Shadow
起きたら次の日だった。よく分からんと思うが俺が一番状況を把握出来ていない。
昨日はアフェットに捕まって、渋々一緒に動物の動画を見ていたはずだがいつの間にか日を跨いで朝になっていた。何が起こった。
「あら起きた。ちょっと寝すぎなくらい寝たわね」
「お前一服盛ったか?」
「失礼ね!!それくらいアナタが疲れてたってことよ。これに懲りて普段から睡眠時間はしっかりとる事ね」
もしや一服盛られたのではとアフェットに聞いてみると怒られた。そんなことはないとは分かっているが、ここまで時間が吹き飛ぶようなことな事態になったのだからそれくらいしか思いつかない。
アフェットは疲れていたんだと言うが、それにしても寝過ぎじゃないだろうか。寝すぎて身体が固まっているのを感じる。
ベッドからのっそりと起き上がりながら、凝り固まった身体をグッとほぐす。
「寝癖酷いわよ」
「シャワー浴びて来る」
ぼさぼさになった髪が絡まっている感触が気持ち悪い。シャワーも浴びてないから身体がベタベタしていてそれも不快だ。さっさとシャワーを浴びるために部屋に備え付けられたユニットバスへと向かう。
「洗濯物はまとめててね。後で洗濯に出すから」
「頼む」
着替えを片手にバスルームに入り、手早くシャワーを浴びる。鏡に映る赤い髪と青みがかった灰色の瞳を持つ人間に、似合わないなと率直な感想を持つ。
目つきが致命的だ。しかめっ面をしているせいで睨んでいるように見えるが、髪色と瞳の色がその顔立ちと調和していない。
せめてもうちょっといかつい方が良いと思うのだが、イマイチ迫力に欠ける。目つきだけは悪いので常に不機嫌な奴程度の見た目なんだ。
そんなことを言っても自分の顔なんてそうそう変えられるものじゃない。金を払えば変えられるんだろうが、そうしてまで顔を変えようとも思わないから死ぬまでこの顔と付き合っていくんだろう。
ま、何年生きられるかなんて知らんがな。少なくとも長生きするような人間ではないとは思ってる。
「シャワー浴び終わったらご飯食べに行きましょ」
「入って来るな」
人がシャワーを浴びてる最中にユニットバスのカーテンの向こう側にアフェットが入って来て、一言喋ってから早々に消えていく。
何しに来たんだとぶつぶつ文句を言ってカーテンを開けると洗濯物が回収されていた。アイツは俺の母親か何かか?
さっさとシャワーを浴び終わって着替えてからユニットバスルームを出て行くと、アフェットが回収した洗濯物をまとめ、出掛ける用意は万端にしてある。
「さて、コインランドリーに洗濯物入れたら朝ごはんを食べに行きましょう。どうせ腹ペコでしょうから、今日はお店に行きましょ」
そう言われて自分が腹ペコなのに気が付く。丸一日寝てたらそうなるか。
促されるままに部屋から出ると、同じフロアにあるランドリーに洗濯物を突っ込むと昨日と同じように階下に降りていくエレベーターに乗ると、見覚えのある子供が中に乗っていた。
「あ!!綺麗なおめめのおにーちゃん!!」
「こ、こら!!」
俺を指差して笑っているのは先日朝食を食べていたら興味津々でやって来た少女だ。
連れ添っている母親に注意をされているが、全く悪びれているようすはない。子供ゆえの傲慢さというか、無邪気さというか。
まぁ、この程度で怒るような器の小さい人間なつもりもないから良いがな。
「また会ったな」
「ごはん食べるの!!おにーちゃんも?」
「俺たちは今日は外に食べに行くんだ」
「えー!!ずるーい!!私も行く~!!」
降りていくエレベーターで話に付き合っていると少女は俺たちと一緒に外に食べに行くと言い出した。
これには俺も困惑。ついでに母親はわたわたとしながらぺこぺこと頭を下げている。
この親子も朝食を食べに行くところなのだろうが、無料で済むなら無料の方が母親の方は都合が良いだろう。
アフェットの方はケラケラ笑っているだけだ。駄々をこねる少女をどうするか悩んでるうちにエレベーターは1階についた。
少女は変わらず駄々をこねている。これでは食事どころではないだろう。
「……一緒に来るか?」
「良いの?!」
結局、俺が提案することで少女の気は収まることになった。金銭は、まぁこちら負担で良いだろう。
朝から少女のわがままに振り回されるとは思わなかったが、仕方ないか。




