魔法少女はじめました
その人は、私の頭を優しく小突くと、大きく跳躍して私の目の前から立ち去ってしまう。
近づいて来るサイレンのせいだろう。魔獣が倒され、魔獣の死体や周囲の被害などを確認、可能ならその場で修繕したり、怪我人や逃げ遅れた人の保護などを請け負う、政府公認の後処理班がこちらへ移動している時の音だ。
「ルビーちゃん!!」
「雛森さん……」
そのサイレンを鳴らす特殊車両が次々と到着したかと思うと、いの一番に車から降りて来たのは雛森さん。私達、魔法少女の監督役をしてくれているお姉さんだ。
大きな眼鏡とショートポニーの髪型が特徴的な人で、如何にも優しいお姉さんと言うイメージがバッチリ似合う。でも、バリバリのキャリアウーマンで、正式な役職は魔法庁魔法少女部魔法少女監督課南東北エリア統括監督者、だったと思う。正直、長すぎて自信がない。
「大丈夫だった?!何回も言ってるじゃない!!訓練のし過ぎで魔力不足になってるのに、魔獣討伐に出ちゃ!!」
「……ごめんなさい」
駆け寄って来た雛森さんにギュッと抱きしめられ、怪我の有無を確認されると、次は私の今回で数回目の行動に、お説教が始まった。
雛森さんの指摘はその通りだと思う。今日もヘロヘロになるまで魔法と戦闘の訓練をしている最中に魔獣が現れ、考えなしに飛び出したのは私だ。
「とりあえず、支部に戻りましょ?もう動けない位にへとへとなんでしょ?」
「はい」
ぺこりと頭を下げる私に、腰に手を当ててからため息を吐いた雛森さんは、地面に座り込む私を引き起こしてから、近くに止まっていたワゴン車へと乗り込む。
見た目は何の変哲もない、真っ白な作業用ワゴン車だけど。その実態は魔法庁が専用に開発した、魔法少女護送用の特殊車両だ。
スモークガラスで中は見えないし、ガラスも当然のように防弾ガラス。他にもたくさんの隠し機能があるらしいけど、詳しくは覚えていない。
まぁ、主に戦闘で消耗した魔法少女を、回収し、本拠地である魔法庁支部へと送り届けるために使われる。
「まずは、戦闘お疲れさまでした。と言いたいところですが、ルビーちゃん、言いたいことは分かっていますね」
「……ごめんなさい」
本当なら、いつもはこの車内で優しく労ってくれるのだが、流石に今回ばかりはそうもいかない。何せ、何度目かの命令違反だ。
基本的に、魔獣が出た際は万全の状態の魔法少女のみが、現場に急行することになっている。貴重な魔法少女を、要らぬ不手際で失わないためだ。
魔獣の出現した当時、私は連日の訓練でヘロヘロのへとへと。その場で眠りこけてしまうような状態だったのにも関わらず。勝手に現場に向かったのだ。しかも、これが初めてではない。
そりゃあ、普段は優しい雛森さんも、カンカンに怒る。当然だ。
「次は謹慎処分にすると、言いましたよね?」
「……はい」
怒る雛森さんを前に、私は座席に座りながら変身を解除する。白い半そでのセーラー服に身を包み、こげ茶色の髪の毛を二つ、耳の高さで結んでいる、所謂ツインテールと言う髪型。
輪郭は、まぁスッキリとした顔立ちだと思う。友達からは髪が短かったらカッコいい系女子かなと評価されるくらいだから、整っている方だとも思う。
ただチャームポイントの釣り目は、今は物凄くしょぼくれたものになっているだろうから、見る影は無いだろうけど。
「魔法少女シャイニールビー。いえ、金本 朱莉さん。貴女を今日付けで一週間の謹慎処分と致します。今この時から、訓練、実戦を含めた魔法少女に関わるあらゆる行為を禁止します。破ったら、次は謹慎ではすみませんからね」
「……分かりました」
言い渡されたのは一週間の謹慎処分。今から一週間、私は魔法少女に変身することも禁止だ。
散々の命令違反の結果なのだから、こればかりはやはり私のせいだ。
それでも、会いたいと思った。あの白い魔法少女に。
私だってもっと強いんだって、どうしても見せたかったんだ。
それがどうにも空回りしてて、あの白い魔法少女。アリウムフルールに、その事を指摘されて悔しくて、私の方が先輩なのにって思っちゃって。
なんでこんなに、自制が効かないのか、私も私自身がよく分かっていなかった。