表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/44

⑫暫しの別れと決意

 主人公は、やはり主人公。


 最初のパーティーイベントが抜けてしまっても、ちゃんと調整が入るものだ。


 昼休み、急いで校舎裏の茂みへ行ってみたら、次のイベントに遭遇できた。


 そこでアルフレッドはお昼寝をしている。

 王子がそんな所で!というツッコミシーンだ。


 そこにエリーナが現れて、こんな所でお昼寝したら風邪ひきますよ!と言ってアルフレッドを起こす。最初は機嫌の悪いアルフレッドだが、主人公の優しさに触れて、だんだん心を開いていくのだ。


 今回すでに、二人は揉めているので、微妙な空気が漂っていたが、エリーナが謝罪して、寝ぼけ状態のアルフレッドは、すんなり受け入れていた。

 それから毎日、お昼休みにこっそり教室を抜け出すエリーナの姿が見られる。

 順調に進んでいるようだ。


 そして、フェルナンドやフレイムといった、三学年生達は、春の強化合宿に行ってしまった。山籠りをして剣術や体を鍛えることを目的としたもので、一月ほどの期間だ。

 毎年ご令嬢の中からお世話係と呼ばれる、マネージャーみたいなものが選ばれる。

 フェルナンドやフレイムを攻略していると、このお世話係に選ばれて、一緒に過ごす事となるが、エリーナは選ばれなかった。

 アルフレッドもしくは、ルカリオのルートが確定したという事だ。


 やっかいな男もいないし、リリアンヌはしばらく平和な学生生活を送れると浮かれていた。


「一週間ね、そろそろ寂しくなって来たんじゃない?」


「フェルナンド様の事?全然、平和で楽しい毎日よ~」


 休み時間、ローリエとのんびり会話するのも、癒しの時間であるのだ。


「あれだけ泣いてしばらくのお別れをしたのに?」


「あのさ、ローリエ。泣いたのは私じゃなくて向こうだから」


 合宿出発前夜、宿舎を訪ねてきたフェルナンドは、リリアンヌを抱きしめて、また会えなくなるのが寂しいと大泣きしたのだ。


 まさかの子供のようなフェルナンドに、キャラが崩壊したのかと心配になったくらいだ。


 帰ってきたら、かたもみをする事を約束して、何とか帰したのだか、これが、宿舎の真ん前で行われていたから、同じ宿舎のご令嬢全員(ローリエ含む)に見られていて、後から大変な冷やかしにあった。


「仕方がないわよ。あれだけリリアンヌ大好きで半年待って、やっと会えたのに、当人は全然つれなくて、しかもまたしばらく会えないなんて、あー殿下、お可哀想に」


「やめてー、なんか私が悪いことしてるみたいじゃない。変な罪悪感生まれたら困るわよ」


「策士としては、そこを狙っていらっしゃると思うのだけどねー」


「え?何?」


「ふふふ、何でもないわ」


 ローリエとくだらない話をしながら、過ごしていると、何やら視線を感じて、リリアンヌは振り返った。


(・・・だれもいない)


 教室の出入口付近から感じたのだが、それらしい人物がいない。


(ここ最近、ずっとなんだよねー)


 特に何かあるわけでもないので、ローリエに言って心配をかけたくないので、今のところ静観しているが、こう何度も続くと気のせいに出来なくなってきた。


 透哉だったとき、この手の視線は嫌と言うほど感じてきた。

 体に染み込んで覚えているのである。


 全く期待もされていなかった透哉は、地元の公立の学校へ入った。

 しかし、実情はどうあれ、誰もが知る大企業のお坊っちゃまである。

 初めは遠巻きにして見ていた者達も、コミュニケーション力ゼロで、下を向いてばかりいる暗い透哉を段々バカにし始めた。

 妬み蔑み、様々な悪意に満ちた目で見られてきた。

 時に直接攻撃される事も多々あった。

 言葉の暴力から、体への暴力。

 透哉は、終始我慢をした。誰に相談できるわけでもない。蘭に心配をかけたくない。

 ずっとずっと我慢して耐え抜いたのだ。


 嫌な視線から、透哉の嫌な記憶を思い出して、気持ちが滅入ってしまった。


 放課後、教師に呼ばれていたローリエは、先に教室を出て、リリアンヌはのんびり帰る事にした。


 帰り支度をもたもたしていたら、いつの間にか教室には、誰もいなくなっていた。


「ちょっとよろしいかしら」


 見上げると、そこには、二人の令嬢が立っていた。


「私はシシリー・ロザンヌ。ロザンヌ公爵の娘よ」


「私はマリア・ローズレッド。ローズレッド公爵家の娘です」


 二人とも、アレンスデーンの公爵家の令嬢だ。

 ただ、話をした事も、パーティーなどで、顔を合わせた事もない。


「はぁ、何か…」


「リリアンヌ・ロロルコット!ただの伯爵令嬢のくせに、いい気になっているみたいね」


 アイスブルーの真っ直ぐなロングヘアーをかきあげながら、シシリーが同じくアイスブルーの瞳をギラつかせて睨み付けてきた。


「私達公爵家の令嬢を出し抜いて、フェルナンド様に取り入るとは、無礼もいいところだわ。この学園に入って、一人になる機会をずっと狙っていたのよ!」


 マリアはローズレッド家の名の通り、くるくるとした真っ赤な髪で、意思の強そうな金の瞳をしていた。


 二人ともゲーム内では全く出てこないキャラである。


(はぁ、私の平和と平穏な日々が・・・)


 このまま黙って耐え続ける日々を送るか、リリアンヌは迷った。

 透哉の時も同じだ。あの時も、平和と平穏を求めていた。

 しかし、ずっと下を向いて耐えていても、事態は悪化するだけだった。

 リリアンヌとして、人生をやり直し、また同じ間違いをするわけにいかない。


「黙っていても、何も分からなくてよ。どうせ汚い手を使って取り入ったんでしょう。お父様が王宮にお金でもバラまいたのかしら」


「あらー、この大きな胸を使ったのかしら、まるでメス豚ね!尻軽女!」


 リリアンヌは、顔を上げて、二人の顔を真っ直ぐに見た。

 今は透哉じゃない。リリアンヌの人生だ。


「私は、汚い手なんて使っていません。うちの家族も同じです」


 リリアンヌの真っ直ぐな視線に動揺したシシリーが、カっとなって、手を振り上げた。


 打たれると、目を閉じた瞬間。

 パンパンと手を叩く音が聞こえた。


「そこまでよ!シシリー、マリア、いい加減にしなさい!」


「ローリエ!」


「ごめんねぇ、リリアンヌ。途中から聞いていたのよ。二人の目的が知りたくて、すぐに止めに入らなかったのだけど。この二人、私の従姉妹なのよ」


 アレンスデーンの公爵家は、そう多くない。同じ公爵家であれば、親戚の繋がりがあっても不思議ではない。


「あれだけフェルナンド様に熱を上げていたのに、婚約後はやけに静かだと思ったら、リリアンヌに直接嫌がらせをしようと考えていたのね。私の従姉妹が失礼な事をしたわ。本当にごめんなさい。」


「ローリエ!どうして謝るのよ!悔しいじゃない!こんな女に!」


 シシリーが、リリアンヌを指差して叫んだ。

 その瞳に、小さい涙の粒が光っていることをリリアンヌは見つけてしまった。


「貴女たちがリリアンヌの何を知っているのかしら。王太子殿下から婚約の申し込みがあれば、アレンスデーンの貴族であれば、どうあっても受け入れなければいけないのは周知の事実。リリアンヌにも、こうしたいという意志があったはずよ。受け入れようと今頑張っているのよ。それを…」


「ローリエ、いいのよ。ありがとう」


 ローリエがリリアンヌを思っていてくれた事に、胸を打たれた。

 同時に、このまま助けてもらってばかりではいけないと、リリアンヌも心を決めた。


「二人ともきっと幼い頃から、殿下のために自分を磨き、好きになってもらえるように、努力を積み重ねてきたのよね。それが、突然出てきたよく知らない女に、希望が奪われてしまったら。ショックだし、腹も立つし、何か言ってやらないと気がすまない気持ちは分かるわ」


「リリアンヌ…」


「私は、好きって気持ちがよく分からない、どうしようもないやつで、ただ状況として受け入れるしかないかくらいに浅く考えてた。さっき、シシリーの目から涙がこぼれたのを見て、ショックだった。あれは、シシリーの気持ちが溢れた涙だった。正直…今の私では、二人に何も言い返す事も出来ないし、言われて当然だと思う。ずっと、考えないようにしようと思っていたけど、殿下の事も自分の気持ちにも、ちゃんと向き合わないといけないと決めた。シシリーにもマリアにも、認めてもらうのは難しいけど、この女性ならと思ってもらえるように努力する。それで…」


「リリアンヌ、もう、いいわ。あなたの正直な気持ちは二人にも少しは伝わったでしょう。今はそれで十分でしょう。シシリーもマリアも気持ちは分かるけど、言っていい事と悪い事があるわ。その辺り、ちゃんと謝りなさい」


 二人は下を向きながら、言い過ぎた。悪かったと小さな声で言った。

 二人とも悪い子ではないのよ、出来れば許して欲しいと言ったローリエが、もう天使に見えた。


 ローリエさまさまで、おかげで、解決とはいかないけど、事態が悪くなることは避けれた。


 リリアンヌは、自分の浅はかな考えを反省して、フェルナンドが帰ってきたら、逃げずに向き合おうと決めた。


 しかし、この出来事は、やがて学園を巻き込む大騒動の序章でしかなかった。


 不穏な影は、静かに広がっていくのであった。



シシリーとマリアは好きです。

絵にしたら可愛い子達だろうなと想像しています。

今回は、ほんのりシリアスでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ