奇妙な噂
魔獣が出た郊外の近くへと辿り着き、詳しい状況を把握するために一旦足を止めて、俺は周囲を確認する。
「これは……」
辺りではあちこちで戦闘の痕跡がある。既にこの街の魔法少女達が戦っているようだが、それにしたって広範囲に戦いの痕が窺えた。
「今回の魔獣はどうやら群れる習性があるみたいだ。かなりの数がいるよ」
「数で押すタイプなのね。下手な力押しよりも厄介ね」
あちこちに残る破砕痕や、刃物での傷痕などから察するに、移動しながら戦っているらしい。
その理由が、今回の魔獣が群れで行動するタイプだからのようだ。
俺の感覚にはイマイチ掴めていないが、精度の高い魔力探知が出来るパッシオの感覚には正確な数が探知されているのだろう、中々に渋い顔をして、辺りを睨んでいる。
「とにかく合流しよう。幾ら優秀な魔法少女と言えど、数の不利はかなり厳しい筈だよ」
「分かってるわ。場所は、聞かなくても分かりそうね」
正確な現在位置の特定を、と思ったけどこちらまで届く轟音と、巻き上がる土埃に、探し出す手間は省けた。
俺から見て右側、少し街に近付いた街道沿いで戦闘が起こっているらしかった。
そこにまた建物の屋根や屋上を蹴って、大急ぎで近づくと、その乱戦模様は想像よりもずっと上だった。
「鹿の魔獣。それにしても、なんて数なの……」
頭部に巨大な角を携えた3mを超える鹿の魔獣。現実に存在するヘラジカと呼ばれる巨大な鹿と同等のサイズの魔獣たちが、恐らく50を超える数で街道を爆走していた。
「アメティア!!ノワール!!」
「――!!アリウム!!来てくれたんですね!!」
「お姉ちゃん!!」
その脇を並走するようにアメティアとノワールが魔法を度々群れの中に叩き込みながら、少しずつ数を減らしている様だった。
だが、それで足を止められているのは多くない。移動速度がかなり速い上に一体一体が強力な魔獣のようだ。恐らく一体でBクラス。群れでいるとなればこれはもうAクラス、下手をすればSクラス指定の災害クラスに変貌する危険性だってあるかもしれない。
なにより厄介なのは、この群れ。魔力量が多い魔法少女を捨て置いて、一心不乱に街へと走り続けている事だ。
今は郊外だから人は少ないし、いても皆避難指示に従っている筈。この数が街へと押し寄せたら、街は文字通り蹂躙されてしまう。
「アズールとフェイツェイは!!?」
「二人は特に大きな個体の対処をお願いしました!!多分、元々この群れのボスだった個体です!!」
「私達で魔獣さんを止めようとしたけど、魔獣さん足が速くて当たってくれないの……!!」
成る程、Aクラス二人が同時に相手どらなくちゃならないとなるとかなり強力な個体だと想像できる。残った二人で少しでも足止めをと思ったけど、上手くいってないってところか。
なら、俺がするべきは一つ。
「私が足止めします!!二人はその後に強力な魔法を惜しみなく使ってください!!」
「分かりました!!」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、任せなさい」
俺の指示に頷いて応えるアメティアと、不安そうにこちらを見るノワールの頭を撫でて安心させる。
こんな数の魔獣を見るのなんて、誰だって初めてだ。最年少のノワールが恐怖で逃げ出さないだけ、とても立派だ。
だからこそ、俺は彼女達の不安を払しょくする。
「パッシオ!!座標指定を手伝って!!」
彼女達よりさらに先に先行して駆け出して、肩に乗るパッシオに協力を頼む。
流石に範囲が大きい上に時間も足りない。正確にやるなら相棒の力を借りるのが一番だ。
「任せて、閉じ込めるのはこの先の交差点!!座標アンカー、目視でセット!!しくじ
らないでね!!」
流石は相棒、俺のやりたいことはすぐに見抜いたらしい。500m先の交差点、そこから赤い光が細く立ち上り、障壁を張るための目印になる。
ただ、ここからより正確に障壁を張るにはまだあの交差点の全容が分からない。そこで俺は空中に障壁を階段のように展開して駆け上がって行く。
「見えたっ!!」
「OK!!展開まであと7秒!!6、5、4、3、2、1――今っ!!」
駆け上った先、より高い場所から交差点全体を見下ろした俺は、パッシオが撃ち込んだ座標アンカーを元に一気に魔力障壁展開の準備を始める。
同時に始まるパッシオのカウントダウン。恐ろしい勢いで地面を揺らしながら爆走する鹿の魔獣達がまた同じようにその交差点へと近づいて行き、パッシオの合図と同時に、俺は5重に重ねた魔力障壁を交差点の3方に展開。
なだれ込んで来たおよそ50の魔獣が障壁に衝突していき、その全部が交差点の中心部へと収まったのを視認したと同時に、最後の4か所めの一辺の魔力障壁を展開し、鹿の魔獣を障壁の中に閉じ込めた。
お待たせしました。仲間内で旅行を楽しんだのですが、GWならではのトラブルなどもありつつ楽しかったです
旅行中に総合評価2000ptも超えまして、いやはや有難い限りです。気軽なコメントや感想、ご指摘、レビューなどなど、作者のモチベーションの維持的にも大変助かってます。評価ポイント共々いつも通り気軽にどうぞ
誤字報告もありがとうございます。魔法庁を魔法局と間違えていたりして、思いっきりブルームちゃん達の世界に行ってましたね……
アリフルだと魔法庁なので、すみません訂正しておきます
ともあれ、今日からまた毎日更新を心掛けます。是非よろしくお願いしますね
目指すは二度目の総合ランキング入り、邁進したいと思います