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奇妙な噂

入って来たのはティーワゴンを押したさっきのメイドさんだ。カラカラと車輪を鳴らして進むティーワゴンと合わさって、これぞメイドさん像をそのまま映したような光景だ


実家には家政婦やお手伝いさんはいたけど、メイドさんはやはり格が違うと言うか、所作が丁寧でとても綺麗だ


「アンティークのティーワゴン……、素敵ね」


何より俺の目を引いたのは、メイドさんが押しているティーワゴンだ

塗装やデザインだけでは出せない、長い年月大切に使われ続けていたからこそにじみ出る、味のある趣と、細かく掘られた彫刻が美しい


芸術品にも思える一品に、思わず深く息を付いて見惚れていると


「真白はああいうのが好きなのか?お義母様の趣味でね、特にお茶関係の物はアンティーク調の物が多いんだ」


「お客様が、手に取り、口にする物は、とびっきりこだわった方が良いんだって」


私はさっぱりだと顔に書いてある千草と、まだまだお子様でアンティークを理解するには至っていない墨亜が、母親からの受け売りの言葉を口にしていた


アンティークは手に取ることは無かったけど、多分好きだ


元々物持ちが良い性格と言うのも関係あるのかも知れないが、長い間大切に扱われて来た道具や品々には、他には無い気品を感じる


多少の憧れ、的な部分もあるかも知れない


「ふふっ、アンティークがお好きなのですか?それでしたら、奥様がお喜びになるでしょうね」


「お義母様のアンティーク語りは長いぞ。お義父様も匙を投げるからな」


紅茶を淹れながら、話題はアンティーク好きだと言う、千草と墨亜の母親の話だ

墨亜には如何にもそれらしい理由を付けていたようだが、千草とメイドさんには流石にそれがアンティークコレクターの建前でしか無いことはしっかりバレているらしい


苦笑いする二人の様子からもそれが窺える


「美弥子さん、今日のお菓子はー?」


「今日は林檎とシナモンのスコーンですよ。墨亜様はミルクティーでよろしいですか?」


「甘いのが良い!!」


かしこまりました。と言って墨亜の要望に応えたメイドさん。もとい美弥子さんと言うらしい彼女が、流れるような動作で紅茶を淹れて行き、墨亜用のカップにはミルクと砂糖を足していく


ここまで届く、いい香りだ。紅茶も、良い物を使っている事が容易に窺える


「どうぞ」


「ありがとうございます」


ベッドのサイドテーブルに淹れられた紅茶とスコーンが置かれる。紅茶もそうだが、スコーンからも香ばしいクッキー生地の香りとシナモンの香りが漂って来る


その匂いを嗅いだ途端、俺の腹がグルグルと鳴り出すものだから、たまったものではない


「えっ?!いや、これはその!!」


「くっくっくっ、いや、仕方ないさ。丸一日寝込んでいたんだ。腹が鳴る位の空き具合にはなるよ」


「お代わりはございますので、いつでもおっしゃってくださいね」


盛大に鳴り響いたお腹の音に、千草は笑い声を隠そうともしないで笑いながら仕方ないと言って来るが、笑っている時点でその言葉に効力は無い。後で覚えていろよ


美弥子さんは微笑まし気に目尻を下げながら、お代わりの要望にも応えられると教えてくれた。くそぅ、優しさが傷口に染みる


「墨亜もお腹空いたから、真白お姉ちゃんも一緒に食べよ」


「そうね。こんなに美味しそうだし、いただきます」


心を癒してくれるのは無垢な墨亜だけだ。自分の椅子に座り直して、小さな口をめいっぱい広げてスコーンにかじり付く姿は、どうしようもなく可愛い


締まらない表情を誤魔化すことなく、俺もスコーンを口に含みサクサクした感触と、次に口にした紅茶の香りを楽しむのだった


ご指摘受けまして、69話にて、真白が今どちらの性別なのかを追加で描写しました


よろしければご覧ください



尚、こちらでも記載しますと、今の真白は女の子の姿です

ややこしくて申し訳ないのですが、よろしくお願いします

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