赤い髪と青灰の瞳
私がうんうん唸っている隣ではあれこれ予定が立てられているようだ。一応、千草と碧ちゃんと舞ちゃんの話も聞いてあげたほうが良いと思うんだけど、何やら話はだいぶ盛り上がっているらしく特に元からイケイケドンドンな委員長が押し切ろうとしてるっぽい。
「うーん、もう一度会えたら声かけてみるけど、会えるかどうかは分からないわよ?」
「それでももしかしたら何かヒントになるかもしれないからさっ。同じ髪と瞳で、見るからにハーフっぽい人がそう何人もいないって!!」
「でも、この方の都合もあるでしょうから……」
「それのお伺いを立てるんじゃん。会ってみて、断られてからでも全然問題ないでしょ?」
いつになく委員長は押し強めに主張していて、朱莉と紫ちゃんは押され気味。何するつもりなのかはわからないけど、折れるのも時間の問題、かな。
因みにいつの間にか蚊帳の外にいた墨亜は、おやつに持って来たカスタードプリンを満足そうに頬張っている。相変わらず超の付くマイペースぶりでブレないねこの妹。流石は光さんの実の娘、肝が据わってる。
「よぉし、じゃあ朱莉ちゃんよろしくね」
「どうなっても知らないわよ、私」
「なるようになるって。やらないよりは良いと思うよ」
しっかり押し切られたらしい朱莉が肩を竦めて委員長に文句を言っているけど、その委員長は一つも気にしている様子が無い。
こっちはこっちでメンタルの図太さがピカイチだなぁ。お嬢様って、何処かのネジが取れてないとやっていけないのかな。
「それ、真白お姉ちゃんが言う?」
「なに墨亜。私の事を変人だって言いたいの?」
「うん」
躊躇いも無く頷かれるとそれはそれで少し凹むわ。そこまで変人ではないと思う。少なくとも個性強めな皆よりは落ち着いている、はず。
だってほら、今だってこんなに大人しい。
「そーいうところだよ」
不服そうにしてたら墨亜に追加で釘を刺された。ここまで妹にボコボコにされる兄姉はいるんだろうか。
カスタードプリンを相変わらずマイペースにつつく墨亜と、ちょっと凹んだ私が机に寄りかかってぐでっとしていると、後ろから抱きかかえられる。
「GWの予定、決まったよ真白ちゃん!!」
「うんうん、どうなったの」
押し切ったことは分かってたけど肝心の内容は知らない。さて、委員長は一体なにを思い付いたのか期待半分、警戒半分といったところ。
たまにとんでもない事素でやろうとする天然だから舵取り大変なんだよこの子。すぐ暴走するし。ブレーキ壊れてるの?
「真白ちゃんと同じ髪と目をしてる人に、会って見よ!!」
「……はい?」
ここで疑問形で返したのは、全く以て当たり前の反応だと思うんだよね。
「成程ねぇ、真白ちゃんと同じ髪の色と瞳の色をしたハーフの男の子か。確かに気になるわね」
自宅に帰り、光さん達にそのことを話してみる。私としては会う理由も、会わせる理由もないと思うんだけど、光さんは案外肯定的な意見を持っているようだった。
「私、兄もいなければ弟もいませんよ?」
「真白ちゃんのお母さまのご親戚、というのも考えられるじゃない。お母さま譲りなんでしょ?その綺麗な赤い髪と、青灰色の瞳は」
私が知る限りでは、両親の親族は見たことないし、兄弟もいない。ただ、それは私から見た視点であって、母の親族はいて当然だ。
父の行方にしろ、母の生まれ故郷やら何やらにしろ、私は家族について知らない事が多すぎる。
「ねぇ、パッシオはどう思う?同じ髪と目の色してるからって、わざわざ……。パッシオ?」
パッシオにも意見を聞いてみようと話を振ってみると。何やら真剣に考え込んでいる様子だった。
何か仕事で難しいことでも任されたのだろうか。あんまり邪魔しちゃ悪いかな……?
「同じ赤い髪と青灰の瞳……?いや、そんな簡単な話では……」
「……パッシオ?」
邪魔しちゃ悪いのかなと思ったけど、段々と顔が険しくなっていってぶつぶつ何か言い始めた。ちょっと怖い。あんまり怖い顔してほしくなかったから、服をくいっと引っ張るとようやく私が声を掛けているのに気が付いたようだった。
「ん?あ、ごめん。どうかした?」
「パッシオは、会った方が良いと思う?」
呼ばれていることに気が付くと、いつもの表情に戻る。良かった。
内心でほっと息をついて、同じ質問をぶつけてみると、パッシオは少し考えてから、口を開く。
「会ってみても良いんじゃないかな。僕も少し気になるし。大丈夫、僕が一緒に行けば問題ないよ」
「……うん、わかった。じゃあ会うことになったらよろしくね」
そして、パッシオも一度は会ってみると良いんじゃないかって判断を下したみたいで、不安そうな私を心配したのか、いつも通りのボディーガード役を買って出てくれる。
とは言っても、今はまだ会うことになるかもしれないってだけ。どうなるかは、まずは朱莉がその男の人と会った猫カフェで再会出来るかからだった。




