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Shadow

「悪いがそろそろ移動の時間だ。アフェット」


「はいはーい」


時間的にもそろそろ移動した方が良い頃合い。ここに留まるのはこの辺りが限界だ。アフェットを呼べばあちらも意図を理解したのか帰り支度を始める。と言ってもコート類を羽織って、キャリーバッグの取っ手を伸ばすくらいだが。


「……行っちゃうの?」


「元々仕事で来ただけだったからな。終わったら帰るさ」


手早く帰り支度を済ませると、少女はいつもの元気は無く。小さな声で話しかけて来る。

こればっかりはどうしようもない。本来、会うことすら無かったのだ。こうして喋ることもないし、関わることも金輪際無いだろう。


それを考えると少々関り過ぎたか。裏の人間と表の人間が積極的に関わるものじゃないからな。


「また会える?」


「さぁな。仕事で来るとしてもそう簡単には会えんだろうな」


また、という少女に俺は努めて冷たく返す。また、は無い方が良いだろう。少女のためにならん。


もし、会うとしたらその時の俺は恐らく街に混乱を招く本当のテロリストとしてだ。そんな奴と関りがあると分かれば、少女も母親も、この本屋の店主もただでは済まないだろう。


それは嫌だ。明確に俺の感情がそうなる未来を拒否している。

そうならないためには、こうした方が良いのが最善策だ。


「ねねっ。最後に写真を撮りましょう。皆で」


「写真?」


「撮るっ!!」


そんな攻防を続けてる最中に、アフェットがそんな提案をして来た。俺が首を傾げている間に、少女とその母親、店主によりあっという間にその準備は勧められ、店のカウンターにタブレット端末を立てかけて、いつでも撮れるようにする。


置いてけぼりになっている俺を丸め込むように、全員がフレーム内に収まるように調整すると、カメラ機能のタイマーを使ったアフェットが小走りで戻って来てポーズを決める。


数秒後、パシャリと音を立ててフラッシュが焚かれ、写真は撮影された。アフェットが手早く母親にデータを渡すと、時間がもう差し迫っているのだろう急いで店の外へと向かい。別れの言葉を交わす。


「お世話になりました。おかげで色々考えをまとめることが出来ました。良い本屋さんも見つかりましたし」


「良いの良いの。私としては丁度いいお箸友達が出来て良かった。職務上、連絡先を伝えられないのが残念ね」


「元気でやるんだよ。この街にまた来たら顔を出しておくれ」


「それまでにぽっくり逝かないようにね」


アフェットたちが笑い合う中、俺は黙りこくる少女と向き合う。少女はいかにも不満げで、今にも泣きそうだ。


これにはお手上げだ。俺にはどうすればいいか分からんが、何もしないわけにもいかない。

とりあえず思いつくがままに頭を撫でてやる。それでも少女は不満げだ。


「そろそろ行きましょ」


「そうだな」


挨拶を終えたアフェットに声を掛けられ、いよいよこれでサヨナラだ。二度と彼女達に会うことは無いだろう。

どんなに楽しい思い出だったとしてもだ。生きる世界が違い過ぎる。


片や愛されて生まれ育つ日向の者達。片や愛されることもなく、道具として生きる日陰の者達だ。

こうして言葉を交わす機会があっただけ、ラッキーなのだろう。


「お元気で」


「じゃあね。ほら、バイバイしなきゃ、ね?」


手を振る母親と店主、そして俯いている少女。

その少女の頭をポンっと叩いてから、自然と俺の口はこう動いた。


「じゃあ、またな」


「――!!うんっ、またね!!」


してはいけない再会の約束が勝手に出て来た事にも驚きだったが、それ以上に少女の顔色が一気に明るくなったのが印象的だった。


思わず頭に浮かんだ感想は、そっちの方が断然イイというもので俺は軽く手を後ろ手に振りながらこの小さな書店を後にする。


「どう?めぼしいものは見つかったかしら?」


「さぁな。情報は大したことはないが……。中々良い思い出になった」


思い返せば任務を放り出して振り回されるだけの1週間だったが、何故だか妙に気分が軽い。

後半は酷いものだ。とにかく遊んだ記憶しかないのだから。だがまぁ、たまにはそんなものも良いだろう。


こうして、俺の1週間の潜入任務は終わった。


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― 新着の感想 ―
[一言] おかしい…初登場時はゴツいスキンヘッドのイメージだったのに… いつのまにか衛宮士郎的なぶっきらぼうないいあんちゃんのイメージにすり替わってる… あと別サイドからの話いいゾ〜コレ
[一言] また会えるといいね
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