JK真白ちゃん
むにっと頬を柔らかい何かが押して来る。最初は1回だけ、次にむにむにと2回。最終的にはぽんぽんと叩くように振り下ろされるようになり、おまけにふさふさしたものが顔全体を覆い始めた。
「真白、朝だよ。そろそろ起きないといけないんじゃないのかい?」
「んー」
「はぁ、少し前のストイックさは、あれはあれで見てて不安だったけど。今のわがままっぷりも見ててそれなりに不安だよ。ほら、起きて。起きないと鼻を噛むよ」
「やー」
起こそうとするパッシオに抗議するように、俺は寝ぼけた頭で特に考えもせずに布団を頭まで被って起きないアピールをする。ねむい。
すると起きない俺に耐え兼ねたのか、パッシオが布団の中に潜り込んで、首周りをくすぐって来た。あひゃひゃ止めろバカ。
「ひゃーっ、パッシオくすぐったいってば」
「止めたいなら起きることだね」
最近はブラッシングを定期的にしてもらって、前よりもふさふさふわふわになっているパッシオの毛が、首筋に触って大変こそばゆい。しばらくそうやってベットの中で戯れていると、目も頭も冴えて来たので、ベッドから上半身を起こすことにした。
「はー、疲れた。おはよ、パッシオ」
「おはよ。相棒を学校に忘れた挙句に寝坊助な君を起こすのは大変な苦労だったよ」
「もー、それは昨日たくさん謝ったじゃん」
ジト目で俺を睨み付けるパッシオが言うように、俺は昨日、学校にパッシオを忘れた。いや、あの時間はもう眠くて眠くて仕方が無くて、迎えの車に乗る前後辺りなんて、殆ど千草に手を引かれているだけだった。
先生たちに見つかって、職員室に特別に用意されたケージの中でハウスされていたパッシオのことなんてすっかり頭の中から零れ落ちていたのだ。
帰宅後、学校から連絡があって、慌てて美弥子さんが取りに戻ったけど、しばらくはそれはもうヘソを曲げていて、俺の方に寄りもしなかったし、顔も向けてくれなかった。いや、ホントゴメンって。
「別にー、職員室の綺麗な先生たちと沢山遊べたから良いもんね。真白、お肉無くて膝の上ちょっと硬いし?僕としてはあのまま学校のペットでも良かったよ」
「かっちーん。誰が骨と皮だけよ。最近はお肉ついて来たって皆に言われてるんだから」
ははーん、コイツ職員室の若い先生達にちやほやされて鼻の下伸ばしてたなさては。郡女の先生たち、特に若そうな先生たちは美人な人が多い感じだったし、それはそれはさぞや美味しい思いをしたことだろうよ。
ただし、誰の膝の上が、硬くて寝心地悪いって?このスケベ妖精め
「それでもちょっとだけじゃないか。他の人間を真面目に観察するようになって、僕もようやく分かったけど、前から真白は細すぎだったよ。焼き鳥みたいだ」
「焼き鳥!!言うに及んで焼き鳥扱いは酷くない?!串は骨ってわけ?!」
「因みにメニューは鶏皮だよ」
「なんですってー!!」
言いよるこのスケベ妖精め。人の事を鶏皮呼ばわりだ。忘れた俺も確かに悪いが、人の身体を鶏皮と揶揄するのはおこだよ、おこ。……ちょっと古いか?
そんなこんなで朝からベットの上で追いかけっこをしていると、部屋のドアが小さく音を立てて開く。やって来たのは当然、美弥子さんだった。
「あらあら、朝からお元気ですね。ベットの上がぐちゃぐちゃですよ?」
「え、えへへへ、おはようございます。美弥子さん」
「きゅい」
広いベットの上をあっちこっち動き回ったせいで、シーツから何からぐちゃぐちゃである。これを俺が学校に行ってる間に綺麗に直さなくちゃいけないのが美弥子さん達の仕事なのだから、朝から仕事を増やさせてしまった。反省しなくては。
「はい、おはようございます。朝の準備をしますので、こちらにおいで下さいね」
「はーい」
「きゅっ」
朝の挨拶を誤魔化すようにして交わすと、促されるままに化粧台の前に座って、今日の身支度を始める。今日は何をするのだろうか。