奇妙な噂
車椅子にちょこんと座らせられ、美弥子さんに連行されている俺はダラダラと冷や汗をかきながら、どうやってこの状況を切り抜けるかを考えていた
因みにパッシオは部屋の中にあるケージにハウスだ。頼み込んで南京錠もかけてもらった。これであのエロ妖精がうら若き少女達のあられもない姿を目にすることは無い
問題は俺の方である
再三言うが、身体の方は問題ない。魔力を閉じさえしなければ、身体は俺もまたうら若き少女のそれだ
一応、肉体面の話で言えば、何の問題もない。問題はやはり精神面のほう
「真白ちゃんは肌も髪も綺麗だから、しっかりお手入れしないとねー」
「あはははは……」
一番ノリノリなのは車椅子の横をルンルン気分で歩いている光さんだ。多分この人、お風呂場でもお世話する気満々だ。どうしよう、一体どうすれば良いんだ
「おっふろー、おっふろー」
「一応、知り合いとは言え、なんだか恥ずかしいな」
同じくルンルン気分の墨亜と、年頃の女子らしく恥じらっている千草は勿論当てにならないと言うか、当てに出来るはずもない
いや、これ本当にヤバくないか?えっ、これマズくない?俺逮捕されるんじゃないの???
そんなことが頭をグルグルと回り続けるが、まっこと残念なことに妙案はまるで浮かばない
このままだと中身が26歳のおっさんが女性たちのあられもない艶姿を疑われることなく見てしまうことになる。本人の意思確認もされてないし、俺からの事情説明が出来ようもないので、どうしようも無いと言えばどうしようもないが、倫理的にアウトだろこれは……!!
「さぁ、脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~」
そうしている内にあっという間に諸星邸の脱衣室へと到着してしまった。流石は豪邸、脱衣所は車椅子と四人の人間が入っても十分なスペースが確保できている。と言うか豪邸にしても広すぎではないだろうか
ノリノリウキウキワクワクと言った光さんの魔の手と、美弥子さんの手がゆっくりと俺の衣服に手を掛けられたところで、俺はハッと気が付いた
俺の髪、ウィッグじゃん!!
そう、俺の今の髪はウィッグでミディアムショートの髪型になっているだけで、本来の髪の長さは男の時の俺と変わらない。ウィッグなんて言ってるけど、結局のところはカツラだ
頭を洗えば一発でバレてしまう
いや、ウィッグをしていること自体は問題ないかも知れないが、ウィッグが取れると顔立ちと身体つきが女の子になった、男の時の俺の姿だ。同じ街に住んでいるとは言え、気軽にエンカウントするものではないが、その姿を見られるのは、ちょっとよろしい話では無い
「ちょ、ちょっとま――」
「はーい、バンザーイ」
衣服を脱げば、その動作でウィッグが外れるのは必至。それを何とか止めようと声をかけるも、非情にも光さんと美弥子さんの二人掛かりで、着ていたパジャマをするりと剥ぎ取られて
「あれ?」
ここで俺は、また疑問符を頭に浮かべることになる。確か、俺が気絶していた時に来ていたのは、ノースリーブのギンガムチェックシャツだ。なのに、どうして俺は薄いピンク色のパジャマを脱がされているのだろうか
「どうかしましたか?お身体に異変を感じましたら、お早めにお願いいたします」
「あっ、いえ、なんでもないです。はい」
ウィッグに関してはもうバレてる?いや、でもそれなら外されていてもおかしくない
わざわざ付け直すような人は早々いるもんじゃないだろう
だとすれば、何故?
そう思って、何気なしに髪の毛を一房、引っ張ってみると
「あいたっ」
ぐっと頭皮が引っ張られる感触と共に、少しの痛みが走る。えっなんで?
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
「う、ううん。何でも無いわ。お風呂入る準備してもらうから、少し待っててね」
「はーい」
色んな部分を引っ張ってみても、やはり痛い。どう引っ張っても痛い
つまりこれは、髪の毛がウィッグと同じ様な長さまで伸びた、という事だ
「どうなってるの、これ」
また、俺の身体に不思議な要素が追加されてしまった。一体どういう事なんだ?