赤い髪と青灰の瞳
で、結果として、その男性とは会えることになった。ただGWは予定があるとのことで、4月最後の週末で会うことに。
そうすると今度は私達のメンバーも何人か用事があって、来ることになったのは私、墨亜、朱莉、紫ちゃん、舞ちゃん、委員長の6人。
千草は今日がデートの前準備ということで買い物に行くつもりだったみたいで、碧ちゃんは家族で初めての遠出らしい。
3グループある3姉妹の姉役二人が抜けたのが何とも心もとないけど、何とかなるかな……?特に委員長のブレーキ役が物足りないんだけど。
「あ、来た来た。こっちでーす!!」
初めて会う男の人ともあって、ちょっと緊張してる。
そんな私の緊張をよそに、集合場所として選ばれた街の中でもひと際広い敷地の公園にある野外の音楽ホールの前でその人の事を待っていると、朱莉が遠くに手を振っている。
どうやら件の男性が来たらしい。そちらの方に手を向けると、うん、遠くから見てもやっぱりわかりやすい赤い色の髪をした男性がこちらに歩いて来ていた。
どうやら、付き添いの人もいるようだ。そっちの人はどうやら女性らしい。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ今日はよろしくね。ほら、アナタもちゃんと挨拶しなさいな」
ほぼ初対面ということで、いつもの口の悪さはナリを潜めた、文字通り猫を被っている朱莉の様子を見ながら、男性と一緒に来た女性の事を観察する。
女性は見たところ特に変わったところは感じない。猫目が特徴的で大人の色気が漂うお姉さんといった感じだ。
男性の方は話に聞いていた通り赤毛で青灰色の私と同じ特徴を持っている。でも身長は高いし、目元は常に機嫌が悪そうに皺が寄っている。身体も鍛えているみたいで七分袖のTシャツの袖口から覗く腕は細くてもガッシリと筋肉が付いている。
でも写真で見たよりずっと若く感じる。もしかして、歳はそんなに変わらないかも。高校生くらいかな?
「……エイだ。今日はよろしく頼む」
「全く、もうちょっと無いの?ごめんね、この子ったらぶっきらぼうで怖い顔してるから中々友達出来なくて……」
「余計な事は言わなくていい。さっさと要件を済ませた方が良いんじゃないのか?」
そう言って、エイと名乗った男性は私の方へ視線を飛ばす。それが、悪意は無いのだと分かっていても、目つきの悪さから睨んでいるように見えて、私は咄嗟にパッシオの影に隠れてしまう。
ひょっこりと少しだけ顔を出してからぺこりと頭を下げる私に、皆は苦笑いって感じで申し訳ない。
「ほら、アナタが睨むから可愛い子がびっくりしてるじゃない」
「別に俺は何もしてないだろ」
「まぁまぁ、エイさんとお姉さんも喧嘩しないで。あの子、人見知りだからさ。ちょっと公園でもお散歩しながら自己紹介なんてどうです?」
口喧嘩を始めてしまいそうな二人に、委員長が仲裁に入ってとりあえずは話しながらぶらついてみようということになった。
この公園は広い。小さいけどバラ園とかもあるし、他にも野球場や陸上競技場、屋内プール、弓道場なんかもある街が直接管理してる本当に大きな公園で、中心には大きな人工池と噴水もある。
一周もする頃には自己紹介くらいは余裕で終わると思う。
「それじゃあそうしましょうか。あ、私の事は愛菜って呼んで頂戴。フルネームは仕事の関係でちょっとね」
「愛菜さんとエイさんですね。じゃあ早速行きましょうか」
委員長先導のもと、公園をのんびりと散歩しながらのお喋りが始まった。
「へー、じゃあお二人はジャーナリストをしてるんですね」
「私が本職で、彼がその補佐みたいな感じよ。こう見ても実はこの子未成年でね。色々事情があって、普段から私が世話を焼いてるのよ」
「フルネームが明かせないというのもそれが関係してるんですか?」
「ジャーナリストといっても色々あるでしょ?その中で、私達はあっちこっち飛び回ってはスクープを狙っててね。そのせいか敵も作り易くて」
成程、と私達は納得する。ジャーナリズムというのは真実を広く世界に伝える仕事だ。最近は真偽不明の情報や、偏向的な内容が目立つためテレビや新聞といったメディアは眉唾扱いされることも多いけれど、やはりどうするにしても敵を多く作りやすい職業の一つなんだと思う。
日常的に気を付けないといけないくらい、危ない橋も渡って来たということなのかな。
「でも、エイさんにも色々事情がある環境ってなると、いよいよ真白先輩と似てるっすね」
「あら、そうなの?」
舞ちゃんの言葉に、愛菜さんはちょっと驚いた表情をする。そんなところまで似ている、と評価されればまぁ驚くよね。その事情、って内容にもよるけどさ。
「その、あんまり大きな声で言うことでは無いんですけど、実はあんまり両親の事が分からなくて」
「父親と連絡を取ろうと試みたんですが、残念ながらその父親が行方不明でして。少しでも情報が欲しいところなんです」
「成程、だから同じ髪色と目をしているエイについて話を聞きたいって事だったのね」
合点がいったと頷く愛菜さん。エイさんは相変わらず不愛想というか、どっちかというとどうしたらいいのかわからないから喋らないといった様子で、しかめっ面でズボンのポケットに手を入れながら歩いている。
私はパッシオと手を繋いで歩いている。まだちょっと緊張気味です。申し訳ない……。




