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奇妙な噂

話をしながらついていた、座卓のテーブルを思わず叩く。


手を引けとはどういうことか、アリウムは保護するに値しないとでも言うつもりなのだろうか。一体どんな意図でそんな言葉を口に出来るのか、激昂する私に、光さんは鞄からA4サイズの茶封筒を渡して来た。


「あの子に対する調査結果よ。私が可能な限りの伝手を使って調べた結果が『たったそれだけよ』」


薄い。人一人の人間を調べ上げた報告書にしては、あまりにも薄い。住所氏名生年月日、所属、経歴、家族関係。調べれば調べる程、当然の様に報告書類は厚くなって来る。

他の魔法少女達の身辺調査で、犯罪に手を染めている者がいないか調べたりもするため、そう言った報告書がどれくらいの厚みになるかは知っているつもりだ。


これでは、これではまるで……。


「っ――――!!?!」


中に入っていたのは、紙一枚。記載されていたのは簡単に数え切れてしまう程度の項目だけだった。


本名『真白』 魔法少女名『アリウムフルール』 性別:女性 推定17~19歳

家族構成:不明(容姿から欧州系の血筋が入っている物と推察)

経歴:不明(一定以上の教育を受けていた可能性有。ただし、近隣の学校に所属している形跡無し)

住所・本籍:該当無し


無国籍者の可能性大。母親とは死別している模様(この母親が欧州系の人物と思われる)。父親からは長期間の放置、或いは軟禁を受けていた可能性有。

その他、周辺住民からの迫害などを受けていた可能性有。

助けられなかった、との発言があったとの証言もあるが真偽は不明。


本人からの直接の聴取が望まれるが、容態の悪化が見込まれる上、急いた調査は彼女の反感を買い、逃走に繋がりかねないと判断。保護観察を続ける事が望ましいと思われる。




紙一枚、白紙の部分が半分を占めるだろう、短い調査報告書には短く、淡々と彼女の現実が綴られていた。


「無、戸籍……?軟禁?迫、害……?」


書いてある文字を読む声が震える。手に握っている報告書に皺が入り、手汗が滲む。

そんな、こんなことが、それじゃあ彼女は……!!


「彼女は存在しないハズの国民。ひと昔前なら、政府もそう言った子達に手を差し伸べたでしょうけど……。今の常にひっ迫しているご時世に、『国民ですらない無戸籍の人間』に国や政府、行政は動かないでしょうね」


「そんな……、そんな事あっていい筈がありません!!まだ子供ですよ?!成人すらしていません!!そんな子がどうやって今の世の中を……、まさかっ?!」


「その、まさかかも知れないわ。今のあの子は、いえ、元からあの子はきっとずっと首の皮一枚よりも細い、ギリギリのところで踏ん張り続けて来たのでしょうね。そんなあの子が、唯一、世の中を渡り歩くだけの力が得られる方法が――」


魔法少女になる、なのかも知れないわ。そう、光さんは口にして、目を伏せた。


仮に、仮に、この報告書に書いてあることが全て事実だとしたら、アリウムはこの真白と言う少女は、偶然魔法少女に変身できることを知って、その力を使って、今まで閉じ込められていた場所から飛び出したのかも知れない。


魔法少女の力を持っていればそのくらいは容易だ。いや、でも飛び出してどうする?彼女が現れて既に数ヶ月。彼女を保護したと言う民間の報告は未だ無く、今回の事件があって、ようやく諸星家が保護したのだ。


今時、成人していても、野外で数ヶ月生活するのは不可能だと思う。魔獣に関しては、魔法少女になれるとしても、食料は一体どうすると言うのか。まさかゴミ漁りでもして飢えを凌いでいたとでも……?


「その辺りは何とも。ただ、保護した当時の衣服はかなり身綺麗だったわ。もしかしたら、人知れず彼女を保護していた人間がいるのかも」


「それなら何故行政や民間に何の連絡も……!!」


「分からないわよ。結局、私達の話は彼女の口から漏れ出た少しの情報と、今回の調査で得られた情報だけで口にしている想像でしかないわ。この報告書の通り、本当のところはあの子本人に聞くしかないのだけれど」


聞くしかない、聞くしかないのだが、それが最も憚られる行為でもある。


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