Shadow
街に繰り出すと通りには車や人が忙しなく行き交っている。駅前の繁華街というのもあり、人の密度は中々に高い方だろう。
今日は日曜、仕事の人も当然いるだろうが、繁華街へ遊びに来ている若年層の姿も多く目に入る。
「で、聞き込みってどうするの?ジャーナリストを装って片っ端からやるにも限界があるわよ」
「歩いてる人に声をかける訳じゃない。主に接客業をしている店員から聞きこもう。特に個人店が良い」
昨日出会った書店の店主から味を占めたわけではないがそれが恐らく最も効率が良いだろう。
特に個人店の接客業ともなれば常連との会話も多い、会話が多いという事は情報のやり取りも多いはずだ。そういった人物から少しでも多く話を聞き出せればなお良い。
「個人店って今どきそんなに多くないわよ。殆どはチェーン店だし」
「チェーンでも接客業であれば客と話をすることはあるだろう。少なくとも歩いている一般人に声をかけるよりはリスクが低い」
「確かにそうだけど、地味ね~」
情報収集なんていつの時代もそんなものだ。ネットは手軽だが所詮は広く浅く。深く掘り進めるには結局時間がかかる。
それならばアタリを付けて足を伸ばした方が手っ取り早いことも多くある。今回はそっちだ。
ネットには否定的な意見や憶測が集中しやすいという側面もある。多すぎる情報に惑わされるよりはその地域に足を付けている人たちの言葉の方がまだ信ぴょう性がある。
「で?お店のアテはあるの?」
「それを確認しに行く」
「殆どその場しのぎじゃない」
元々そういう任務だ。事前準備がちゃんと出来ていればそもそもこんな手間はかけていない。
呆れているアフェットだが文句は組織に言って欲しい。俺だってこんな寒空の下でわざわざ歩き回っての情報収集なんてやりたくない。
まだ魔獣を狩っている方が気分が楽だ。人とわざわざ話をしなくてはならないし、集めた情報を精査して書類に纏める手間もある。全く持ってめんどくさい。文句たらたらなのはお互い様というやつだ。
「逆に個人店が集まりそうな場所はあるか?」
「ホントに私がついてて良かったわね。アテもなく手あたり次第って一番最悪よ」
目を細めるアフェットを軽くかわしながら、提案を促す。言い分から俺よりは見当がついているらしい。
先導を任せるとこっちだと手招きをされる。ついて行くと、ほどなくして駅前から少し離れた通りに入る。
うむ、ここなら知識だけはある。商店街と呼ばれる通りだ。小さな店が軒を連ねるここなら確かに個人店も多そうだ。
「商店街なら昔からやっている個人店が多いわ。探して歩くしかないわね」
「少々骨だが休むための店も豊富だろう。よし、頼むぞ」
「……」
そのまま先導を頼むとアフェットから白い目で見られる。とはいえ仕方がないだろう。こんな見た目が外人の俺が話しかけても相手はびっくりするだけだ。それならこの国の女性だとわかり、尚且つ美人のアフェットが声かけをしていったほうが効率がいい。
決して俺が話しかけるのがめんどくさいとかそういう話ではない。多分。
「子供みたいなことをしてるんじゃないの」
「合理的に考えた結果だ。人には向き不向きというものがある。今回はお前の方が向いている」
「ああ言えばこう言うようになったじゃないの。ちょっと前までは言われるがままのお人形だったのに、反抗期かしら」
ぼすっと背中を叩かれたが本気で怒ってるわけでは無さそうだ。よし、作戦は成功だ。これで俺は後ろ手メモを取るだけに徹することが出来る。
適材適所の素晴らしい人選だろう。
「全く、相変わらずのところもあれば変に人間味が出て来たわねアナタ」
「なんの話だ?」
「可愛げが出て来たってことよ。良い傾向であることには間違いないわね。私個人の意見だけど」
よく分からんが良いことだというのならそういうことにしておこう。さて、どんな話が聞けることやら。
良い話、面白いものがせめてあれば良いが。




