①消えたローリエ
招待状はシンプルなものだった。
名前と、ぜひ二年の校舎にお越しください、お待ちしておりますとだけ記されていた。
(こんなに分かりやすいワナがあるのか。誰がいくかよ!)
何かの証拠になるかもしれないので、一応持っておくことにしたが、まるで主人公が手紙を受け取る話のようで気味が悪い。
もしかしたら、他の貴族達はこの方法で勧誘されたのかもしれない。ローリエも招待状を受け取ったかどうか聞いてみようと、リリアンヌはローリエを探しに教室を出た。
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「いない…」
思い当たる所は探してみたが、ローリエの姿はいっこうに見つからない。
ついには、ユージーンにも、参加してもらい、日暮れを過ぎて、暗くなるまで、あちこち見て回ったが、やはり見つからなかった。
先に帰ったのかと部屋を訪ねたが、一度も帰って来ていないとメイドも慌てていた。
翌日、自習状態の教室で、ローリエの姿はなかった。
ぽっかりと空いた席を見つめて、リリアンヌはどうしたらいいのか全く思い付かずにいた。
そんな時、エレーナが声をかけてきた。
「リリアンヌ様、私見たのです。ローリエ様は、見知らぬ者から手紙を受け取っていました。ローリエ様はそれを見て招待状だと言っていらっしゃいました。私、危険だとお止めしたのですが、リリアンヌ様には黙っておくように言われまして…」
「それいつのこと!?」
「一昨日の帰りです。私を宿舎まで送っていただく途中で、見知らぬ者からローリエ様だけ声をかけられました」
(どういうこと?なぜ私に話してくれなかったの。心配をかけたくなかったから?昨日調べることがあると言っていたのは、そのことだったの…)
「教えてくれてありがとうエレーナ」
「気を落とさないでください。きっとすぐ戻られますよ」
(どうしよう、どうしたらいい…ローリエを助けに二年の校舎へ行かないと。どうやって侵入しようか?それに行くにしても、まずアルフレッドに相談しないと)
その時、タイミング良く、教室の入り口にユージーンが現れた。
「姉様!アレックス・グリーンが見つかったよ。談話室に集合!」
すぐに、エレーナとエリザベスに声をかけて、一行は談話室に急いだ。
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「結論から言うと、やはり二学年の校舎にいるらしい。しかし幽閉されているわけではなく、本人の意思だそうだ。俺もまだ直接本人に確認したわけではないが、探っていたら友を名乗る人物から接触があった」
「それはまた、怪しいですね」
「今のところ手掛かりはそれだけ。その友人の手引きで、アレックスに今日会うことになった。場所は道具室だ。こっちの校舎だからこちらも動きやすいし危険も少ない」
「その、アルフレッド様お一人で会われるのですか?」
エレーナが心配そうにアルフレッドの袖に触れる。
「いや、フェル兄さんと一緒だ。向こうが指定してきた。上司だからな、謝る気持ちがあるのかもしれない」
フェルナンドもと聞いて、胸が苦しくなった。
「私も一緒にいてはだめでしょうか。ローリエが消えてしまった事もあってどうしても心配で」
「ローリエの事は聞いたよ。すぐに探してやりたいところだが、まずはアレックスから何か証言が取れないか確かめる必要がある。申し訳ないが向こうもかなり慎重になっていて、人数が増えるのはヤバいんだ。ここは辛抱して俺たちに任せてくれ」
「分かりました。どうかお気を付けて、良い報告を待っております」
何もできない事に気持ちは落ち込むばかり、ユージーンに肩を支えられて何とか足元を落ち着かせるので精一杯だった。
一同は解散し、教室でそれぞれ待つことになった。
(あっ、招待状のこと言い忘れた)
戻ってから思い出したが、今さら誰も気にしないだろう。
教室内の人数は減ってばかり、だいぶ少なくなった。
信者として行ってしまった者もいるが、宿舎に残って登校せずに事態が収まるのを待つ者がほとんどだ。
(あーーー!気になる。もうずいぶん時間がたったけどどうなったの?)
エレーナもやきもきしているかと見てみたが、席にはいなかった。
いつも一緒にいるはずのエリザベスは机に突っ伏して寝ている。
「エリザベス!!エリーナはどうしたの!?」
慌てて揺り起こしてみると、エリザベスはゆっくり目を開いた。
「ん…あ…、リリアンヌさん?私急に眠くなってしまって…、大変!エレーナ!きっと殿下が心配で見に行ってしまったのよ!!」
その時、キャーーーーーー!!!という耳を劈くような女の悲鳴が聞こえた。
まさか、エレーナと思い、エリザベスと目があった。
「リリアンヌさん!」
「ええ、行きましょう。道具室は三年の階の一番奥の部屋ね」
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三年の階の廊下は人でごった返していた。
先へ進めないように、途中で止められていて、バタバタと教員達が出入りしていた。
「おい、誰か怪我をしたらしいぞ」
「血がすごいって・・・」
人だかりから、そんな話が漏れてきて、リリアンヌは生きた心地がしない。
(まさか…嘘でしょ…フェルナンド)
「これより、騎士団の調査がはいる!、生徒諸君は自分の教室へ戻りなさい!!」
ついに、サファイアの騎士団が調査に入ることになったようだ。学園内で重大事件が起きた時にしか、介入しないはずだ。
(という事はやはり……なにか、良くないことが起きているんだ)
皆、強制的に教室に戻された。少しでも近づきたくて、一人で騒いでねばったけど、騎士団の体躯のいい男に担ぎ上げられて、連れていかれてしまった。
「悪いね!レディにこんな真似したくないんだが、これも仕事なんだ。教室で大人しくしていてくれ」
騎士団の重そうな西洋甲冑をつけながら、リリアンヌを担ぎ上げるとは、その腕力に驚いた。
「なにがあったのか、教えてくれませんか?中に…大切な方がいたのです…」
「それは、うちの王子の事かな?」
「いいえ、アレンスデーンの王太子です…あの、アルフレッド様も一応心配ですが…」
教室へつくと、騎士団の男はリリアンヌを下ろした。
兜を外した男は、燃えるような赤い髪に、緑の瞳で、目付きが鋭く少し強面だか、笑うと優しい印象を受けた。
「うちの王子も一応心配してくれて良かった。安心しな、王子は二人とも無事だ」
安心して気が抜けて、膝から崩れ落ちそうになるのを、おっとと言いながら、男が支えてくれた。
「俺はレオンハルト・サイロス、サファイア騎士団の副団長だ。レオンと呼んでくれ。貴女はリリアンヌ嬢だろう」
「え?ええ。レオン…なぜ私の名を?」
「王子達から多分困っている美人がいると思うから、丁寧に保護するように言われてな。それにしても、アレンスデーンの王子はそうとうご機嫌が悪かったぞ」
レオンは何故か寒そうにして、顔を震わせた。
「その、中で何があったのですか?なぜお二人に会えないのですか?」
「あぁ、それなんだか。ちょっと厄介な事になってな。お二人は身がらを拘束させてもらう事になった」
一度ひいた嫌な汗が、また再びじっとりと背中を流れていくのを感じた。
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ローリエ(ツッコミ役)がいないと、私(作者)も心配です。