JK真白ちゃん
たっぷり食堂で昼食を摂った後は、5限目。今日は体育で、隣のクラスと合同で授業をするらしい(この辺りは普通の公立私立と変わらないっぽい)
ただし、登校初日の俺は今日の体育だけは別メニューとなっている。なんて大仰に行ってみたものの、ただの身体測定なのだけれど。
「……」
「……測定値を睨んでも身長は伸びませんよ」
俺にとっては大変由々しき事態が起きていた。俺の身長は158㎝である。そう、158あるのだ。
男子としてはもれなくチビの部類だが、女子としては決してそうではない。どちらかと言うと平均的な身長だと思う。そう、決して小さくないはずだったのだ。
「146㎝なのは事実なんだから、諦めて体重を測りますよ」
「158㎝あった……」
「12㎝もサバ読むとは恐れ入るわ。さぁ、大人しく体重計に乗りましょうね」
「絶対あったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
記録用紙に記入された身長は146㎝。大分小さい、と言うかかなり小さい。どう足掻いてもチビである。なんでだ、最初にアリウムに変身した時は……、身長までは測ってないな……。
ともかくおかしい。これは異常事態である。由々しき事態だ。男なのに魔力があることも、魔力を解放すれば女の子になることも、髪が勝手に伸びたこともどうでも良い。身長だけは許されない。よりにもよって最も重要な項目を12㎝も削りよった。どこの誰だか知らんが許さんぞ……!!
「全く、精神障害を持っている子が入って来たって聞いたから、もうちょっと大人しい子なのかと思ったら、とんだお転婆娘ね。今はまだ大人しいかも知れませんけど、学校に慣れたら中々手のかかる子かも知れませんよ?三枝木先生」
「元気になってくれるなら構いませんよ、村上先生。光先輩の話だと、誰かが付き添っていないと、部屋から出るのも大変だと聞いてますから」
「そうだとしても、この様子なら回復は早いんじゃない?元気は有り余ってるようだし。しかし、光先輩の無茶ぶりも久々ね。学園長が泣いてたわよ?」
養護教諭の村上教諭と、担任の先生である三枝木教諭が仲睦まじげに会話をしているが、俺はそれどころじゃない。返せ、俺の身長。どこ行った俺の身長。
「体重は、39kgっと。ちょっと痩せてるわね。もっと太らないと伸びるものも伸びないわよ?」
「うぐぐ」
村上教諭に引きずられながら移動する俺は、視覚、聴覚、問診や心電図、採血などを済ませていく。
採血はともかく、心電図なんかは俺が見る限りでは特に異常なし。自覚症状はASDによる症状ぐらいが問題なだけで、特にない。身体だけなら間違いなく健康優良児だろう。いや、26歳だから児ではないけども。
「特に問題ありませんね」
「えぇ、そうね……。って貴女、心電図読めるの?」
「え、あっ、いや、前見た時と同じ感じだなぁって……、あははは」
「ふーん?よく覚えてるわね」
不思議そうに首を傾げる村上教諭を必死に誤魔化しながら、次の項目はあるんですかー?急かすように衣服を整えて、ベッドサイドのカーテンを開ける。
迂闊だった、普通に考えて女子高生が心電図を読める訳もない。あまりにも自然な流れで手渡してしまったがこれだけで何がある訳でも無いけど、焦る。少し気が緩んでる気がするな。もうちょっと気を引き締めないと。
「さて、身体測定はこれでお終い。と言っても一人だけだから時間が余ったわね」
「お茶にでもしましょうか。他の子には内緒よ?真白さん」
お茶目に片目を閉じてウィンクする三枝木教諭がお茶の準備を始める中、俺と村上教諭は保健室の椅子に座って待つ。何やら村上教諭は自分の机をガサゴソと漁っているが、何をしているんだろうか。
「あったあった、貰ったクッキーがあったんだ。お茶請けはこれにしよう」
「それ大丈夫なんですか?保健室でお腹壊したってなったら騒ぎになりますよ?」
「へーきへーき。この前もらったばっかりだから」
その割には机の奥底から出て来たような気がするけど、本人が言うなら多分大丈夫だろう。……一応、不安だから賞味期限は確認しておこう。
そんなゆるーい感じで、図らずも、一応中身的には大人のティータイムが始まったのだった。