魔法少女交流会
パッシオに手を引かれて訓練場にやって来た私は真っ赤になった顔をパタパタと扇ぎながら両開きのドアを潜ると。
「ちょっとよく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれる?」
「どうせ魔法庁からクビにされた三流魔法少女の集まりのクセに偉そうにすんなっつってんの。金持ちにちょっと気に入ってもらえたからってイイ気になってのが丸わかりなのよ」
額に青筋を立ててアズールに羽交い絞めにされてるルビーと、こちらも仲間か周囲にたまたまいた魔法少女なのか、数名がウェーブの掛かった金髪が特徴の魔法少女を抑えている。
二人とも売り言葉に買い言葉。抑えている魔法少女達が振り切られたら大喧嘩が始まる一歩手前だった。
ケンカはOKとは言われたけど、本当にやるんじゃないの全く。
頭を抱えながら、パッシオの手を振りほどいて騒ぎの中心へと足早に向かう。
「ちょっと、席を外してた間に何があったの?」
「そこの金髪バカがいきなりケンカ売って来たのよ」
「だからってわざわざそれを買う事ないでしょ?売り言葉に買い言葉は止めなさいってこの前注意されたばかりじゃない」
私に注意をされ、ぐぬぬぬと唸るルビーにはぁっとため息をついてから後ろにいる魔法少女の方にも向く。
「こんにちは、私は花びらの魔法少女 アリウムフルールよ。貴女はどこの誰か、教えてもらってもいいかしら?」
「これはこれは有名人のアリウムフルールさん。職場に彼氏を連れ込んで良いご身分ですね。有名人はやる事も態度も一々偉そうでご立派ですね」
「……私は自己紹介をお願いしたんだけど?」
売ってすらいない喧嘩を勝手に買われた気分だ。どうやらこの魔法少女は最初から私達に不満たらたらでやって来たご様子。
全く、躾がなっていないのは困りものね。どこ所属の魔法少女かしら。
「ほら、ニーチェちゃん戻りますよ!!こんなところで騒ぎを起こしてるって分かったらマギサ先生に大目玉を貰いますから……!!」
「私達までまとめて怒られるんですからホントに大人しくしててください!!」
私が困っていると必死に金髪の魔法少女を止めていた子達がヒントをくれた。ニーチェ、という魔法少女には心当たりはないけど、マギサという魔法少女には大いに心当たりがある。
『巨人の魔法少女 マギサ』。この国に3人いるS級魔法少女の一人で、東京本部に在籍して関東から中部地方、甲信地方の守護を任されている魔法少女だ。
本部に在籍しているともあって、私達魔法少女達の顔役と言っても良いくらいには世間にも広く知られている彼女の名前を間違えるわけがない。
「この街にいるっていう知り合いと会って来るって言ってたから何の問題も無いわよ!!良いからこの偉そうな奴らぶん殴らせなさいよ!!大した実力も無い癖に偉そうで鼻につくのよ……!!」
「……私達、貴女に何かした覚えがないのだけれど?」
「その態度がムカつくって言ってんのよ……!!知ってるわよ、アンタ小手先だけは立派だけど、身体能力はC級以下だって言うじゃない。よくそんなひっくいレベルで魔法少女出来るわね。私なら恥ずかしくて出来ないわ」
何を喋ってもわざわざ喧嘩を売って来るニーチェという魔法少女に、私はただただため息を吐く。
どうにも様子がおかしいというか、興奮状態というか、怒りの沸点が低すぎる。これでは魔法少女としてどころか、人間として生活するのも大変だろう。
日常的にこうだとはとてもじゃないけど考えにくい。そしてわざわざ問題を起こしそうな子を遠く離れた東京から送って来たという事は、何か意図があるように思える。
長らく魔法少女のトップを張り続けているマギサさんが今回の協会への見学を行うメンバーの選出も行ったはずだ。
多くの支部がそうであるように、品行方正で礼儀正しい子達やリーダー格、さっき私に話しかけて来た上昇志向の強いやる気のある子達が来るのが普通。
本部から送られてくる子達がわざわざ問題児を選出して来るには何か理由があるはずだった。
「はーなーせー!!」
「とにかく埒が明かないわね。離して良いわよ、貴女達」
「え、でも……」
「大丈夫。少し頭を冷やさせるしかないでしょう?」
このままでは騒ぎは収まらないままだ。とにかく彼女の怒りを抑えるしかないだろう。
そこで一つ、思い付いたことがある。模擬戦はOKって許可は貰ってるしね。イライラやストレスを抑えるには運動は大きな効果があると思う。ちょっと痛い目に合うかもだけど。
パッと手を離した瞬間に飛びかかって来たニーチェの足元に障壁を置いて、思い切りよく転ばせると、私は屈みこんで一つ提案をしてみる。
「そんなに私達の実力を疑うなら、戦ってみる?」
上手く釣れれば良いけれど。




