魔法少女交流会
アレコレと考える私を見てケイネラさんは柔らかく笑ってから続けるだけが正しいことでは無いのよ、と話す。
「続けるのは大変ですよ。理由を変えて信念を変えて戦い続ける10年は確かに大変でした。沢山の友達が出来て、沢山の仲間が道半ばで命を落としていった」
メインの商店街を抜け、広い歩道のわきに整備されたベンチに腰掛けたケイネラさんはそう口にする。
たったそれだけで、私も含めた10数名の魔法少女と元魔法少女である引率に来ていた各支部の職員さん達が背筋を正して聞く体勢を取る。
最年長、ベテランの貫禄から為せることだなぁ。私もこれから語られる事がとても大事なことだと分かる。
ノワールちゃんだって分かっているみたいで、ケイネラさんの腰かけるベンチの隣に座りながら続きの言葉を待っている。
「だから、今貴女達現役の魔法少女の周りにいる元魔法少女の皆は貴女達が同じような結末を迎えてしまわないように尽力してくれているんです。魔法少女協会だってそう。私達は大きな犠牲を払ってこの10年を切り抜け、そしてこの先も私達魔法少女の命を消耗させながら続いていくことになるでしょう」
ごくりと、誰かが唾を飲み込む音が聞こえて来る。今までの10年間、沢山の人が死んだ。それはもう数え切れないほどたくさん。
その中には誰かを、何かを守ろうとして散っていった魔法少女達も含まれている。S級魔獣を倒して、人間の滅亡を食い止めた10人の魔法少女が代表者。
そして、この先の未来。この中の誰かが魔獣や【ノーブル】との戦いで命を落とすかも知れない。それこそ、私は先日まさに死ぬところだった。
あの時は奇跡的に助かったけれど、次は無いかも知れない。魔法少女って職業はそういう職業だ。
この世界、この時代で最も命の危険がある仕事。それが魔法少女。
協会や魔法庁支部に在籍している元魔法少女の人達はこれを減らすために魔法少女を辞めたんだと私はようやく気が付いた。
「同じことを続けることだけが正しく、強いことではありません。時が経てばおのずと立場が変わり世の中の見方が変わります。その時その時で、どのような考えを持ち、そして行動に移すか、それこそが重要なことです」
「その時その時ね。確かに、思い返せば嫌って程経験してるわね」
腕組みをしながら聞いていたルビーちゃんはため息を吐いてからそう答えて目を瞑る。
なんだか考え込んでいるみたいだ。リオ君が詰まらなさそうに欠伸をしている。
その時その時、かぁ。私が経験したので言えば、ショルシエと戦った時がその時なのかな。
あの時は必死だったし、私のあの選択は間違っていたとは思っていない。どんなに無謀でも無茶だったのだとしても、立ち向かった事に悔いは一つもない。
「生きているとあらゆる場面で選択を強いられます。どうしても迷う場面や、命に係わる選択も多くするでしょう。それでも、自分が納得できる決断だけはするようにしないと後で後悔することになります」
「ケイネラさんはそういうことが?」
「えぇ、沢山。だからせめて、貴女達がそうならないように私が道しるべになる。それが、私が選んだ道であり、手段です」
そう言って、ケイネラさんは足元にやって来たリオ君を抱っこして優しく撫でる。
話はこれでお終い、らしい。色々考えさせられる貴重な話だったと思う。
ケイネラさんが魔法少女を続ける理由で、元魔法少女の人達が支部やその他企業や組織に所属している理由で、私達がどうしたいのかを改めて思い返す機会になったのかな。
まだ私はぺーぺーの新米だからアレだけど。
始める理由、続ける理由、辞める理由。どれも大切なんだろうなと思った。
でも、理由がしっかりしてれば何とかなるかと言われればそうでも無くて、うーん難しい!!
「単純だけれど難しいでしょ?大人になってもそれにはとっても悩むから、コツとしては自分に正直になる事、かしらね」
「うーん、自分には正直に生きてる気がする」
「グレースアは私達の中でも悩みは少なそうよね」
「悩む前に動けがモットーだからね!!」
くよくよしてるのは性に合わないからね!!そういうルビーちゃんだって私側でしょ?アズールちゃんも!!私達は似た者同士だよ。
腕組みをして難しい顔をしているルビーちゃんに抱き着いてわしゃわしゃする。あははは、ルビーちゃん温かいねぇ。
「はっなれなさいよ!!ホント、クラスメイトの抱き着き魔にそっくりだわ……!!」
「なら良いではないか良いではないか~。その時に悩めばいいじゃーん」
「あーもうわかったから離れなさいよ!!後衛魔法少女のクセに何なのよその腕力は!!」
何だか硬くなった空気もこれで壊れるでしょー。今日は半分お遊びなんだから気軽に気軽にー、ね?
ニッとケイネラさんに笑顔を見せると、ケイネラさんはパチンとウィンクしてくれた。えへへ、多分褒められた。やったぜ。




