Shadow
この際だ子供や親から見た魔法少女というものがどう見えるのか、というのも聞いてみるのも良いのかも知れない。
まだメニューを眺めていた少女からメニュー表を没収し、テーブル脇のスペースに立て掛けるとアフェットもそのつもりだったのか早速話題を投げかけていた。
「魔法少女について、どう思いますかか?」
「どうって言うと……?」
「別に何でも構わない。褒めるでも良いし、逆に否定的でも良い。魔法少女の活動や、魔法少女自体にどういった感情を持っているのかを主に取材して回ってるからな」
今のところ、母数がそもそもに少ないが肯定的な話しか聞けていない。
ここらで否定的、ネガティブな意見でも聞ければ良いが、この母親はどんな意見を持っているのか。
「魔法少女かっこいいよね〜」
「君はかっこいいって思うの?」
「うん!!だって怪獣やっつけるのがおしごとだもん!!凄かったよ!!おっきな怪獣におりゃー!!ってやってたの!!」
少女の方はどうやら魔法少女が戦う姿を見た事があるらしい。テレビかも知れないが、もし生で見てるなら希有な体験であり、非常に危険な状況にいたのだろう。
街の外縁付近に住んでいるか、クライスが送り込んだ土竜の被害にでもあったのだろうか。
「すみません。実はちょっと前にドラゴンが街を襲って来て、元々住んでたアパートはその時に壊されてしまったんです」
「そうだったんですか。よくご無事で。ホテルにいるのもその関係で?」
「ハイ、まだ新しい家が見つかって無くて……」
中々苦労をしているようだ。その原因が俺達の組織なのだから、真実を知ればこの母親は憤慨するのだろうな。
わざわざ言うことではないから言わないが。
そもそもあの土竜を使った街への強襲自体がクライスの独断で行われたものだ。
捕らえた土竜を使役し、強力な先兵とするか。メモリー化し、個人の強化を図るか。研究材料として消費するかで検討をされていた矢先の出来事だったのだ。
大方、質の良い隠れの魔法少女を捕らえ、評価をされslot absorberとメモリーを渡された事で舞い上がっていたのだろう。
結果としてクライス自身が実験体に、使用していたメモリーは奪われ、土竜は俺が使うメモリーへとそれぞれ状況が変化している。
奴は失った土竜の代わりになった、というわけだ。
「ご自宅は戦闘に巻き込まれて?」
「ハイ、ほぼ中心地だったみたいで。私とこの子はちょうど買い物から帰ってくる途中で自宅にはいなかったので巻き込まれずに済みました」
「ドラゴンと戦うとなれば、かなり派手な戦いをしただろうからな。あの辺りはほぼ全壊だったと聞く」
「そうですね。自宅アパートはぺしゃんこでした」
アハハハ、と笑う母親だが内心は相当堪えているのか、覇気がない。
ぺしゃんこと言う事はあらゆる家財道具はダメだったのだろう。
新たに揃えるとしたらどのくらいの金銭が必要になるか。そもそも自宅が無くなったということ自体がショックなはず。
幼い子供もいるとなれば、心身の疲労は相当に溜まっているのは見てわかる通りだ。
「さっき仰った、魔法少女についてですけど。そうですね、私は怖いなって思います」
「怖い?」
「だってそうじゃないですか。あんな、アパートを一瞬でぺしゃんこにするような。何なら街一つをぐちゃぐちゃに出来るモンスターを、魔法少女は倒しちゃうんですよ?」
確かに、魔法少女言えど誰もがドラゴンを倒せる訳ではないがこの街の魔法少女達なら総出でかかれば何事も無く討伐出来る。
それだけの技術も力も持っている。
それを母親は怖いと形容した。
「その時思ったんですよ。あぁ、私達って魔法少女に生かされてるんだなって。凄く自分勝手な考えなのは分かってます。この街の魔法少女がそんなことしないって思ってますけど、彼女達の気分次第で私達ってすぐ死んじゃうんだろうなって考えたら、凄く怖くて」
「成る程……」
強い力への畏怖のようなものか。一般人からすれば、魔獣も魔法少女も広義の意味では理解不能な力を振るって暴れるバケモノのように写ることもあるだろう。
それは国や地域、その街に住む人々の性格や気質。そして魔法少女達の日頃の行いによって変わって来るだろう。
この街の魔法少女達は実に理性的に、そして職務に忠実に魔法を使っている。
しかし、この母親は自分が住んでいた自宅を見るも無残に破壊された事で、魔法少女にも同じ事が出来てしまう事に気が付いてしまったようだ。




