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⑯邂逅

 なぜあの時、フェルナンドの手を握ったかと言えば、透哉の記憶を思い出したからだ。


 透哉もよく悪夢にうなされた。

 しかし、母とは引き離され、離れに一人、誰も側にいなかった。


 だから同じように月を見上げて一人で喋っていた。

 ¨僕はここにいるよ¨と…………


 だから、たまらなくなってしまったのだ。




「ねぇ…それって…、それってつまりあれじゃない!!」


 フェルナンドと一歩近づいたと思えた翌日、昨日の出来事をローリエに話してみた。


「あの、その、タイミング云々は大目にみてよ。とりあえず言えたんだからさ」


「いいえ、そのタイミング、限りなくベストよ!」


「え?良かったの?」


「そして、リリアンヌが言ったのは、もうプロポーズにしか聞こえないわ」


「ええええ!!嘘でしょ!」


(君の作る朝食が食べたいみたいな、遠回しな表現でとらえられたってこと??)


「リリアンヌ、あなたは私の想像の右斜め上をいくわね」


「それは、褒めてるの?」


「あー、私もあなたが好きってことよー!もー、可愛すぎるやつめー!」


 ローリエに抱き締められ、髪の毛から制服からめちゃくちゃにされた。


(嘘でしょ…まぁあれかな、女子的な目線で見るとそうなのかな。ほら、男は鈍感だし、そこまで想像力ないでしょ)


「…リリアンヌ、あなた、とっても失礼なこと考えてない?」


「だってー、頭の中で否定しないと、もう恥ずかしくて生きていけないー」


 机に突っ伏してメソメソ泣いていると、ローリエに頭を撫でられて慰められた。


 そんな時、珍しく教師から呼び出しがあって、リリアンヌは職員室へ向かった。



 □□□□□□□


 呼び出しの件は、リリアンヌが教師に配った茶葉の件だった。先日、フェルナンドのために用意した茶葉がたまたま、余ったので、職員室にお裾分けしたのだ。

 それが大変香りが良いと評判になり、秋のお茶会に使われる事になったのだ。

 お茶会は、全校生徒参加、各国の要人も訪れるもので、生徒達の歌や楽器の演奏発表会も兼ねて、盛大に開催される。


 ここで使われるとなれば、輸出事業の大チャンスなので、販売元を紹介して、喜んでアピールしてきた。


 ウキウキるんるんで歩いていると、初めて通る道だと気がついた。

 職員室のある棟が学園の中心にあり、そこから、一、三学年の校舎と二学年の校舎に分かれる。

 リリアンヌは職員室から、そのまま、二学年の校舎の渡り廊下まで歩いてきてしまったのだ。

 辺りはしんと静かで、誰もいない。


(まずい、方向音痴もいいところだ!早く戻らないと…)


「リリアンヌ・ロロルコット」


 慌てて踵を返して戻ろうとすると、突然声をかけられた。


「はい!」


 急に名前を呼ばれたので、勢いよく返事をしてしまった。


「ふふふっ、元気な返事だね。まさか君の方からこちらへ来てくれると思わなかったよ」


 振り向くと、深い海のような藍色の髪に、黄金色の瞳、彫刻のように整った顔立ちの青年が立っていた。


(知ってる人?誰だっけ?)


 学園生活は挨拶するだけでも、たくさんの人間と関わることになるが、これほど印象的であれば、覚えがあるはずだと思った。何しろ向こうはフルネームも知っているのである。


「あの…、大変失礼なのですが、お会いしたことはありますでしょうか」


 男は何も言わず、つかつかとこちらへ歩いてきて、すぐ目の前まで来た。


「君は知らないだろうが、僕は知っているんだ。へぇー、これがあれのお気に入りか」


 男は上から下まで無遠慮にリリアンヌを眺めてニヤリと笑った。なんだか、ゾッとする嫌な笑い方だ。


「あれも、女には不自由しないだろうに。なぜ君なんだろうね。そう単純な理由にしては、らしくないんだけど」


 なぜだかすごくバカにされているようで、リリアンヌはムッときた。


「あの!アレとかソレとか、よく分からない事を仰ってますけど、あなたはそもそも、どこのどなたですか?」


 そう聞くと、男は少し驚いたように、片方の眉を上げた。


(なんだよ、こいつ、ちょっと顔が良いからって芸能人気取りかよ!)


「僕は、ジェイド・クラフト、クラフト王国の第一王子だよ」


 リリアンヌの背中に嫌な汗が流れた。


(やば…他国の王子に不遜な態度&フェルナンドに一切接触するなと言われていたんだ)


「あははは~、そういえば私、道に迷ってしまって~、そろそろ行かないと。それでは~失礼します~大変失礼しました~!!」


 リリアンヌは、淑女の礼もそこそこに、慌てて小走りでその場から逃げ出した。




 スカートを持ち上げたまま、慌てた様子で去っていくリリアンヌの後ろ姿を見て、ジェイドはおかしくて笑ってしまった。


「ふふっ、へぇー、なかなか面白いね。興味なかったけど、興味出ちゃったな」


「ただの貴族の分際で、あのような不遜な態度。我が国であれば処罰の対象になりますよ」


 誰もいないと思われた廊下の柱の影から、一人の男が現れた。

 ジェイドより一回り大きく頑丈な体躯で、目が鋭く頬に傷のある男だ。


「あの手の体に自信がある女は、僕が声をかけたら、大抵誘惑してくるものだが。見ただろ、人をゴミを見るような目で見ていたんだ」


「それが不遜な態度だと言うのです。ただの貴族のくせに汚らわしい」


「まぁ、使えるかどうかは分からないけど、調べてみる価値はありそうだね、よろしくね、ライル」


「畏まりました」


 ライルと呼ばれた男は、伸びて行く影のように音も立てずその場から消えた。


「さぁて、面白くなってきたね」


 ジェイドはそう呟いて、颯爽と校舎の中へ消えていった。



 □□□□□□□□□□



期待のニューフェイスです!

お読みいただき、ありがとうございます。

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