談話室にて
「へー、これがメモリーってアイテムかぁ。これで強くなれるの?」
3月、春を感じられる日も時折出て来るようになった時期に、私達は『魔法少女協会』にある魔法少女用の談話室で訓練終わりにいつも通りダラダラとお喋りをしていた。
今日は委員長にメモリーとSlot Absorberについての説明をしていた。
「そいつの中身は空だからな。強くなるにはこっちの中身が入ったメモリーと、このSlot Absorberを組み合わせないと意味ないぜ」
「なるほどー。ゲーム機とソフトみたいな関係ね。メモリーを交換すると使える力も変わる、と」
「そういうこと。今ここにあるのはリオがメモリーの中に入って使う『獅子』、千草が前に倒した魔獣の魔力を込めて手に入れた『鷹』、アリウムが【ノーブル】からぶんどって来た『優しさ』。それにパッシオの魔力を込めた『情熱』の4種類ね」
テーブルに並べられたメモリーはそれぞれ色とりどりだ。
朱莉の持つ『獅子』は朱色の本体に獅子横顔。千草が持つ『鷹』は鳶色のメモリーに翼を広げた鷹の姿。碧ちゃんの持つ『優しさ』は透き通った水色に鈴蘭が一輪とそれぞれ紋様が刻まれていて、一目でわかるようになっている。
私が持つ『情熱』は私が繋がりの力を用いてパッシオの魔力をメモリーに込めているという特殊な成り立ちの都合上、使用をやめる度に色と紋様は消えてしまって、今は無地だ。
「こうして見ると属性と色が大体イメージに沿っているというか、分かりやすいっすね」
「特に『獅子』と『優しさ』は一目で火と水の属性だと見当がつくな。一応、『鷹』は風属性だがまぁこれは紋様から察しが付くしな」
舞ちゃんと千草の言う通り、メモリーは一目でその中身の属性におおよその検討が付くようなデザインになっている。
敵ながら見事な造りだ。原理も何も分からないけど、優秀なデザインは使い勝手に直結する。
メモリーとSlot Absorberのデザイン性の良さは使っている魔法少女達にとってはありがたい。
「真白お姉ちゃんのメモリーはなんで真っ白なの?」
「そういえばそうですね。リオ君と同じようにメモリー自体に入ってしまう訳でもないですからやっぱり根本的に原理が違うんでしょうね」
墨亜の当然の疑問にうっと言葉が詰まる。紫ちゃんのおかげですぐに追及されることは無かったけど、いずれどうして?と聞かれること自体は予想出来ていた。
予想できていたからといって、回答が用意できていたかは別だけどね。『繋がりの力』を都合よく説明する方法なんてどうやって言えばいいのやら。
あの後、あの女性に出会うことも出来ないまま『繋がりの力』を使い続けているけど、一体これが何を由来にした力なのかは全くわかっていない。
あの時は時間が無いからってその場の勢いで信じたけど、それ以来音沙汰もないから説明も当然なくて、私は私が持っているこの力を説明する術を完全に無くしている状態だ。
「どういうこと?メモリーとSlot Absorberはセットなんでしょ?」
「真白。いや、アリウムフルールだけが別でな。アリウムはSlot Absorberを使わずにメモリーだけで強化変身が出来るんだ」
「えー、真白ちゃんだけ?ずるくない?」
「や、そんなこと言われても……」
委員長にずるいと言われても困る。あの女性の話を信じるなら、むしろ『繋がりの力』がSlot Absorberのモデルになった側。真似たのはあっちの方なんだよね。本当かどうかは検証しようがないんだけど。
この力を便利使いしているけど、ホント何なんだろうね。もしかしたら私の記憶が変化していくのとも関係しているのかも。
でも『繋がりの力』なんていうくらいの力が逆にそれを断つような方向に作用するのかな。
魔法だけで記憶の変化はあり得ないから、原因はもっと別の何かじゃないかっては言われてるけど、むむむむ。
だからといって使わないわけにもいかないし、今更止めてももう手遅れなのは実感済み。
元々の私なら、何か知っていたのかなとも思うけど、パッシオが知る限りはその節も無かったらしいし、その辺りの事を考えるとため息ばかりが出て来る。
「真白はその辺りが特殊だからね。他の魔法少女とは明らかに根本から違うと僕は思ってるんだ。そのヒントを探すために、真白の両親について色々調べてるんだけど、ね」
談話室でお喋りをしていた私達の元に、飲み物を乗せたお盆と大量の紙の束を持ったパッシオが合流してくる。
談話室にまで仕事を持ち込まないでほしい。飲み物を持って来てと頼んだのは私だけどさ。
「なぁにこれ?」
「小野真白に関するかもしれない情報の山だよ。とりあえず同姓同名の人のアレコレをまとめて雛森さんが送って来たらしい。魔法少女用の談話室は盗聴盗撮の危険性が低いから、コソコソやるならここが一番なんだ。ごめんね」
「まぁ、そういうことならしかたねぇか」
「私は絶対に手伝わないから」
「ハイハイ」
私の事もそうだけど、どちらかというと私の事じゃなくて私の父、小野真司の事から私の痕跡を辿っている筈。私のデータはもうめちゃくちゃになっているらしいし、小野真白がいなくなったことになっているなら小野真司から探すしかない。
母である小野プリムラから探すのも手だと思ったけど、そちらはまるでヒットしなかったらしい。でもそれは私がハーフであることから簡単に予想が出来たこと。
母は間違いなく日本国籍ではないだろうからね。イギリス人だってことは一応知ってるけど、それ以上の事は私も知らないし、結局父から調べるしかないのはどうしようもなく正法だった。
新章、はっじまっるよー




