を、月が引き止めた。
「ん?」
「今ふと思ったんですけど、ホテルの予約……今からじゃ絶対取れませんよ?」
「…………確かに」
「日帰り旅行みたいな感じにします?」
「いや、異空間ホテルの予約なら絶対に取れるから、デスティニーランドで遊んだあとに移動して一泊しよう」
「異空間ホテル? ……って、ここじゃないですか!」
「やっぱり最後は自宅が一番だよな。露天風呂もついているし」
「まあ……そうですね」
「うん。僕も他のホテルより、ここがいいな」
「よし決まりだ」
その後三人は明日に向けての準備を済ませ、いつもより早く寝ることにした。




