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⑪パーティーは薔薇色で

 あっという間に、婚約祝いのパーティーの日が来てしまった。


 各国からのゲストが、何日も前から集まり始め、王宮は人数も増えて、賑やかを通り越して、騒音レベルのてんてこ舞いだ。


 まだ結婚式ではないので、各国の出席者も王子や王女だけなど、人数が絞られているが、そのお付きの者達を入れると、かなりの人数でどっと移動してくる。


 王宮だけでなく、貴族街の宿舎なども開放して、王都全体で迎え入れる態勢がとられた。

 もちろん、商人達にはビジネスチャンスである。どこもかしこも、人で賑わい、宴が繰り広げられていた。


 会場となる、王宮の催事用の建物では、入り口から幸せの色とされる、ブルーを基調とした、花や、様々な装飾品が飾られて、豪華でありデザイン性のある作りとなっていた。



「無理よ!こんなの!」


 王宮の一室で、悪役令嬢さながらに、リリアンヌは大きな声で叫んだ。


「今さら何を仰っているのですか、私は確認しましたよ。やっぱりこちらのデザインにしてもよろしいですかと」


 あの、ドレスの最終チェックの日、リリアンヌが着たのは、薄いブルーのシンプルなドレスだった。胸元が開きすぎているところだけ気になったが、地味だ地味だと言われたので、それでも冒険して納得したのだ。


 しかし、パーティー当日、ティファがドレスルームに用意していたのは、真っ赤なドレスで、黒のレースまで付いていて、ハートオブクイーン状態のド派手なものだった。


「私とエミリーはこちらがオススメだったので、リリアンヌ様に確認を取りましたが、()()と仰っていたので、こちらに決定したのです」


(あぁ、そういえば、よく聞いていなくて適当に返事したような気が……)


 ちなみに胸元はこれでもかと空いていて、露出狂レベルである。


「そんなぁ…恥ずかしい…これはゲームのリリアンヌよ…絶対ポロリするよぉ…」


「泣かないでください。こちらもプロですから、そのような事がないように、事前にリリアンヌ様の型を作って検査済みです!際どいところで、しっかり止まる、最新の技術を駆使して作っております!」


(なんだその最新技術は……)


「リリアンヌ様、元気を出してください。このドレスが一番お似合いになりますよ。白いお肌に赤色がよく映えますし、ブロンドに、すみれ色の瞳は、本当に美しいですから、このドレスに負けません!」


 エミリーまで参加して、説得が始まってしまったので、もう着る以外の選択肢がなくなってしまった。


「えーい!分かった!これでいくわよ!やってやろうじゃない!!」


 きゃー!と喜んで、手を叩いているティファと、エミリーを見ながら、リリアンヌはもう身を任せるしかなかった。



 □□□□□□□


 ティファだけでは、手が足りないので、他の手先が器用なメイドも総動員された。

 ドレスに負けないようにと、髪はくるくるに巻かれるし、えらい時間がかかって、途中から記憶がない。

 なんとかギリギリ時間に間に合ったようだ。


「素晴らしい出来だわ!最高傑作です!」


 最後は手伝ってくれた、みんなに手を叩かれて送り出された。


「リリアンヌ様!お早く!こちらです!時間が押しています!」


 もう既にヘトヘトで、これから何百人と挨拶するのかと思うと、気が遠くなりそうなのだが、もう逃げることはできない。


 パーティー開始は正午、会場に入ってきた順にひたすら挨拶を繰り返す。

 それを夜にかけて行い、最後はダンスタイムでみんな楽しく終了という、ざっくりした流れだ。


 会場の後方から中へ入ると、フェルナンドとロイスが話している後ろ姿が見えた。


「フェル…ナンドぉ…、ごめん、はぁはぁ、お待たせ…はぁはぁ…」


 ここまで来る間に、時間だ時間だと言われて、マラソン並に走らされた。顔は熱くて湯気が出そうだし、息が足りなくて、言葉が出てこない。


 振り返った二人は、ぎょっとした顔になり、顔を赤らめて、二人してこれはだめだと言い始めた。


「だっ誰だ、リリアンヌにこんなドレスを着せたのは!?」


 エミリーが評したように、白い肌に真っ赤なドレスはよく映えて、黒いレースが妖しげな色気をより引き立たせる。

 つまり、本人は避けていたのだか、こういったセクシードレスこそ、リリアンヌが一番輝くのだ。女性陣はそれを見抜いて絶対着せようと画策したのだ。

 しかし、その色気は本領発揮で抜群の破壊力。

 若い男性なら、目が合っただけで、トイレに駆け込んでしまうだろう。


 しかも今は、走ってきたので、頬は上気してピンク色に染まり、苦しそうな息が想像を掻き立てる。


「これは、だめだ!絶対だめだー!こんなリリアンヌ、誰にも見せたくない!」


「それは同感です」


「ん?」


「誰か!代わりの物を用意できないのですか?」


 ロイスの掛け声に、飛んできたメイドは、リリアンヌのサイズが特注なので、他にパーティーで披露できるような品で、合うものがないと伝えた。


「はぁー!やっと、声が出るようになってきた。もういいわよ、フェルナンド。ほら、あなたが上下黒でタイが赤だから、きっとそれに合わせて作られたのよ」


 黒髪に黒の上下の洋装、タイだけ赤でポイントになっていて、シックでカッコいい装いだ。フェルナンドにピッタリ合っていた。


「ないなら、仕方ないですね。もうお集まりの方もいらっしゃいます。そちらを優先して始めましょう」


「だめだだめだだめだだめだーー!!!こんなリリアンヌ、どこかに閉じ込めておきたいくらいなのに、絶対嫌だーー!!誰にも見せたくないーーー!!」


 大人の判断をしたロイスと違い、フェルナンドは頭を抱えて駄々をこねている。

 みんなの視線がリリアンヌに注がれた。


(なっなに?どうしろって言うの!?)


 さりげなく寄ってきたロイスがリリアンヌに耳打ちをした。

 戸惑うリリアンヌに、顎を動かして催促した。


「フェルナンド…」


 恐る恐る声をかけると、フェルナンドはチラリと顔を上げた。


「…お願い、あなたのために着飾ったのよ。どうか機嫌を直してください」


 最後のほうが棒読みになったが、フェルナンドは姿勢を正した。


「……分かった。リリアンヌがそう言うなら、血の涙を流して我慢しよう。その代わり、招待客の方は見ないで体ごと私の方に向いてくれるかな」


「んな!そんな事できるわけないでしょう」


「ロイスに言わされた言葉で、私の機嫌を治そうとするなど、リリアンヌはまだまだ甘いな」


「あー!分かってて、からかっているのね!」


 二人で揉み合いになって、騒いでいると、扉が開かれ、招待客の名前が呼ばれて次々と入ってきてしまった。ロイスの強行策だろう。


「ほら、ちゃんと挨拶しよう。私達の婚約祝いのパーティーでしょう」


 リリアンヌが手を伸ばすと、フェルナンドはその手をとり、軽く口づけした。


「仰せの通りに。私だけのプリンセス」


 こうしてやっと、パーティーは始まった。



 □□□□□□□□


 各国の賓客達との挨拶の時間も、順調に過ぎていった。


 挨拶と言っても簡単なもので、おめでとうございますと言葉をかけられて、笑顔で頷くというシンプルなものだった。

 フェルナンドが、親しい方と話すことはあっても、基本、リリアンヌが言葉を交わすことはほとんどない。


(フェルナンドってば、全部覚えろなんてリスト渡したくせに!さっきから、どうもと、ありがとうございますしか言ってないし!)


 リリアンヌが、話しかけられたときも、後ろでロイスがフォローしてくれるので、気楽なものだった。ずっと笑顔でいるのも辛いものもあるが。


 次はサファイア王子アルフレッド様と、紹介が入り、見慣れた顔がやってきた。


「この度は、ご婚約おめでとうございます。フェルナンド様とは私も長きに渡り友好な関係を築いており、この関係は、やがては、両国の未来に繋がると信じております。サファイア国を代表して、お二人の未来と幸せを心よりお祈り申し上げます」


 アルフレッドが王子様らしく、堂々と祝いの言葉を述べた。


(いつもおバカキャラだけど、こうしていると、金髪碧眼で絵本に出てくる王子様だよな)


 そんな調子で、ローリエのような友人であっても、お礼を言って微笑むだけで、私的な会話は出来ず、すぐ次の方が呼ばれていった。


(仕方ないよね、人数多いから)


 昼食を食べる暇もなく、夜の闇が訪れる頃にやっと、全ての招待客との挨拶が終わった。

 もちろん、挨拶が終わった方々は、食事やお酒を楽しんでいる。


「お腹が空いた…喉も乾いた…もう疲れた…死にそう」


「大丈夫?リリアンヌ、この後、ダンスだけど、少し時間があるから休憩しよう」


 さすがフェルナンドは、王族の行事には慣れている。汗ひとつかいていない。


「良かった…甘いものも…食べたい…」


 フェルナンドに抱き抱えられながら、控室へと運ばれた。



 □□□□□□□


「ううう…もう…十分です」


「いや、まだ左が終わっていないよ」


 夜のダンスパーティーまでの時間の控室。

リリアンヌの足元でフェルナンドが、足をマッサージしてくれていた。


「まさか…王太子殿下に、足のマッサージをしてもらうとは…刑罰が下りそう」


 ずっと立ちっぱなしだったので、リリアンヌの足はつってしまい、控室に来てすぐ、フェルナンドに椅子に座らされたのだ。


「ふふっ刑罰なんて、何を言うのだか。これは婚約者の役得だよ」


 そう言ってフェルナンドは、マッサージというより滑らかな手つきで、足を滑らせて、スカートの中を進んでいく。


「え…?何を……?されているのですか?」


「ふふっ、リリアンヌが刑罰を受けるのなら、私も受けようかなと思ってね」


「ちょっ…くっっくすぐったいです!まって…フェルナンド…?」


 目が合うと、フェルナンドはもう片方の手で足の先を持ち上げて、口元に寄せてキスをした。


「リリアン……」


「リリアンヌ様ーーーーーー!!!!」


「ぐお!!」


 ドカドカ扉を叩く音がして、ティファの声が響いた。


「お取り込み中失礼しますが!ダンスパーティ用に身支度を整えないといけません!ギリギリまで待ちましたが、もう限界です!」


「あぁ、そうなの。分かったわ……って!フェルナンドどうしたの!?」


 足元にいたはずのフェルナンドが、床に転がっていた。


「あっ!!もしかして!」


 驚いた拍子に、足をぐわっと伸ばしてしまったのだか、その時、足で何か蹴り上げた感触があったのだ。

 案の定、フェルナンドは顔の辺りを押さえていた。


(まずいー!顔蹴っちゃったよー!)


「…大丈夫だ、全く問題ない…、ちょっと顎を強打しただけで、そうこれは刑罰が下ったんだ」


「何を仰っているんですか!手当てを…!」


「リリアンヌ様、もう待てません!縄で縛ってでも連れていきます!」


 待ちきれなかった、ティファが乱入してきて、ややこしい事になった。


「でも、フェルナンドの手当を、冷やすとか…」


「ティファ待ってくれ!リリアンヌを縛るのは…私の役得で……」


 ティファは、フェルナンドを完全に無視して、リリアンヌを捕まえて連れ出した。


「リリアンヌ!また後でー」


 背中でフェルナンドの声を微かに聞いて、リリアンヌは第2ラウンドのため、準備に入るのであった。



 □□□□□□□□


今回はまったり回で。

次回リリアンヌの気持ちが動き始めます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 床に転んだフェルナンドの顔を踏む…? フェルナンドくん、リリアンヌのスカートの中見ちゃってませんよね?痛がってるから見てないかな???大丈夫…かな?
2020/06/09 20:03 退会済み
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