JK真白ちゃん
三枝木教諭に淹れてもらったアイスコーヒーを受け取ると、全員が保健室の中央にある長テーブルと椅子に着く。とりあえずコーヒーにミルクとガムシロップを入れるとことから始めなくてはならない。
「しかし9月になったってのに暑いな。クーラーがあるから校舎内は快適だが」
「そうねぇ、ここはお金のある学校だからクーラー完備だけど、普通の公立学校は暑いでしょうねぇ」
俺がアイスコーヒーにミルクとガムシロップを入れていると、村上教諭と、三枝木先生が外の青い空と入道雲がまだまだ暑苦しい夏の空気が残っている事を示している。
実際に今日の予想気温は30℃を普通に超えていた筈だ。9月は暦の上では秋かも知れないが、気温はまだまだ夏。月が替わったからと言って、直ぐに気温が変わる訳じゃないのも当然なことなので、またしばらくはこの暑さと付き合って行かなくちゃいけないことだろう。
「しかし先輩も相変わらず物好きだよなぁ。何も精神疾患を持ってる子供を引き取らなくてもいいだろうに」
「ちょっと村上先生。そういう言動は控えてください」
「良いんだよ。どの道、私はこの子の病状を知っとかないといけないからな。どのみち根掘り葉掘り聞くことになる」
頬杖をついて、俺の事をしげしげと眺める村上教諭を三枝木教諭が注意する。確かにその対象が目の前にいる状況でする話では無い。元看護師という立場からしても、そう言う状況は避ける。
気にしないタイプも勿論いるが、殆どの子がこの手の話は気にしてしまうからだ。
「で?症状はどんな感じだ?」
「ストレートですね……、良いですけど。症状としてはフラッシュバックがやっぱり一番キツイです」
「フラッシュバックのトリガーは?」
「男性です。……特に、手を伸ばされるのがダメです」
「分かった。もう良い、ありがとうな」
震える手をキュッと握った俺の頭をポンポンと撫でて、話を打ち切ってくれた村上教諭は机の上に合った紙に何か書き込んでいる。俺の症状に関するメモだろうか。
やり方は少々強引だが、俺の症状の度合いを測ろうとしての行為なのは分かった。やはり、やり方は強引だとは思うが。
「症状を自分で話せるってのはまだ症状が軽い方だな。このまま落ち着いて治療して行けば大丈夫だとは思う。ま、その点で言えばウチの学校はリハビリには確かにうってつけだろうな。相変わらず打算的な人だぜ」
「光さんがですか?」
書き物をしながら話す村上教諭は、光さんを打算的な人間だと話す。おれはあまりそう言う認識はない。どちらかと思いついたら即行動の直感的な人と言うか、あまり考えていないタイプの人だと思うんだけど。
「あの人ほど打算的な人を私は知らないぞ?にこにこしながら腹の中では何考えてるか分からない人だからな。あの人のとんでもない発想と手回しで、学生時代にどんだけ振り回されたか」
「それは本当に同意します。先輩が私の教え子だと想像するだけで頭が痛くなりますから」
はぁぁ、と特大のため息を吐いてから、二人は背もたれにもたれ掛かってコーヒーをあおる。毎回思うけど、よくブラックで飲めるな。俺は苦くて無理だ。既にガムシロは3つ投入している。甘くておいしい。
「……お前、太る前に糖尿になるからそのコーヒーの飲み方は止めろ」
「苦いの苦手なんですよ」
「だからと言ってその飲み方はダメだ。三枝木、コイツにクッキーはやるなよ」
「はーい。と言う訳で真白さんはクッキー没収よー」
「あっ、ズルい!!自分達だけ!!」
ひょいとクッキーのカンカンを持ち上げられて、俺の目の前からクッキーが消失する。先生たちだけで食べるつもりだ。ズルいぞ、一緒に食べるんじゃなかったのか。
「ズルいも何もあるか。アイスコーヒー一杯にガムシロ3つ突っ込むやつにこれ以上糖分摂取はさせねえよ」
「光先輩にはおやつは上げないように連絡しておきますね」
「鬼!!悪魔!!人でなし!!」
「クッキー一つでそこまで罵声を浴びせられるとは思わなかったよ」
結局、俺はクッキーを一つも食えなかった。ぐすん