魔法少女交流会
模擬戦を始めるにあたり、周囲にいた30人近くの魔法少女達を訓練場の壁際へと退避させる。
流れ弾に関しては魔法少女だから大丈夫だとは思うけれど、もしも怪我でもされたら問題になりかねないし、障壁を張っておけば後は大丈夫でしょ。
貫通するような大魔法は流石にこの狭いスペースでは使おうとも思えないし。
「おぉ……!!」
「これが噂に聞く障壁魔法やなぁ。確かに早いし、堅いし、正確やしで言うことないわ」
「防御役には自信がありましたけど、これは凄いですね……」
指パッチンで訓練場、その内側だけを切り取る様に障壁を張り巡らせると少しのどよめきと感心したような声が聞こえて来る。
これで流れ弾は大よそ問題ないと思う。後は個人で対処してほしい。
「じゃ、どうする?誰からにする?」
「ウチからは瑞鬼を出すわ」
「うぅ、何で私達まで……。符呪の魔法少女 瑞鬼です。お手柔らかに……」
最早半泣きの双子の片割れにはもう同情以外の何物でもない感情しかわかない。巻き込んだの私だけど。
それにしても符呪の魔法少女か、名前からはあんまり戦い方が想像出来ない。
どんな戦い方をするような魔法少女なのか、少し楽しみでもある。
「そっちは黄色い魔法少女よ」
「了解っす。疾駆の魔法少女 クルボレレっす。よろしくお願いします」
対するこちらのトップバッターはクルボレレだ。いつも通りの先鋒役とあってあまり気負いはして無さそうだ。
というより、今回は魔法少女同士のじゃれ合いみたいなものだし、普段経験してきた戦いよりはずっと気軽なんだろう。
軽く体を解して両ひざに手を置いたクルボレレは戦闘の開始を待つ。
瑞鬼さんも同じだ。手には何枚かの紙を握っているのが気になるところ。
「あ、クリスさん。試合開始の合図お願い」
「え?あー、おほんっ。では、試合開始っ!!」
こういう時、音頭を取るのは第三者と相場は決まっている。すっかり忘れていた私は、近くにいたクリスさんにお願いして、早速試合開始の合図を出してもらった。
意外とノリが良いらしい。声の調子を整えてから大きく発されたよく通る声を耳にした二人は、一斉に動き出す。
当然、先手を打ったのはクルボレレの方だ。
バチリと紫電が奔ったと思った頃には既に瑞鬼さんの前に移動している。疾駆の魔法少女は伊達ではない。この中でもトップクラスの移動速度を持っているだろうクルボレレは、特に後衛型魔法少女の天敵とも言える。
私もやりあえと言われたら、自分の周りを障壁で囲わないと無理だ。視認では防御が間に合わない。
「っ!!」
「おっ」
「上手いなぁ」
下手をすれば初撃で終わる可能性すらあるだろうとまで予想していたけれど、瑞鬼さんは見事にその予想を裏切ってくれた。
地面に叩き付けた紙が炸裂して、閃光と衝撃をクルボレレに与えたのだ。
突然の事に怯んだクルボレレは脚を止めてしまい、これで先手必勝とはいかなくなった。
「成る程、面白い魔法を使うんですね」
「符はお札の意味もあるからな。ある意味では日本古来からある陰陽師のような戦い方をするんだろう」
「それで瑞鬼、ね。自らの魔を調伏して、清らかモノにしたって意味ならいよいよ陰陽師を意識してそう」
アメティア、フェイツェイ、私で瑞鬼ちゃんの戦い方について考察する。
元々珍しい和装系衣装の魔法少女だった双子の片割れである彼女の戦い方は実にらしい、と評価すれば良いのかな。
私達は魔法少女だけれど、彼女が意識しているのは恐らく陰陽師。或いは巫女。
符呪の魔法少女、という肩書きの呪も呪い(のろい)ではなく呪い(まじない)の意味だ。
符に込めた呪いで戦う魔法少女。それが符呪の魔法少女 瑞鬼。
だとするなら、クルボレレはかなーりの苦戦を強いられる。
「っ?!脚が……」
「初撃は私がいただきます」
あのタイプは、念入りに事前の準備を整えているからだ。
ありとあらゆる相手に即座に対応出来るよう、膨大な時間と手間をかけて準備された手段の数々をスピード1本で戦うクルボレレには荷が重い。
事実として、クルボレレを囲むように地面に貼られた符により結界のようなものを発動させたらしい瑞鬼ちゃんはクルボレレを確実に捕らえ、炸裂するお札を数枚投擲していた。




