談話室にて
千草と別れたあと、少々重い足取りで談話室に戻った私は今、委員長に抱きかかえられながらぴぃぴぃ泣いているという何とも情けない状態になっていた。
「朱莉ちゃん、ダメですよ泣かせちゃ」
「相変わらず微妙にデリカシーに欠けるからな―、朱莉は」
「……怒らせたのは悪いと思うけど、泣いたのは理由が全然違うと思うんですけど」
朱莉は紫ちゃんと碧ちゃんにやんわりと怒られていて若干不満げ。ごめん、今泣いてるのは確かに朱莉のせいじゃないよ。
そういってあげたいけど、如何せん出て来る嗚咽と鼻水と涙で全然会話が出来ない。
心配そうにする墨亜を横に、私を抱っこしてあやす委員長の私への扱いは完全に子供のそれだけど反論できずに相変わらずぴぃぴぃ泣くだけだ。
「よしよし、怒っちゃった自分が嫌になっちゃったんだよね。分かるよ~。真白ちゃん、すぐ我慢しちゃうから今日はタイミングが悪かったんだよね。いっぱい泣いとけ」
「うぅぅ~~~~」
私が泣いてる理由は実は私が一番よく分かっていなくて、朱莉に謝ってる途中で涙がボロボロ出て来て止められなくなってしまったのだ。
結果として泣いてる理由が分からないけど号泣している私と、泣いてる理由が分からないけど泣かれてしまったのでおろおろする朱莉と、それを周囲で見ていた皆があれやこれやと手を焼いている感じだ。
ホント申し訳ない。
「パッシィ〜〜〜」
「あらら、私じゃダメか」
「こういう時に千草先輩がいるといいんですけどね」
「千草お姉ちゃんデート行っちゃったもんね」
ぐずぐず泣いてるのが止まらなくてパッシオに助けを求めると、困った顔をしてから立ち上がり私のところまでやって来るとヒョイっと抱える。
そのまま肩に顔を埋めて唸る私に、パッシオは参ったなぁと呟いて、部屋の中をウロウロし始めた。
「いやー、眼福だなぁ」
「趣味わりーぞ、要」
「高身長イケメンと低身長美少女の組み合わせって最高じゃない?」
「わかりますけど生モノは止めたほうが良いと思いますよ」
眼福眼福となにやら満足げな委員長に、碧ちゃんと紫ちゃんはちょっと引いている。
朱莉はこの状況に疲れたのかソファーに身体を投げ出してるし、舞ちゃんと墨亜はそこまで興味を持って無さげ。
何やら混沌とした状況だけど、それを見て落ち着いて来たのかようやく涙は引っ込んできた。
「さーて、そろそろ時間だから私は帰るかな」
「んの前に忘れもんだ」
そろそろ迎えの来る時間の委員長は杖を補助に立ち上がる。車椅子じゃなくて補助をしながら歩く事にシフトした委員長はもう随分と前の暮らしに戻りつつある。
そんな快方に向かっている委員長に、碧ちゃんはポイッと小さな何かを投げると委員長はそれをキャッチ。
渡し方はともかく、委員長が手にしてるのは空のメモリー。
先日、話し合いの末に余っている最後のメモリーを委員長が持つ事になったのだ。
当初は碧ちゃんが余らせた空のメモリーは紫ちゃんに渡る予定だったんだけど、【ノーブル】に拐われた経験をした委員長が【ノーブル】に関わる物に触れている事で、意識が混濁していた間の何かを思い出せるかも知れない。
そう本人からの提案と紫ちゃんの了解もあって委員長へと空のメモリーが渡る事が決まっていた。
「無くすなよ」
「もちろん!!じゃ、またねー!!」
「ばいばーい」
メモリーを受け取り、それをポケットにしまった委員長はゆっくりとだけど元気に談話室を後にした。
すっかり私達の中のムードメーカー的な存在になった委員長は流石というか、らしいなぁと思う。
嫌な感じが無いんだよね。仕事の話ばかりの私達に対して、一般的な女子高生のノリと明るい話題を振りまく委員長は固すぎる雰囲気を和らげるのがとても得意だ。
「落ち着いた?」
「うん、ありがと」
そんな風に委員長のことを改めて評価していた時間は結構長いものだったらしく、もう随分と外は暗くなって来ていた。
いつのまにか朱莉達は帰ってるし、残ってるのは墨亜とその面倒を見てくれていた舞ちゃんだけ。
「舞ちゃん、墨亜見ててくれてありがとね」
「良いっすよ、ウチ門限結構緩いっすから。そろそろ帰るっすか?」
「舞お姉ちゃんも一緒に帰ろ」
時間は17時過ぎ、まだまだ寒いし外は暗いから皆でウチの車で帰ろうか、という話をしていた時だった。
横でニコニコしていたパッシオの表情が急にピリッとしたモノになる。
何かあったのかと思って声を掛けようとしたら、私もなんだか嫌な雰囲気を感じ取った。
ドロドロとした、嫌な気配。こちらに敵意を向けて来ている感覚に私はすぐに談話室に置いてある内線電話を手に取って、番長のところにかける。
「番長っ」
【早いわね。南南西の街外壁近くに改造魔獣が現れたわ。十中八九【ノーブル】の連中よ。今すぐ出られるわね?】
「わかりました!!」
「場所は僕が先導する」
流石、仕事が早い。私達は大急ぎで談話室を飛び出すとそれぞれ変身のためのアイテムを取り出して構える。
私はスマホの『イキシア』、墨亜は栞、クルボレレちゃんは鍵だ。
「『チェンジ!!フルーレ・フローレ!!』」
「『オープンライブラリー!!』」
「『迅雷チェンジ!!』」
廊下を駆けながら変身し、パッシオも人間の姿から妖精の姿へ変えると私とノワールを背中に乗せて、魔法少女協会のビルの外にある非常階段から一気に飛び出す。
「魔法少女アリウムフルール。あなたを守りに来ました」
「夜空に輝く星々のように!!綺羅星の魔法少女、ノワールエトワール!!」
「疾駆の魔法少女クルボレレ!!スピード勝負で行くっすよ!!」
パッシオが駆け抜けるすぐ隣をクルボレレちゃんが稲妻を走らせながら付いて来る。
今度は何を企んでるのかしら。何にせよ、すぐに止めてみせる。