奇妙な噂
それから一週間、連中の音沙汰無く、夏の暑さだけが続いていく日々が続いていた
パッシオの魔力探知にもかからず、様子を見る限り魔法庁の魔力レーダーにもかかっていなさそうだ
「ここまで動きが無いなんてね。正直、気持ちが悪いわ」
「元からコソコソと何かをしていたようだったからね。もしかしたら場所を変えたのかも知れない」
「そんな簡単に言うけど、陸路じゃ今のご時世、隣町に移動するだけでも相当に危険よ?比較的安全な空路は大金を積まなきゃいけないし」
「あー、そうだよねぇ」
魔獣が山林を跋扈する今の時代、少し田舎の方に行くだけで、移動中にバッタリ魔獣と出くわした、なんてよくある話だ。おかげさまで、陸路は10年前と比べると2割程度の流通量しかないと言う
特に都市部と農業者が多い田舎との陸路は大きすぎる打撃を受け、5年前までは都会の方が食料に困窮する事態にまで発展した
ようやく、空輸での食料品や日用品の流通が本格化して、10年前とそこまで変わらない流通網が確保出来たものの、物価が10年前とは物によっては数倍違ったりもする
その代わりに賃金も上昇して、お金の面だけで言えばこの国の経済が回復したのは皮肉の効いた話であるのも有名だ
因みに、海路は陸路よりももっと壊滅的だ。より生き物の豊富な海中は大小問わず魔獣がうじゃうじゃといるらしい
もっとも、内陸にあるこの街じゃあ関係の無いことだ
「ところで、この会話はわざわざ魔獣の前で言う事かい?」
「それもそうね」
ただまぁ、パッシオの言う通り障壁でとっ捕まえた魔獣の前でする話でもない
魔獣を閉じ込める様に箱型の障壁で囲ったその中で、魔獣が大暴れしているが障壁の方はビクともしない
我ながら中々上手く行ったと思う
「あんまりのんびりし過ぎてもあれだし、これで終わりね。次は、魔獣になんてならないようにするのよ」
開いた右手をキュッと握ると、閉じ込めていた障壁が一気に縮まり、魔獣を圧し潰すようにして圧殺した
……良い発想だと思ったんだけど、ちょっとグロすぎるな、これ
「……またエグイ方法を思いつくんだね、君は」
「しょうがないじゃない。アニメや漫画みたいに敵から血が出ないなんて都合の良い仕様じゃないんだから」
辺りが血みどろになって、ドン引きするパッシオに俺はどうしようもないだろと猛抗議する
魔獣だって生き物だ、血は通ってる。倒すと言うことは殺すという事だ、血が出るのはどうしようもない
ここまで血の海にしたのは初めてだけどさ
「うひゃあ、凄いことになってんな」
「あら、アズール。遅かったじゃない」
「お前が早過ぎんの。こっちの魔力レーダーより早いってどういうことだよ」
「ふふっ、秘密よ」
そこへやって来たのは『激流の魔法少女 アズール』だ。この惨状に彼女もうわぁと引き気味の声を上げているが、俺は悪くない
「あ、そうだ。情報提供サンキューな、ウチらの上司連中がひぃひぃ言いながら感謝してたぜ」
「ひぃひぃ言ってでも仕事をするのが大人だもの。現場に行くのは私達だし、こういう時は働いてもらわないと。で、そちらで何か進展はあったかしら?」
思い出したと言わんばかりに手をポンと叩いてから、意地悪そうな笑みを浮かべて先日の情報提供についてアズールが感謝の旨を伝えて来る
その結果として、魔法庁の職員たちはてんわやんわの騒ぎになっている様だけど、そこは仕事として、精々苦しみながら成果を上げてほしいところ
「んー、イマイチだな、少なくとも私ら魔法少女に上がって来た情報はアリウムが助けた隠れのことくらいか。後は情報っつーよりも噂だな」
「噂?」
「あぁ、どっちかと言うと私らのプライベートの方の噂なんだが。最近、数時間ばっかし行方をくらまして、その後ひょっこり帰って来る。なんて噂話が立っててな」
情報としては微妙でも、女学生のプライベートな部分での奇妙な噂は立っているらしい
今のところ接点がある様には思えないが……
「怪しいと?」
「きな臭い匂いはするな」
こういう時は勘も大事だ。特にアズールは理屈ではなく感覚肌のタイプ。直観力なら他の魔法少女よりも頭一つ抜けている印象がある
そんな彼女が気にする噂。俺からも少し探りを入れて見ても良いかも知れない
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投稿二ヶ月経たずにここまで行くのは初めてですね。ありがとうございます
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勿論、私も面白い話を書けるように頑張っていきます。まずは早く仕事が落ち着いて欲しいですけどね!!