Shadow
良くなり始めたのは何時ごろからなのかと聞いてみると、ここ半年くらいだとご婦人達は口を揃えて言う。
やはり修復には長い時間を要していたようだ。丁度こっちの動きが活性化し始めたのと同じように、この街の魔法少女達を取り巻く環境というのは大きく改善されていったのだろう。
ともすれば、心当たりがある。
「花びらの魔法少女か」
「そうそう、アリウムフルールちゃんが一緒に活動するようになった辺りから、あの子達の雰囲気が良くなったのよねぇ」
「フェイツェイちゃんなんていっつも無表情で不愛想だったのに、今じゃ子供たちの声に笑顔で手を振り返すの」
ちょっと前じゃあり得なかったわよねぇと笑顔になるご婦人とやはりと頷く俺、首を傾げるアフェットという三つのリアクションに別れる。
アフェットがそういう反応になるのも無理はない。彼女は今までこの街で行う任務には参加せずに別の街や海外での任務が多かった。まだアリウムフルールという名前さえ一発で顔と名前が一致していないだろう。
「アリウム、アリウム。あぁ、アナタがお尻を追っかけ回してる魔法少女か」
「口の利き方に気を付けろ」
果てしなく誤解を生む言い方に抗議をしながら魔法少女達の話で盛り上がっているご婦人達の話の内容に耳を傾ける。
内容のほとんどがあの子が可愛いとかこの子は変わっただとかそういう話だ。特に人気なのは愛想が良いのかアリウムとクルボレレ、ノワールエトワールの三人の様。
逆に凛々しいやカッコいい、知的といったクールな印象を持たれているのがフェイツェイ、アズール、アメティア、シャイニールビーだ。
確かにあの四人内三人は特に血気盛んなタイプだ。残る一人のアメティアは参謀。後方で虎視眈々とこちらの小さな隙に痛烈な一撃を叩き込んで来ようとする知的派。
こうして人の意見を聞きながらアイツらの強みを分析していくと、実によく役割の分担が出来ている。お互いがお互いの強みを潰すことなく、補い合う形で立ち向かって来るのだ。そりゃ当然強力になる。
ではそのためにはどうすれば良いのか。最も簡単な答えは各個撃破なのだが。そんな分かりやすい弱点など当たり前のように対策がされている。
奴らは常に2人以上で動く。ソロで動いていたのはそれこそ去年の夏の終わり頃の話。そこから先は2人どころか常に3人以上の多人数で行動し、グループ構成ですら偏りが少ないように振り分けられているのだから困る。
「お二方から見て、ここは直してほしいというところはありますか?」
「直してほしいところかい?そうだねぇ」
「私としてはここ最近は2日に1回くらいの頻度で誰かを見るだろう?休みをちゃんと取ってるのか心配だよ。子供は元気だけど、ああやって大人顔負けで働いてたらいつか倒れちゃうんじゃないかって心配で心配で」
「確かにそうよねぇ。ちょっとくらいお休みをあげても良いような気もするわね」
個人的には不満点などをあげてほしかったところなのだが、上がって来たのは心配の声。よほど好感度が高いらしく。高い頻度で見かけるようになった魔法少女達の体調を案じている。
これが大きな声になればいいが、とてもじゃないがそれを扇動する暇があるなら別の方法を取る。
悪の組織が魔法少女の就業時間軽減を訴えてどうするんだ。それでは慈善団体になってしまう。
「ありがとう。ここで暮らすのに参考になった。この街の魔法少女は愛されているな」
「みんな強くて可愛いからあなた達も応援してあげてね。ハイ、これはメンチカツとコロッケね。おまけでハムカツもあげるわ」
このご婦人達から聞けるのはこれが限界だろう。切り上げるために精肉店の恰幅の良いご婦人に代金を払ってメンチカツとコロッケが入った袋を受け取る。何のオマケかはわからんが、ハムカツも入れてくれたらしい。
礼を言って離れると早速袋を漁ってメンチカツにかじりつく。揚げたてで熱いくらいだが、美味い。肉汁がこれでもかと溢れ出て来て実に食べ応えがある。
「あぁ、もう。食べ歩きするのは良いけど食べるのが下手くそね。ちょっとこっち向いて」
「むぐっ、別に平気だろうこのくらい」
「背格好は立派なのに食べかすを口の周りに付けて歩くのはお間抜けって言ってるようなものよ。手が掛かるんだか掛からないんだか」
ぺろりと平らげると、アフェットに口元を拭われる。そこまで子供ではないと言いたいところだが、アフェットの言う通りならば確かに間抜けだ。気を付けよう。
そう考えながら再び袋の中に手を伸ばす。次はコロッケだ。ほくほくのジャガイモの甘みが口に広がりこれまた美味い。
むしゃむしゃと食べているとアフェットは隣で頭を抱えていた。頭でも痛いのだろうか。
「近くでベンチでも探しましょう」
「はぐっ、少し休憩するか」
落ち着いて食べるには丁度いいタイミングだ。アフェットの調子が悪いようなら、ホテルに戻ることも考えなくては。
まだ二日目、焦ることはない。帰りに出来ればさっきの精肉店で他の物も追加で買いたいところだ。
「ホント、着いて来て正解だったわ」
頭を抱えるアフェットが何を言ってるのかはよく分からず、俺は首を傾げながら近場のベンチを探したのだった。
シャドウがどんどんポンコツ化していく……、可愛いかよ……




