これから戦う者達へ
そんな、魔法少女を生み出す力を持つ妖精。魔法少女を保護し、活用する政府が、協力関係に無さそうだと言うのは、奇妙な話であった
「その辺りも頭の痛い話でね。まず、魔獣ってなんだか知っているかい?」
「10年前に現れた、魔力を持った獣だろう?物理での攻撃より、魔力での攻撃の方が圧倒的に効果的で、だから魔法少女は魔獣退治が主な仕事だ」
短い手足で目頭を揉む様にする妖精。何やらまた面倒な話らしい
ちょっと妖精という言葉の意味を差し替えたくなって来た。主に社畜的な意味合いに
「その通り。魔獣とは魔力を伴った動植物の事を指す。では、その発生原因というのを、君は知ってるかい?」
「あー、TVで見たのは偶発的に出来た魔力だまりに侵された生き物が、魔物になった的な話は聞いたな」
「その魔力は一体どこから来たと思う?何故、10年前に突如として、魔力と言う物が世に現れたか、分かるかい?」
「それは、ちょっと分からないな」
言われてみれば確かにそうだ。偶発的な魔力だまりにいた生き物が魔物として変異してしまうなら、何故もっと昔から発生していないのか
そもそも魔力とは何を元に生まれたエネルギーなのか
それが何故、10年前を境に世界に溢れたのか
「実はね、魔獣が発生したのは妖精が原因なんだ」
「なんだって?」
その答えは、妖精達だと言うのだ
その答えに、俺も思わず声音を鋭くし、眉間に皺が寄る。だとするならば、妖精達はもしや、と頭の中にあまりいいイメージが無い憶測が飛び交うが、それは目の前の妖精の話を聞いて判断すべきだ
まずは、この妖精の話をきかなくてはならない
「10年前、本来繋がっていない人間の世界と、妖精の世界が繋がってしまったんだ。事もあろうに、妖精側の不始末でね」
「その不始末ってのは」
「それが困ったことに分からないんだ。分かっているのは、一部の妖精たちが、妖精界に満ち溢れている魔力を用いて何かをしようとしていた、って事だけ」
聞くところによると、10年前のその日。妖精界に住む妖精たちの一部が集まって、魔力を用いて何かをしていたらしい
その肝心な何かは分からない。なぜなら、当事者たちは、みなその日の内に死んでしまったからである、と
人間界と妖精界が繋がってしまったあの日、妖精界では超規模の魔力による爆発が起きたらしい
人間界で表すなら水素爆弾の数百倍の威力。その地域は見るも無残に大地もろとも消し飛び、今でも不毛の荒野だと言う
その想像もつかない魔力の爆発により、妖精界と人間界を仕切る壁に、大穴が開いてしまった
そこから、妖精界に溢れていた魔力が、人間界へと流れ込んでしまった
流れ込んだ魔力は、まず動植物に大きな影響を与えた。それが動植物の魔獣化現象だ
今まで存在しなかった魔力に、抵抗力を持っていない人間界の動植物はスポンジのように無尽蔵に魔力を吸収してしまい、その身体を魔獣へと変えてしまう
そんな中、唯一魔力に対抗し、同時に魔力を扱える親和性を持った生き物が、人間。特に年齢の低い少女達だった
妖精は、その少女達に接触。体内に蓄えた魔力を放出する方法を少女達に伝え、当時世界各地で猛威を振るっていた魔獣たちをその力を以て駆除した
これが10年前、世界各地に彗星のごとく現れた初代魔法少女達である
「その後、妖精たちは着々と魔法少女達を世に送り出し、人間界の各国は、魔獣対抗にどうあっても必要な魔法少女達を保護、無いし懐柔して行くことになる。そして妖精界で問題になったのは、、そもそもの原因が我々、妖精側にあるという点」
「おい、まさか」
それは無いよな、そう思った事だったが、それはどうやら現実としてあった事らしい
だとするならば、こいつらの上司連中とやらは、相当にクズだ
「あぁ、妖精界の重鎮共は、こちらの非を認めたくが無いために、人間界との政府との接触を拒んだのさ。それどころか、魔獣被害に苦しむ人間達に、妖精が人知れず手を貸してやってるんだぞ。という姿勢らしい」
「冗談だろ。原因はどう考えてもそっちだろ。その死んじまった連中が何をするつもりだったのかはともかくとして、少なくとも協力すれば事はずっと円滑に進むだろ」
「そこが、妖精は協調性が無い、という事を最も明確に示すものだろう。その証拠に、魔力を発現した魔法少女に対して、妖精側はその後、一切のフォローを入れない」
はああああ、と大きなため息が俺達二人から漏れる
なんて体たらくだ。妖精側がここまでクズいとは。この話から察するに、妖精は才能のある少女達を片っ端から魔力を発現させ、その後は放置しているという事だ