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⑬歪なトライアングル

「私としては聞き捨てならないのよ」


「私もそこ引っ掛かったの。何?拗らせているわけ?」


「だって、こんな色気を撒き散らせておいて、初恋の少女じゃあるまいしね!似合わなすぎて、もう、怒りが萎んだわ」


「だって・・・ぷっ・・・、思い出して、笑っちゃ申し訳ないけど、好きが分からないの!分かるように頑張るー!って・・・ぶっはははっっ」


 恥ずかしさとバカにされている怒りでフォークを持つ手がぷるぷると震える。


「シシリー、マリア、いい加減にしなさいよ」


 見かねたローリエが、止めにはいった。


 一騒動あった翌日の昼食時、食堂でいつものように昼食をとるリリアンヌとローリエの席に、ごく普通に、昨日はどーもとか言いながら、シシリーとマリアが座ってきた。


 驚くリリアンヌとローリエの前で、ペラペラと昨日の事を喋りだしたのだ。


「ねぇ、ローリエ、この人天然なの?」


「そうね。しかも実家で長い間熟成されているから、香ばしいくらいよ」


「だーーもう!チーズみたいに言わないで!昨日の事も禁止!恥ずかしすぎる。あーもー言うんじゃなかった」


 頬を赤らめて、怒りつつ涙目のリリアンヌを見て、三人はため息を出した。


「ちょっともう、これは、完敗というしかないわ」


「なによこれ!こんなに、だだ漏れで大丈夫なの?」


「そりゃ、鉄仮面の策士は大変心配されて、各方面に圧力をかけていかれたし、ちゃんと監視役のネズミも雇っていかれたみたいだわ。ねっ!ユージーン!」


 ローリエの言葉で、ガシャンという音が聞こえた。見ると後ろで食器を片付けていた、食堂の給仕係の男性が皿を落として割っていた。


 深く帽子をかぶっていたが、その横顔には見覚えがあった。


「え!ユージーン?」


「やあ、姉様、楽しくやっているみたいだね」


 観念したのか、男性が帽子を脱ぐと、いつものくりくりお目めの愛らしい顔が見えた。


「何をしているのよ、こんな所で!?」


「へぇー姉様がそれを言うの?」


 そう言うと、物言いたげな目でリリアンヌを見てきた。


「あら、ただのネズミちゃんじゃないのかしら」


「あっ、いえ、ローリエ様。直接は依頼されてないですけど、あの方の事だから、それもやれよと言うことだと認識してます。まぁ、この時期人手不足らしくて、お昼休み返上でここを手伝う事になってしまったのです。なぜか!僕にもわかりませんけど!!」


「ユージーン、目が怖いわよ。その後ろから炎だすやつ、どこで覚えたのさ」


 実家では、スプーンやフォークより、重い物を持ったことがない、生粋のお坊っちゃまなのに、手際よく、割れたお皿を片付ける弟にリリアンヌは感動してしまった。


「まぁ、引き受けたからには、ちゃんとやっているよ。正直初めて知ることばかりで、勉強になってるし」


 食事をとる時間はちゃんともらえているようだったので、リリアンヌは安心した。

 ユージーンがここを卒業するころには、見違えるようになっているだろうと想像し、期待と共に、少し寂しさも感じた。



「そういえば、アルフレッド王子、エリーナっていう令嬢とお付き合いされてるみたいって噂聞いた?」


 マリアが思い出したかのように、主人公の話題に触れた。


「あの、揉めた令嬢でしょ。まさかそんな仲になるとはね。一緒にいるところ、見た人がいるって」


 シシリーとマリアは二人で噂話で盛り上がっている。


「アルフレッド様とルカリオ様は仲が良いから、三人でいらっしゃる事もあるみたいで、これはねー、反感あるだろうねー」


 二人の噂話を聞きながら、ローリエとリリアンヌは昼食を食べ終わり、食後の紅茶も飲み終わってしまった。

 まだまだ途中のシシリーとマリアを置いて、先に食堂を後にした。


「先程の、聞いたでしょ。エリーナの件」


 歩いていると、ローリエが珍しく小声で話しかけてきた。


「あー、なんか。付き合ってるとか」


「色々とまずいわね」


「あー、身分違いってやつね」


 なにしろ、王子と男爵令嬢なのだから、反感があるのは当然。普通なら話すことも出来ない相手だ。


(ただ、これに関しては、主人公であるから全てクリア出来てしまう。まだ先の事だけどね)


「また、一騒動起きそうな気がするわ」


 ローリエがポツリとこぼした声が、暖かな風とともに空へ消えていった。



 □□□□□□□□□□


 間もなく、学園に入学してから一月が経とうとしていたある日の午後。

 授業は午前中で終了したため、リリアンヌは図書館で本を返却してから、宿舎に戻ろうとしていた。


 図書館から程近い、中庭を通ろうとしていた時、甲高い声が聞こえてきた。


「この!裏切り者!!」


 パシーン!と頬を張る音が聞こえて、リリアンヌは思わず物陰から中庭を覗いた。


「私が、アルフレッド殿下をお慕いしている事を知りながら、隠れて交際されていたなんて、私にも良い顔をして友人のように振る舞うとは、なんて酷い人なの!!」


 怒り狂っているのは、大ボスのエリザベス。相手は主人公エリーナだ。

 ゲームと違うのは、取り巻きを従えていないこと。取り巻き役のリリアンヌはもちろん、もう一人の悪役令嬢は、別のグループにいて、エリザベスと絡む事もない。つまり、エリザベスはタイマンでエリーナと向き合っている。


「だって、仕方がないですわ。好きになってしまったんですもの!」


 エリーナも反論する。ゲームの中では、理不尽な理由でネチネチ苛められていたが、今回はある意味エリザベスの主張も納得出来るものがある。


「私がアルフレッド様の事を話すのを、心の中で笑って聞いていらっしゃったのね!」


 まぁ、よくある友達か恋愛かみたいなやつだ。お互い好きな人が一緒でみたいな。


(こういうものは後になるほど、拗れて大変な事になる。もっと早めに、自分の気持ちをエリザベスに話しておけば良かったのにと思うが、そこは身分差もあるしな)


「好きなのよ!それの何が悪いの!止められないの!」


 主人公は、好きだからと、さっきから自分の気持ちの話ばかり。

 しかし、この1ヶ月、二人を見ていたリリアンヌは大事な事が抜けていると感じていた。

 このままではお互い平行線だ。


「参ったなー」


 突然横から聞こえてきた声に驚いて見てみると、リリアンヌと同じく、物陰から覗いているアルフレッドがいた。


「アルフレッド様!何しているのですか!こういう時、貴方の出番ではないのですか!?」


「いやーさー、なんか一方的に非難されているわけじゃないしさー。俺が出るとややこしくなりそうで・・・、どうしたらいい?」


 ゲームの中のアルフレッドは、いつも主人公を助けに颯爽と現れる。

 ただ、今回は、アルフレッドがエリーナの援護をすると、それこそ一方的な展開になってしまう。


(あーもー!)


「はいはーい!ちょっとよろしいかしら!割り込み失礼ー!」


「…!!なっ、リリアンヌさん!?」


「部外者が引っ込んでろという状況だけど、部外者視点で一言いわせてもらうと、エリーナさん!」


「はっ…はい」


「さっきから、好きだから好きだからしか言わないけど、そこじゃないでしょ!」


「えっ…」


「エリザベスさんは、貴方の好きになった気持ちを責めているわけではないのよ。どうして話してくれなかったのか、ということを聞いているのよ」


「!!」


「この1ヶ月()()()()お二人の姿を見ていましたが、公爵家と男爵家という関係を超えて、友情を築いているように見えました」


 リリアンヌは、授業中転んで怪我をしたエリーナを、エリザベスが心配そうに寄り添って医務室まで連れていくところを見ていた。

 ゲームの中で、主人公を苛めながら、ギャハハハと高笑いをするエリザベスとは、もう別人に見えたのだ。


「エリーナ、あなたがエリザベスさんに対する気持ちを素直に話さないと、この関係は壊れてしまうわよ。それでいいの?」


 しばらく、沈黙した主人公だが、軽く深呼吸をして気持ちを整えたようだ。


「ご…ごめんなさい!どうしても言えなくて…、アルフレッド様の事を好きになってしまって、エリザベス様にも…嫌われたくなかった。ずっと、言えなくて苦しかった…。私、自分勝手で、最低ね…」


「いやね。私そんなに、心が狭く見えるかしら。ちゃんと言ってくれたなら、応援しますわよ。エリーナさんはもう大切な友人なのですから」


「エリザベスさまー、ごめんなさいーー!!」


 エリーナがエリザベスに抱きついて、おいおい泣き始めた。

 主人公と苛め役が親友になるという展開に驚きだが、争いのない学園生活になるなら、リリアンヌ的にもこれが一番良い。


 リリアンヌは、二人のいる中庭からそっと離れた。


 途中視界に、物陰に潜んでいるアルフレッドが、よくやった!という顔でサインを送って来たが、イラッとしたので見なかったことにした。



 □□□□□□□□



ただのネズミちゃんではございません!

次回は、本編に小話のおまけを付けてみました。

分かりにくかったら、すみません。

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