これから戦う者達へ
なんてことだ。これでは魔法少女が沢山生まれている意味がない。
ヘタをすれば、年端も行かない少女達を無意味に危険に晒しているだけ。本当に無意味になりかねない。
だってそうだろう。彼女達は『少女』だ。今までごく普通に生活をしていたただの女の子に、才能があるからと勝手に魔法少女としての力を開花させて回らせて、自分たちの不始末を、人間界側にバレないように都合よく始末してもらおうって考えなわけだ。
頭が痛いどころの話じゃない。あってはならない、やってはいけない最悪の愚行だと俺は思う。
そしてこの分だと、妖精が魔法を使えても、それを魔法少女にレクチャーしたり、直接人間界側を手助けするつもりは無いのだろう。それが恐らく妖精界全体に蔓延した意識。
……では、コイツは?目の前にいる、コイツはどうなんだ?
「……じゃあ、なんでお前はその事を懇切丁寧に俺に話してくれるんだ?妖精なら、勝手に魔力を発現させて、とんずらして終わりだろ?」
「……そう、だね。突然こんな裏話をしても、僕も信じてもらえるとは思っていないよ?本来なら、僕は君に接触することなく、勝手に魔力をこじ開けて魔法少女にして、ハイお終いだ」
「だよ、な。お前も妖精だって言うなら、今聞いた話をそのまま信用するなら、そういうことだろ?」
俺は目の前のコイツに問いかける。最初こそは調子良く語りかけて来ていたけど、蓋を開け、鍋をかき回して出て来た話は、もしかして妖精界側の機密ってやつじゃないのか?
それを、俺に聞かせてどうする?こいつだって妖精だ、本当ならこうして会話をすることすらしてないんじゃないか?
疑問をぶつけた俺に、目の前の妖精はゆっくりと目を閉じて、考え込む様にしばらくじっとしている。
やがて、ゆっくりと口を開くと。
「ここから先はきっと茨の道だ。今までのことならお互い聞かなかったことにできると思うし、そうする。僕らは出会わなかった、僕の勘違いだったで何とかごまかせるかも知れない。でも、ここから先の発言は、君を大きく巻き込むかも知れない」
「……良いよ。話せよ、むしろ中途半端にされたらそれはそれで納得できない」
「……分かった。言うよ、理由は単純さ。嫌だったのさ」
嫌だった、目の前のこいつは噛み締めるようにそう言う
「僕達が勝手にやったことで、理由も分からないまま魔法少女になった女の子が、大人だって怖い魔獣に命懸けで戦いを挑むことになる。そんなのあり得ちゃいけなかったっ、あの子達はっ、魔法少女は子供だ!!本当なら、両親に見守られながら学校で笑って過ごしてる年頃なんだ!!それがっ!!僕達妖精の身勝手で血みどろになりながら戦うのは、おかしいんだ!!それを、知らない顔して眺めている妖精達も!!おかしいんだよ!!」
その声は懺悔だった。その声は慟哭だった
目の前の妖精は、小さな体躯で床を叩きながら、大粒の涙を流して身内の理不尽を叫ぶ
おかしいと、間違っていると、なんでこんなことが出来るんだと
同時に、妖精が何を求めてここに来たのかを、俺は理解した
「その癖、自分だけじゃ解決できないからって、また人間に戦ってくれって頼もうとしてる僕もおかしいんだっ!!!!おかしいんだよ!!チクショウ!!チクショウ……」
この妖精は、きっと俺に戦って欲しいのだ。この理不尽を打破するために
ちゃんと自分で考えられる成人した男性で、魔力適性のある俺に、一縷の望みを掛けて、この場にやって来たのだ
「……お前、この事俺に話したらどうなるんだよ」
「さぁね?おそらく、僕はこのまま妖精界に戻ってもこの現状が納得できずに一人であっても何か行動を起こすのかも知れない。そうなったら僕は反逆者だ。そこからは言わなくても分かると思う。それに、もし君が戦いたくないと言うなら、君を政府の魔力研究機関へと連れて行くつもりだ。そこなら、君を保護してくれる。いざとなれば僕をつき出せば妖精って存在を世に知らしめることも出来る」
「そう、か……」
少々、回りくどい説明ではあったが、妖精なりの葛藤があったのだろう
それに、最初から詳しい説明も無しに、本当の理由を告げられても、頭が追い付かずに突っぱねていたかも知れない
コイツもまた、自分勝手な妖精なのだ。だが、他人の事を考えられる優しい妖精だ
それが、最初からそうだったのか、何か理由があったのかは、俺の知る由じゃあ無いが
それ以上に、脳裏によぎったのは一年前、前の仕事を辞めた時の事だった
誰かを助けようと必死になって、でも助けられなくて、挙句逃げ出して
一年間、ずっと悔やみ続けていた事をもしかして、目の前のコイツも経験したんじゃないかと考える
じゃなきゃ、『あの子達』なんて言葉は出て来ない
救いたいのに救えなかった、救えるのに救わなかった。どちらかはわからない、でもコイツはそれを悔いている。俺も、それを悔いている
そして、コイツには手段があるが力はない
俺には力があるが手段がない
答えは、自然と出ていた
「……やるよ、魔法少女。それが、俺に出来る事なら」
「……正気?何が起こるか分からないんだ。冷静に考えれば、政府機関で保護を受けながら、生活すれば君の生活は安泰だよ?」
「だろうな。でも、それはそれでゴメンだし」
行動制限ばかりで面白くなさそうだし、下手すればどのみちモルモットだ。そんなことになる位なら、逃げも隠れもしない方が性に合っている
何より
「それに、友人が泣いて頼んでるんだ。断る理由は無いだろ?」
「……ははっ、君って言う人間は、とびっきりのお人好しなんだな」
「そうでもない」
こうして、本来あり得ないはずの魔力適性のある成人男性と、変わり者の妖精のタッグは生まれた
一年前、覚えてもいない言葉が現実になった瞬間で、長い長い俺たちの戦いの始まりだった