魔法少女交流会
「だぁーっ、無理っす。もう動けないっす……」
ばたりと剥き出しの硬い地面に身体を投げ出したボクはぜぇぜぇと荒い息を何とか整えるために大きく深呼吸します。しんどいっす、マジで。
「はっはっはっ、急に寝そべると疲れが抜けんけん、息が整うまではゆっくり歩き回ると良かぞ」
「分かってるっすけど、マジで指一本動かせないっす……」
大笑いしているのはボクが街の外で疲労困憊、汗ダラダラで地面に寝そべる原因を作った張本人。
雷鳴の魔法少女 ドンナさん。雷属性の使い手としては世界最強と名高い、S級魔法少女の一人っす。
そんな超大物に協会に来ていた他の魔法少女達の案内をしていたボクは大胆にも皆の目の前で拉致され、訳も分からないままにドンナさんにマンツーマン指導を受けていたわけっすね。
因みに場所は街から結構離れた湖のほとりっす。雷属性の魔法は音も光もとにかく目立つっすからね。街の近くで全力を出すのには確かに向いてないのはわかるっす。
ただその心遣いが出来るのなら、ここまで連れて来る体勢とかに気を配って欲しかったっす。ゲロ吐きそうでした。
しっかし全く意味が分からないっす。でも、指導はめちゃくちゃ適格でした。ボクがあやふやなまま使っている雷属性魔法を具体的な用法や理論を実践も踏まえて手取り足取り教えてくれましたし。
「ごめんごめん。ウチは明日帰ってしまうけんね。短か時間に詰め込めるだけ詰め込みたかったんや」
「なんで、ボクなんですか?他にもたくさん雷属性の魔法少女はいたと思うっすけど」
詰め込めるだけ詰め込みたかった、そう言って笑うドンナさんにスポーツタオルを手渡され、ボクは汗と砂でドロドロになった肌を拭くっす。うぅ、ちょっと気持ち悪い。お風呂入りたいなぁ。
「君ほどん逸材は久々に出会うたんよ。やけん、ウチは君が何処まで行くるんかば見てみたいて思うた。君は力ば欲しとった。ギブアンドテイクやて思わん?」
更に手渡されたスポーツドリンクを口にしながら、ドンナさんの言葉を聞く。
ボクが逸材、っすか。正直、イマイチその自覚が無いって言うのが本音っすかね。ボク自身がまだ新米のペーペーで皆の背中が遠いって言うのはあるっすけどね。
平々凡々、それが僕の評価だと思うんすけど。ボクの強み、速いってことしかないっすからね」
「何言いよーと。君はまだ使い方ば知らんだけ。訓練と工夫次第で、魔法は化ける。君ん近くにいる魔法少女ん一人がそれで戦うとーやなか」
よく見てて、と言われてドンナさんは辺りから枯草とか枝を拾うと指パッチンでそれに火をつけるっす。雷属性の魔法で火花を起こして点火したんっすね。
見た目と性格の大雑把さからは考えられない器用さで焚火を起こしたドンナさんは次に地面に転がってるドラム缶を指差すと急にそれが浮き上がるっす。
突然過ぎてビビったっすけど、もしかして電磁石っすか?わ、地面から砂鉄がモリモリ出てくるっす?!キモっ?!
ビビるボクをよそに、ドラム缶を操るドンナさんはドラム缶に湖の水を汲んで、こっちに持ってくるっす。
その間に気が付いたら焚火の周りに金属っすかね?なんか黒い塊が台みたいになってて、そこにドラム缶がぴったりハマるっす。
「見んしゃい。即席んドラム缶風呂ばい」
「無駄技術が過ぎないっすかね?!」
と言うか、このドラム缶やたら綺麗っすけど、もしかして用意してたんっすか。用意周到なのかそうじゃないのかわっかんねぇっす。
え、豪快で大雑把かと思いきや天然タイプの人っすか?方言だけでもキャラ濃いのにここまで多いと渋滞するっすよ。真白先輩じゃないんっすから。
あ、嘘っす。今悪寒がしたっす。絶対なんか察されたんですみません撤回します。
にしても、雷属性の魔法ってこんなことまで出来るんっすね。何というか、ボクには全然至らなかった発想と言うか、そもそも出来るとすら思って無かったっす。
「今日はここでサバイバルばい。安心して、うちがおりゃ何ん問題も無か」
「問題あるっすけど?!」
この人マジで言ってるんすか?!この魔獣だらけの湖のほとりで一晩を?!寝床くらいはせめてあるんっすよね?!
あるって言って欲しいんすけど、オイ目を背けないで欲しいっすけど!!ちょっとぉ!!




