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⑦ある男の独白

 彼女に出会ったのは半年ほど前だ。

 サファイア王立学園の二学生だった私は、昨年と同じく夏の長期休暇で自国へ戻っていた。


 馬車で王都へ向かっている最中、ぬかるみに車輪を取られて、立ち往生した。しかも、主軸ごとポッキリ折れてしまったので、大規模な修復が必要になる。

 周辺の貴族に馬車を借りる事も考えたが、今の時期、ほとんどの貴族は避暑地で過ごしているので、無駄足になる可能性が高い。

 本来であれば、護衛の馬車が付くはずだが、あまり騒がれたくなかったので、単独で向かったのが仇となった。

 幸いそれほど距離もないので、馬に慣れている従者を、王都へ向かわせた。


 途中、他の馬車が通れば、話を通すことも出来るし、万が一、夜を明かす事になっても問題はない。

 夜盗が出たとしても、剣の腕には自信があったので、恐れることはない。


 立ち往生からしばらくして、他の馬車が近づいてきた。

 中から出てきた若い男には見覚えがあった。


(あれは、ロロルコット伯爵家のご子息、ユージーンだな。パーティーで何度か挨拶をした事もある。いつもおどおどしていて、目も合わせてくれないが。まぁ無害なタイプだ)


 ユージーンは恭しく自分の馬車へ乗せてくれた。


 話している最中も、青くなったり赤くなったり、まるで小動物だなと思った。

 なんとか、気の利いた会話でもないか、考えている様子だった。

 しばらく黙ってみようかと考えたが、可哀想だったので、家族の話題を振ってみた。


 ロロルコット家には、確かデビューが近いご令嬢がいたはずだ。

 アレンスデーンの女子貴族は、まだ小さい頃から、お茶会やパーティーに参加して、社交を深める。

 うちの娘をぜひにと紹介される事は日常茶飯事だし、パーティーの招待状や似姿の絵は山のように届く。


 ロロルコット伯爵も挨拶ついでにか、いつもデレデレと娘の話をしてくる。ではパーティーにでも連れてくればいいと言おうとすると、食い気味に、しかし体が弱くて!病弱で!外へ出られないんですよ!と言われる。

 軽く断られるような事は初めてで興味を持った。


 伯爵の話だと、可愛くて可憐で純情そうなタイプなのだろう。


(ちょうどこの目の前のユージーンを、少女にしたような感じか。伯爵は再婚だか奥方とは遠縁にあたるらしいからな)


 一晩世話になることになり、伯爵家に着くと、すでに屋敷の者達が集合していた。


 直ぐに人の良さそうな顔のロロルコット伯爵が近づいてきて、恭しく挨拶をした。


 奥方は想像通り、ユージーンによく似ていた。



 しかし、彼女、


 リリアンヌは想像とは違った。


 父親譲りの金髪は流れるシルクのように美しく、すみれ色の瞳は少し垂れぎみで、しっとりと濡れていた。

 唇は、咲きたての薔薇のように、鮮やかで瑞々しく柔らかそうだ。

 陶器のように白い肌に、少し赤みをおびた頬、完璧だった。


 後は、まぁ、男のさがなのだが、

 リリアンヌは修道女のような首の詰まったドレスを着ていて、

 その禁欲的なドレスから、はち切れそうな胸と、折れそうな腰、丸いお尻…


 部屋までの案内はリリアンヌがしてくれたのだが、ついつい目がいってしまうので、算術の公式を頭のなかでずっと繰り返していた。


 確かに伯爵が自慢したくなるのも分かる。ただ方向性がおかしいような気がするが。


 その愛らしい声にも、聞き惚れていたら、さっさと出ていこうとしてしまったので、慌ててパーティーに誘った。

 伯爵を通すと、断られそうだったからだ。


 やはり、本人はどうも不服そうな、あまり良い表情はしていなかったが、その場にいた侍女が反応した。

 こうなれば、間違いなく来てくれるだろう。


 聖女というより、傾国の美女、パーティーまでにあらゆる情報を集めることにした。



 □□□□□□□□□□



 今まで出席したパーティーは三回。

 どれも、ロロルコット伯爵主催のものだ。

 パーティーの最中も目立たずに、隠れるようにしていたらしい。

 一度、酔った男数人に、暗がりに連れ込まれたが、全員護身術で倒したそうだ。令嬢らしからぬところもなかなか良い。

 これといった友人はおらず、ほとんど家にこもっている。

 8歳の時、大病をしたが、それ以来医師にかかる事はほとんどなかった。

 本人は目立つのがとにかく嫌いらしく、心配性の伯爵がそれに乗っかって、外に出さなかったようだ。


 調査結果を見ても、にわかに信じがたかった。

 あの、溢れ出す美しさと色気で、よく今まで手付かずでいられたものだ。

 幼い頃は、ロリコン年寄り貴族から、求婚があったそうだが、当然伯爵がはね除けている。


 パーティーがますます楽しみになった。


□□□□□□□□


 パーティーでは、事前に男性達にリリアンヌに声をかけないように、圧力をかけておいた。

 おかげで、皆、遠巻きに指を咥えて見ていた。


 客相手にちょっと手間取っている間に、ローリエ公爵令嬢と親しげに話しているのにムッとしたが、良い話が聞けた。やはり、同性には話しやすかったのだろう。


 その後、ダンスに誘うと、あからさまに顔をしかめたが、強引に連れ出した。

 ダンスはなかなかだったが、明らかに場数が足りないので、時折緊張で震えており、あまりの愛らしさにそのままさらってしまいたくなった。


 ダンスの終わるタイミングで、紳士らしく宣言しておく。

 目を白黒させて固まっていた。

 とどめにウィンクしてみると、ライオンに睨まれた蛙のように、飛び跳ねて逃げていった。


 あぁ、可愛らしい。


 あんな体して、なんて可愛らしい人だ。



 そこからは、少々強引に婚約まで持ち込んだ。


 手紙のやりとりも、ますます興味深かった。

 読み返して何度も笑ってしまい、同室のやつに気持ち悪がられた。




 冬が終わった。

 やっとリリアンヌが学園に入学してくる。


 退屈だった学園生活に、色がついたように浮かれた気持ちになる。



 あぁ待ち遠しい


 早く会いたい



 □□□□□□□□□□


今回はひとりごとでした。


糖度高めを目指して。

次回は久しぶりの再会です。


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