王家に仕える者として
それにしたってとんでもない話だ。真白と僕は本当に偶然出会った。その偶然出会った相手がもしかしたら僕が元々仕えていた方の子供か何かかも知れないなんて、一体どんな奇跡が起こればそんな事になるんだろうか。
事実として起こったことに対していちゃもんを付けるわけではないけれど、運命を司る神様がいるのだとしたら今の僕の様子はさぞ見てて楽しいことだろう。きっと意地の悪い神様に違いない。
「――ッおさま」
「何にしても、確かめたい事が多すぎる。真白に直接聞いたってあの様子じゃあ何も知らないんだろうし。そもそも母親はイギリスだっけか?そこ出身だって真白には教えてたってことは本当の事を知ってるのは多分――」
「パッシオ様」
「のわぁっ?!」
思考に耽っていたところに急に話しかけられて飛び上がる。
目の前にいたのはいつもの給士服ではなく、寝間着姿の美弥子さんが僕の顔をのぞき込んで来ていてまた驚く。
もう深夜も深夜。未明、というのが正しいんだっけか?あと数時間もすれば夜明けのこんな時間に、何でやって来たのだろうか。
「何不思議そうな顔をなさっているんですか?今何時だか、パッシオ様は分かってらっしゃるんですか?偶然目が覚めて、自室の窓から外を見たら明かりがついているんですから、驚きましたよ」
「3時だけど、ほら、僕ら妖精って魔力さえあればなんとかなるから……」
「だからと言っていつまでもお仕事をして良いわけではありません。身体は追いついても、精神的に疲れるじゃないですか」
「いや、でも僕は大丈夫だから……」
そう言うとジトリとした半目で睨まれる。それだけで、僕はうっと声を詰まらせて怯むしかなかった。
美弥子さんの言ってることは大体正しいから言い返す言葉も思いつかない。何度も言うように、妖精のあらゆる要素は概ね魔力由来であって、魔力さえあればどうにかなる。
ただ、精神的な疲労は溜まる。肉体的なものはどうとでもなっても長時間活動することによる精神的疲労感を取るのにはやはり睡眠が一番だ。
それをバッチリしっかり指摘された以上、僕からは反論のしようがない。そこで美弥子さん相手に屁理屈をこねようものなら粛々と怒られるのは何度も見て来た。主に真白が対象だ。何故か僕も一緒に怒られてる時も多いけど。
「何か言うことはありますか?」
「い、今から寝ようと思います」
蛇に睨まれた蛙の気分を味わいながら、なんとか応えるとそれならば良しとしましょうと美弥子さんからOKがでてホッと肩を撫でおろす。
美弥子さんのお説教は苦手だ。的確過ぎて反論できないのは結構クる。それに大体、反論できないくらい僕らが何かやらかしている時だからね。
「さ、部屋に戻りましょう。真白様は明日はお昼までぐっすりでしょうから」
「帰りの車で全員が爆睡してたからね」
戦いが終わり、体力的にも精神的にもクタクタでへとへとだった魔法少女達は全員がもれなく魔法少女協会へと送り届けるバンの中で寝息を立てていた。
千草や碧ちゃんは協会に着くと自分で起きて、自分で帰路に着いたけど残りの魔法少女達は親や職員に抱えられて、帰宅していたりする。真白も例に漏れずだ。
それを思い出しながら笑うと、美弥子さんもにっこりと笑っている。
「そういえば、何か真白様について分かったのですか?」
「え?」
「先ほど、真白様について呟いていらしたようだったので」
しまった、聞かれていたのか。まだまだ確証が持てないというか、謎が謎を呼んでいる状態で出来ればまずは情報の裏が取れてから伝えたいと思っていたんだけど、美弥子さんに聞かれた以上は光さんの耳にも入ると思う。
参ったな。別に後ろ暗いことでも何でもないんだからとっとと話せって話なのは分かるんだけど、個人的事情というかあまりにも妖精的事情を含み過ぎている。
何より、母親であると推察できるプリムラ陛下が真白には出生を偽っていた。それはつまり、真白には王家を継ぐとか妖精だとか、そういうことは全部伝えず、ただの人間のように平和に過ごして欲しかったんじゃないかと思う。
陛下は優しい方だ。子供の真白の事を考えての行動に違いない。それを根底から崩すようなことは、出来ればしたくなかった。
「……ちょっとまだ裏が取れてないんだ。せめて真白の父親から真実を聞かないと何とも言えない」
「そうですか……。そういえば、そろそろ雛森さんが東京から帰って来るとか。彼女が持って来る情報の中に何かあれば大きく前進するかもしれませんね」
「それは確かに期待したいね」
その場を上手く誤魔化しつつ、本心も伝える。恐らく全てを知っているのは真白の父親、小野 真司という男だけだ。
彼がせめて今どこで何をしているのか、それだけでも分かれば色々と進展しそうなものだけれど。
もう少し、ってことは4月頃か。丁度色々なものが変わり進む季節に、色々な事が進展すると良いんだけれど。




