奇妙な噂
弾数も減らしてもらったし、咄嗟に張った薄っぺらい障壁じゃなく、しっかりと防御用の障壁なため、今度はなんとか凌ぎ切ったが、また魔力が減った。このままではジリ貧の挙句、魔力切れで閉じ込めている魔獣達を逃してしまう
「アメティア、ノワール、強力な魔法の準備を!!もう数分閉じ込めておくのが限界よ!!」
「でもそれだとアリウムに負担が……」
「そんなの後回し!!これ以上先に進まれたら、本当に市街地まで魔獣が到達するわよ!!」
心配するアメティアに檄を飛ばしてやるべきことの優先順位を無理矢理訂正させる
俺の怪我なんて後でどうとでもなる。それこそ自前の治癒魔法がある。優先すべきは目の前の大量の魔獣の討伐だ
そんな俺の言葉に口をグッと真一文字に結びながらも、一応は納得したのだろう。俺から視線を外すとノワールを促しながら魔力を高めていく
しかし、相変わらず凄い魔力量だ。自分も大分多い方だとパッシオから言われているが、より後方からの支援に特化したこの二人は、魔法少女歴が俺よりも長いのもあってか俺よりも一回りほど魔力量が多い
その魔力を惜しみなく、時間をかけて魔法へと昇華させていくなら、間違いようのない超高火力の魔法が放たれる筈
その二人の邪魔をされないように、守るのが今回の俺の役目
三度目の角の掃射。魔力の残り残量もいよいよ本格的に不味くなって来た
魔獣を閉じ込める大きな5重の障壁、二人を飛んで来る角から守り切るだけのこちらも分厚い障壁
「――うっ、ぐぅぅ!!」
合計7枚の強力かつ広範囲な障壁は俺の残り魔力をガリガリ削って行く、苦肉の策として、俺に関してはノーガードで行くしかない
障壁に囲われていない俺だけが飛んで来る角の攻撃にさらされ、次々と傷を増やしていく
幸いなのは身体を貫くような大きな角は飛んで来ない事か。酷い裂傷程度なら、どうとでもなるはず
ただ、キツイものはキツイ
「二人ともまだ?!?!」
「もうちょっと!!」
意識的な話でも持ちそうに無い、血を流し過ぎたらしい
朦朧とし始めた意識の中、気合いだけで障壁も諸々を保たせる。俺が生命線だ、何としても耐えきる
増える傷と流れる血の量に冷静にヤバいかもと脳裏に掠めながら二人に問いかければ、必死の声が聞こえて来た
「行けます!!」
「私もっ!!」
いよいよヤバいかもと思った頃、ようやく魔法が溜まり切ったらしい。二人の声にホッと息を吐く
瞬間、魔獣の断末魔と降り注ぐ魔法の暴力がこの事態の終末を知らせた
「おせぇっ!!」
アズールが目の前の魔獣の動きに合わせて、担いでいた戦斧を振り下ろす
ガキンっという音と共に魔獣の角とアズールの戦斧がぶつかり合うが、有利なのは圧倒的にアズールの方だった
「やれ!!フェイツェイ!!」
「言われなくとも」
アズールの魔法具『ヴォルティチェ』は魔力を込めることで重さが増す武器だ。その重量の増した戦斧で、魔獣の角を無理矢理押さえつけると、魔獣はそれで身動きが取れなくなる
巨大すぎる故の代償だ。大きいのは強力だが、こういう風になると取り回しが効かない
策士策に溺れるではないが、こうなればようやく奴の首を直接狙える
「『固有魔法』。――絶閃『翡翠』」
「ぶおっ?」
固有魔法、魔法少女が至る必殺の大技。躊躇いもなく、私はその切り札を切り間抜けな魔獣の情けない声が聞こえた
その数秒後、首がズレる様に魔獣の首と胴体が落ちたと同時に私は魔導器を鞘に納めた
「向こうも終わったみたいだな」
「そのようだな。早く合流しよう」
アズールの視線の先を追えば、恐らくノワールとアメティアの大規模魔法だと思われる光が、群れていた魔獣の向かっていた先で上がっていた
どうやら向こうも無事に魔獣を仕留めたとみていいだろう。早く合流してノワールを褒めてやらねば