魔法少女交流会
炸裂した札の衝撃で吹き飛ばされたクルボレレは素早く身を翻して着地、すぐに駆け出してもう一度接敵を試みる。
とは言え瑞鬼も一度された攻撃方法で容易く突破される程甘くも無い。お札を大量にまき散らし、それらが何枚も壁になる。
正面から攻め込めなくなったクルボレレは回り込むけれど、それは誘導された隙間。再び炸裂するお札を叩きつけられ――。
「彼女も上手いですね」
「こっちは忍者みたいやなぁ。見た目は全然ちゃうけど」
雷属性の魔力で作られた分身が霧散して消える。クルボレレが持つ数少ない手立ての一つだ。
温存しておきたいところだったけど、格上と判断してすぐに判断を切り替えたみたいだ。
この切り替えの早さと思い切りの良さがクルボレレの強み。不意を突かれた瑞鬼が慌てて周囲を見渡したところで、上からクルボレレが雷を纏わせた踵落としをお見舞いする。
すんでのところでお札壁で受け止めけれど、生憎一枚一枚にはそこまで大きな効果は無いのだろう。一瞬の拮抗と共にクルボレレが蹴破り、今度は瑞鬼が吹き飛ばされた。
「まだまだ手数は少ねぇけどな。別に一直線に突っ込むだけが取り柄ってわけでもねぇんだ。今回の魔法少女同士の戦いはクルボレレにとっちゃ良い刺激だろ」
「良いタイミングだな。伸びしろは残ってるとはいえ、スピード特化だけでは並の魔法少女の平均が精一杯ってことが嫌でも分かるはずだ」
ウチの姉役二人が冷静に戦局を分析しながら、クルボレレの成長には必要だと結論付ける。
私も同感だ。私達は役割をそれぞれに割り振って戦う、他の街の魔法少女達がスタンドプレーが多い中で効率と戦略を求めた私達はどうしても個人の力の把握というのが難しい。
全体の歯車の一つとして動くからだ。自分が弱くても小さくても、役割を果たすことで強大な敵にも立ち向かえるのがチームとして戦う強み。
それが自分の能力の評価を誤らせてしまうこともある。それは私達にとっても、クルボレレにとっても不幸なことであり不利益を生み出してしまう。
クルボレレが天狗になるとはとても思わないけどね。ただ、もっと広い視野を持っておけば、過信し過ぎて失敗することも少なくなる。
かと言って、強い相手と戦わせすぎると自信を失ってしまうから難しい。
「しっかし結構鬼やなぁアンタら。負けるで、あの子」
「それで凹むような子じゃないですよ。むしろ成長の促進剤です」
「メンタルの強さがアイツの強さなのよ。それに、タダで負けるような鍛え方もしてないわ」
鼓ちゃんの言う通り、クルボレレはこの戦いでは勝てない。選出された時点でそれは分かっている。
ただしアメティアとルビーが言うことの方が正しい認識。タダで負けるような子でもない。
メンタル強度で言えば、私達の中で一番だ。でなきゃ、あのクライスが変化した魔獣と一人で戦うなんて勇気は沸いて出てこない。
先輩魔法少女の鬼のようなしごき方だとは思うけれどね。鼓ちゃんもクリスちゃんも目を丸くしてから呆れ顔だ。ホント、酷い先輩達だよねぇ。
「クルボレレちゃん頑張れー!!」
「クルお姉ちゃんふぁいとー!!」
必死になって応援しているのはグレースアとノワールの二人だけ。それが届いているかどうかは判別しかねるけど、クルボレレは自分の持っている数少ない手札から必死に瑞鬼を攻め立てていた。
「くぅっ!!」
「おりゃああぁっ!!」
何度目かの接敵。壁をばら撒いて姿を隠した瑞鬼と雷を纏わせたパンチで無理矢理それを貫いたクルボレレ。
姿を隠して逃げようとする瑞鬼を執拗に追い立てて行くのは正解だ。
あともう数回離されるような事になれば瑞鬼の方の仕込みが終わる。本当に面白い戦い方だ。お札の一枚一枚に効果があるのかと思えば、それらを組み合わせたりして全く違う効果を発揮させている。
今は燃えるお札と壁のお札を組み合わせて、地面に設置しておくことで発動する地雷型の魔法が発動した。
「あっつ?!」
クルボレレが怯めば攻防は入れ替わる。次々と投げ込まれるお札を必死に避けるクルボレレ、徐々に距離を取り自分が得意とする状況を作り上げようとしている瑞鬼。
手に汗握る戦いだ。二人の戦いだけを見ていれば、だけど。
もう何枚も訓練場の地面にお札が投げつけられている。クルボレレは避けることと攻め返すことに集中し過ぎているせいで気が付いていない。
そこに気が付けていない時点で、クルボレレの負けは決まっているようなものだのだ。鼓ちゃん達もそれを見てさっきそう言った訳で。
「これはやっばいっすね!!」
「手加減はするけどごめんね!!」
地面に張り付けられたお札の効果で空中に浮かび上がった巨大な魔方陣。明らかに強力な魔法を放つための砲台のそれを見たクルボレレが魔力の奔流に飲み込まれたところで初戦は幕を閉じた。




