奇妙な噂
甘えて来る彼女を撫で回しながら、自己紹介を受けるとパッシオも交えて三人でわちゃわちゃとし始める。やはり子供は可愛い
「うおっほん。墨亜、アリウムと遊ぶのは後にしてくれ。アリウムもな」
「そうね。墨亜、ちょっとお利口さんにしててくれる?」
「はーい」
フェイツェイに釘を刺されてしまい、一度墨亜を落ち着かせると、彼女は俺の膝の上に収まるようにして座った。満足そうにえへへーと笑う様子は天使だ。可愛いかよ
「くっ……、墨亜が私より懐いているような気がするがそれは後だ。私も自己紹介をしよう。私は緑川 千草。諸事情で名字は違うが、墨亜の義理の姉だ。魔法少女名は『フェイツェイ』。墨亜も分かっている通り、魔法少女『ノワールエトワール』として活動している」
悔しそうに顔を歪めながら、これ以上話を脱線させないため、何とか話を推し進めた彼女は、暗に俺に実名を公表しろと迫って来る
自分達は実名と日常を過ごす姿を晒した。ならばそちらも同様に示すべきだと、対等の関係を要求している訳だ。全く、何処で覚えた知恵なんだか
「……真白よ。それ以上でもそれ以下でも無いわ」
「……そうか。では真白、早速だがあの時何があったか話してくれないか。私達、政府所属としても情報が欲しい。現状、君が一番この事件に深く潜りこんで行っていると言っても過言では無い」
「良いけれど、約束してくれる?私の身柄を魔法庁まで連行しないってことを」
「勿論だ。元より、お前を匿っていること自体を魔法庁には伝えていない。……今回のような事があったからには、正直今すぐにでも私達の仲間に加わって欲しいがな」
今回の件、と言うのは俺があの男に襲われた事についてだろう。確かにあれは俺が単独行動を優先して起きた不始末だ
政府所属で、様々な安全策が考慮されている立場にいれば、同じような目に合う事は大幅に少なくなるだろう
……今でも、身震いしてしまう程恐ろしい体験だったことは、認める
「だが、お前には、お前なりに譲れないものがあるんだろう?ルビーの事で借りがある以上、私はお前の意思を尊重するつもりだ」
「信じるわよ、その言葉。と言っても、私が話せることは思ってるよりも少ないと思うわよ?」
「構わない。少しでも情報の共有が、あの妙な男たちを暴くヒントになるかも知れない」
力強く答えるフェイツェイ。もとい千草を信じて、俺は一応の本名を明かして、彼女の質問に答えていくことにする
書面も拇印も契約書だってありゃしない口頭での口約束でしかないが、そこは彼女の誠実さに賭けるしかない。元より、助けてもらった恩義がある上に、どのみち今の体調では逃げることも出来ない
彼女を信じて、俺はあの時何が起こったのか、そこから得られた男の情報を。主に背格好や口調と言った心もとない内容ではあったが、伝えていった
妖精の魔力に関しては、パッシオの事にも繋がるので伏せさせてもらったが
「無理矢理でもお前を連れ去ろうとしていたという事は、やはりアイツは魔法少女を集めて何かをしようとしている、と言う事か」
「バックに研究者がいるような話もしていたし、魔法少女か魔力を非合法に研究しているような連中がいるのかも知れないわ」
「成る程。ついでに調べていた噂と言うのは、あの神隠しか?」
「あら、貴女も知っていたのね。まぁ、私もアズールから聞いたまた聞きだから本当に詳しくは知らないのだけど、同時期に起こったおかしな話だからちょっと気になってね」
「確かにな。もし神隠しが、お前を連れ去る時のように誘拐していたのなら、多少は関連がある様に思えて来る」
「わざわざ記憶を綺麗に切り取って、返してあげる理由は分からないけどね」
何度となく意見を交わすものの、やはり後半は想像の範疇だ。今回分かったのは、男たちは魔法少女をその場でどうこうするのではなく、連れ去っている可能性が高くなったこと、バックに少なくとも研究者がいることくらいか
まだまだ分からないことだらけだと、ため息をつきながら、大人しくしているのが飽きて来た墨亜を程々にかまっていると、再び部屋のドアがノックされた