魔法少女交流会
子供たちを先に帰して、私は残ってる仕事をもう少し片付けるために会長室へと、ではなく、地下にある魔力研究のエリアに足を向ける。
ここはあの子達にもまだ連れて来てないエリアだ。研究、とあって色々危険な薬品や道具もいくつかある。何かトラブルが起きると何が起こるのかもわからない以上、子供であるあの子達をまだここに入れるつもりは無いわね。
真白ちゃんが入りたがっていたけど、あの子は逆にここに住む可能性があるから連れてこないわ。あの子の学者気質には困りものね。セーブさせないと身体の限界が来るまで活動しようとするんだもの。美弥子がいなかったらどうなっていたか。
「会長、まだいたんですか?」
「それはこっちのセリフ。何回もこのやり取りしてて飽きない?」
研究室の一つの中に入ると明依ちゃんと藤子ちゃん、雛森ちゃんが先客として中にいた。この子達も熱心だからこうして職員たちが殆ど帰った後でも普通に残ってるんだもの、もうちょっと身体を休めるように言って聞かせないと。
「話には聞いてましたけど、ホントに形になり始めてるんですね。『科学と魔法の融合』が」
「えぇ、ここまで大変だったけど、魔法庁支部から持ち込まれた資料がとても役立ってるわ。あの崩れたノーブルの研究施設から掘り出された研究レポートの数々。あれだけで一体どれだけの進歩があったか」
藤子ちゃんが手に取っている狙撃銃。仮称は三〇式狙撃銃。研究者たちからの愛称は3Sだ。
なんでも、研究者の誰かがふざけてStraight Shooting Star、なんて呼んだのが原因らしいわ。
真っ直ぐ狙い撃つ星、単純に直訳するとこうかしらね。私は嫌いじゃないわ。
「Slot Absorberが敵から鹵獲した鹵獲機なのだとすれば、この道具達はそこから得られた技術で新しく生み出された全くの新機種、ですね。最初聞いた時は夢物語だとばかり思ってましたけど、こうして手に取れるようになるとは」
「ふふふ、【ノーブル】に出来るんだもの、私達に出来ない道理は無いわ。原理を今まで見つけることが出来なかっただけ。見つかれば、私達の技術でもここまで突き詰める事が出来たわ」
「持ち出すのが大変でしたよ。普通にやってる事アウトですからヒヤヒヤどころじゃなかったです」
肩を竦めて、持ち帰ってくれた資料について苦労を掛けた雛森ちゃんを労う。本当に彼女がいなければここまで研究は進んでいない。
あくまで崩壊した【ノーブル】の研究施設の発掘作業は魔法庁側の管轄。私達魔法少女協会には何の権限も情報も齎せられなかったところを、彼女がどうにかしたのだ。
この点に関しては少々後ろ暗い事をしたと白状する。色々手を回したのよ。色々と、ね?
「まさか真面目な雛森先輩が魔法庁に対してスパイ行為をするとはねぇ」
「立場が変われば人も変わるわ。正直、今の魔法庁自体が傀儡になってる可能性すらあるって言うのに悠長には構えられないもの」
「東京本部の危うさに関してはマギサに任せましょう。ドンナにも協力をしてもらってますし、各地の有力な魔法少女、元魔法少女達にも警告を促しましたから」
「頼もしいわ。政界財界はどうにか出来るけど、そっち方面は雛森ちゃんに敵わないから」
雛森ちゃんには本当に助けられてるのよ。協会自体、彼女がいなければこうして立ち上げられたかどうか。
私が旗印を務めたと言うなら、彼女は縁の下の力持ち。いつかはちゃんと世間に評価されるようなポストに収めてあげたいけど、本人は今が丁度いいなんて言うから、どうしたものか。
それにしても、東京本部がきな臭いのは困ったものね。仮に【ノーブル】が魔法少女達の本丸を先に落としに来ているのだとしたら早急に手を打たなくてはならない。
残念ながら物理的な距離がある都合上、雛森ちゃんの言う通りマギサちゃんと双子ちゃんに任せるしかないわ。
他にも、魔法少女だけの連絡網から注意喚起、どれもやはり雛森ちゃんだから出来る事。
世界を救った11人目、と言われているだけの事はあり、魔法少女達に対してはとにかく顔が広い。それだけでとてつもない武器なのよね。
人脈、ってそれだけで価値がある物なのよ?しかも、無類の信頼を得ているタイプの人脈なんてその界隈では無敵でしょうね。
「ま、嫌な話は程々にして、と。ここまで来るとあの子達と真正面からやりあったら負けそうだなぁ」
「思っても無い事言ってんじゃないわよ」
「そうだよ。顔に思いっきり負ける気は無いって書いてる」
「あ、バレた?」
にししと笑う藤子ちゃんに明依ちゃんと雛森ちゃんは苦笑い。現役最強の魔法少女の一人の破絶の魔法少女がそう簡単に負けるとは私も思わないわ。
でも、彼女達にはそれを可能とするほどの伸びしろを感じているのも事実。【ノーブル】からの攻撃は苛烈さを増している。
彼女達の努力だけでは間に合わない時が必ず来る。そのために『エンジンギア』、『三〇式狙撃銃』、『紫紺の片眼鏡』。どれも難しいけれど、早く完成を急がないとね。




