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奇妙な噂


俺の経験則が警鐘を鳴らしている。ここにいてはいけないと。何か大事な物を失う前にここからの脱出を


「逃がさないわ」


「ぬおぉっ?!」


ガタンっと椅子を蹴飛ばすようにして逃亡を図ったはずだった俺だが、向かいに座っていた由香さんがテーブルに足を潜り込ませて、俺が力を入れていた軸足をグッと押した


フローリングで靴下をはいていた俺はそのままツルっと滑ってケツを床に強打する


「いったぁ~」


受け身も取れずに強打したものだからそれもうモロに痛い。痛みで涙目になりながら、打った付近を擦っていると俺の上を影が覆う


「捕まえたわ」


あぁ、俺はこの目を知っている。獲物捕らえる肉食獣の眼である。この後俺は成す術もなく蹂躙されるのである

因みに言うと由香さんは高身長女子だ。恐らく目測170後半の身長。俺とは身長差20cmある。当然ながら低いのは俺、体格差でも負けてるため、マウントを取られた時点で俺の自由はほぼ無い


「さ、お着換えしましょう。その様子だと経験はあるんでしょう?」


「嫌だー!!はなせぇぇぇぇええぇっぇえぇ」


「よろしくね、お母さん」


「任せなさい」


そのまま抱きかかえられるように持ち上げられた俺はジタバタと暴れるがビクともしない。何でこういう時の女性は無駄に力が強いんだ……!!


本田親子の無駄に良い連携と由香さんの実に良い顔でのサムズアップにイラつきながら、俺は完全にペット扱いで奥の部屋へと連行されたのだった











そして、俺の男の尊厳は悲しいくらいにメタメタに叩き折られた

半泣きどころか全泣きである。何が悲しくて、26にもなる男が『フリフリのスカート』を着ているのか、理解に苦しむ。誰か、マジで説明してくれ、頼む


「おっ、真白の着替え終わ――ぶはっ」


「真白さんか~わ~い~い~」


由香さんに手を引かれてリビングまで戻って来ると碧ちゃんが自宅から合流していたようで、紫ちゃんと向かい合ってお喋りと講じていたが、俺がやって来たのに気付いたと同時に吹き出しやがった


紫ちゃんは紫ちゃんで聞いたことが無いような猫なで声で俺を可愛いと評している。本人は恐らく褒め言葉だが、俺にとっては屈辱的な言葉である


「いっそ……、殺せ……っ!!!!」


「我ながらいい仕事をしたわ」


羞恥でこの際死んでしまいたい俺と、やり切った達成感で輝いている由香さんが対照的な図だろう

会って初日だが、ここまで他人の母親を憎く思ったことは無い……!!


「似合ってるぜ、くくくっ、いやホント似合いすぎだろっ、無理っぶはははははははは!!!」


「クソ腹立つ……!!!!」


大笑いしている碧ちゃんに年甲斐もなくかつてない怒りを感じつつも、プルプルと震えるだけで抑える。だって俺、大人だもん……ッ!!


因みに紫ちゃんは可愛い可愛いと語彙を失いながらスマホでパシャパシャ写真を撮っている。今すぐ消してほしい、割と切実に思う。これ以上俺の黒歴史を記録するんじゃないよ


「しかし素材が良いから何着ても映えるわね。欲を言えばもうちょっと髪が長ければもっと可愛くなるんだけど、……ウィッグ被る?」


「絶対嫌です」


その手に持ってるウィッグは何処から出した。さっきまで持ってなかっただろうが、てか何で髪色とくせ毛具合が俺と似通ったウィッグが都合よくあるんだよ止めろ近付くな。嫌だって言ってんだろ!!


「付けられました」


「厚底サンダルも履いて、ハイ完成~」


「わ~ぱちぱち~」


もうね、諦めたよね。だって逃げられないもん、こうなったら逃げられないって言うのはもう10年前に経験済みだよチクショウ


もうこの際だから今着ている髪型と服装を説明すると、髪型はウィッグを被ったおかげでミディアムショート、大体肩くらいの長さになってる。その毛先は俺のクセっ気をそのままコピーしたように外側に一度膨らんで、首元で内側に丸まったと思ったら、最後はもう一度外側へとくるんと丸まっている。色も普段と同じような赤茶けた色だ


服はギンガムチェックのノースリーブシャツに白のキュロットスカート。丈はだいぶ短い。腕も太もも全出しだ。装飾にストローハットと白の厚底サンダル。赤いバッグを持って完成である


正直、めちゃクソ似合ってるのが腹立つレベル。神よ、何故俺から第二次成長期を奪った


待っていたぜ女装回……!!たんと可愛く書いてやるからな……!!


言い値で払うから誰かイラストください(クソ乞食

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