2年生になりまして
迎えの車に乗り込み、待ちくたびれていた墨亜にぶーぶーと文句を言われながら、私と千草、墨亜に碧ちゃんと委員長とだいぶ大人数で移動する。
「久しぶりの学校は如何でしたか?」
「みんな元気だったよ」
「それは良かったです」
移動用のバンの中で皆の荷物を回収して、お昼用のサンドウィッチを配ってくれた美弥子さんとおしゃべりをしていると、あっという間に協会のビルまでたどり着く。
サンドウィッチ片手にバンを降りてそのままもぐもぐしながら協会の入口でIDカードをタッチして中に入っていく。
すれ違う職員の人と軽く挨拶を交わしてエレベーターで上の階へ。目的の階へとたどり着き、ぞろぞろともぐもぐしながら会議室に入っていく。
「……ちょっと、行儀悪いわよ貴女達」
「しはたないひゃあいでふか。まらお昼ふぁべてないんでふから」
「何言ってるのか全く分からないから口の中のを空っぽにしてから言いなさい」
ほぼ全員がサンドウィッチ片手にやって来たものだから眉をひそめた番長に注意されるけど、こちとら昼食もまだなのだからこれくらいは許して欲しい。
席について話が始まるまで皆でもぐもぐとしていると、先に着いていたらしい朱莉と紫ちゃん、舞ちゃんがやって来る。
「そうやってぞろぞろまとまって来られると、私達だけ仲間外れみたいね」
「今じゃ郡女に通ってる人が大半ですからね」
「ボク達もいっそ郡女に行くのもアリかもっすね?」
今じゃ8人中5人がお嬢様学校である郡中女子学院の生徒。一般の公立校に通うのは3人だけとなってしまっている。
普通ではない状態なのは間違いがない。どこの地域に所属している魔法少女の過半数がお金持ちのお嬢様の組織があるだろうか。
そうなったら確かにいっそ全員郡女に入った方が色々と日程の調整とか、移動とかが楽になりそうではある。それはそれで問題になるような気もするけど。
「紫は馴染めるだろうけど、朱莉と舞は疲れるだけだと思うぞ」
「そういう碧はどうなのよ」
「めっちゃ疲れた」
大きなため息を吐く碧ちゃんに朱莉はでしょうねと予想通りの回答が来たという反応、紫ちゃんと舞ちゃんも同じような予想をしていたみたいで苦笑いだ。
「あーあー、ボクだけ学校が全然違うっすから、せめて紫ちゃんと朱莉ちゃんのところに転校してもいいすっか?」
「舞は今年受験なんだから止めといたら?」
「高校はどこですか?私は高積高校が第一志望なんですけど」
「うーん、偏差値的にはギリギリっすね」
碧ちゃんが高校生になったということは、紫ちゃんと舞ちゃんが今年は受験生。
2人とも成績は悪いどころか良い部類なので、この街でも高い偏差値の高校に進学することができるはずだ。
そんな横で、朱莉が少しつまらなさそうにしてるのが目に入って、最後のひと口のサンドウィッチを飲み込んでから声を掛ける。
「どうかした?」
「……別に。私ってやっぱり年下なんだなぁって思っただけ」
どうやら朱莉はみんなに置いてけぼりにされてる気がしてちょっぴりナイーブらしい。
頼れるお姉ちゃんの碧ちゃんは、もう引越しをしてしまって今は朱莉達と同じ団地には住んでいない。
同じ街には勿論住んでるし、会おうと思えば会えるし、こうして協会で顔を合わせるのは簡単だ。
ただ、今まで通りの気軽さは無くなってしまった。
来年には紫ちゃんも高校生で学校も別。
朱莉が今から頑張れば、紫ちゃんの志望校にも受かるかも知れないけど、現実的に考えれば、3人は別々の高校に通う事になると思う。
そして、その頃には私や千草は大学生か社会人。
時間が進めば進むほど、私達の道は離れていくのは事実だ。
「大丈夫だよ、朱莉」
「何が?」
「私達のお姉ちゃんが、妹のこと放っておくと思う?今は忙しいから距離があるけど、落ち着いたらまた一緒に遊んだり出来るよ」
「……別に構って欲しいわけじゃないし」
唇を尖らせてから伸びをすると、朱莉はゆっくりと碧ちゃんに近づいて後ろから飛びかかっていた。
素直じゃないなぁ。まぁ、朱莉が素直だったら槍が降るか。
「君も大概だと思うよ」
とか呟いていたら、私も後ろからヒョイっと抱き上げられてびっくりする。
ただ、こんな事をするのは1人くらいしかいないのですぐに手を伸ばしていつものように落ちないように彼の首に手を回す。
「パッシィ、お仕事終わったの?」
「というより、これから君達に説明する事が仕事だね」
そういうパッシオは、テーブルに置いてあるノートパソコンを器用に片手で開いて起動させる。
プロジェクターに繋いでアレコレするらしい。少し不器用な手つきでキーボードとマウスを操作して、何とか準備を進めているみたいだ。
「いやぁ、パソコンは難しいね。雛森さんに教えてもらわなかったら全然だよ」
「でも覚えたら手放せないよ。というか、雛森さん帰って来てるの?」
「おっと、今のは聞かなかった事にして。サプライズで登場だったんだった」
しまった、という顔をしてからシーッと人差し指を立てるパッシオの腕をとりあえずつねっておく。
サプライズをあっさりバラすんじゃないよ全く。私の感動はこれでもう半減したも同然じゃん。
ぶーっと頬を膨らませて不平を伝えると、指でそれを潰されてごめんごめんと笑われる。
向こうで碧ちゃんのひっつき虫になってる朱莉と、やいのやいのと騒いでいる他の面々の様子を見ながら、恐らくもうちょっとで始まるだろう話とやらが何なのかを想像しておくとしよう。




