Shadow
朝から災難だ。まさかアフェットに大笑いされるとは。
別に面白かったものを見て何が悪い。同じことばかりのニュースよりは良かった。それではダメなのも分かっているが。
「結局最後まで真剣に見てるんだもん。やっぱそういうところは男の子なのかしらね」
「突くな鬱陶しい」
今はホテルのモーニングサービスで朝食を食べているところだ。何種類かのパンとレタス、ウィンナー、スクランブルエッグとビジネスホテルとしては十分なレパートリーだろう。
コーヒーも飲み放題だ。味はそこそこだが、気軽に飲めるのは良い。
不満があるとすれば、相変わらず人目を集めてしまうという事か。文句を言っても仕方が無いのは分かってるんだが。
「おにーさんのおめめきれー」
「……」
こういうのは、正直一番困る。何をしたらいいのかが全く分からないからだ。
俺とアフェットが座るテーブルの横、4つある椅子のうち空いた椅子に登って俺の顔を覗き込んでいるのは幼い少女だ。
まだ喋るのもたどたどしいくらいの年齢で、小さな身体を巧みに操って背の高い椅子をよじ登って来たと思ったら開口一番この一言。
もうどうすればいいか分からん。1m近い高さがある椅子に登るのは危ないから降ろした方が良いとか、受け答えをしてやれとか、脳裏には浮かぶがそれをどうすればいいのかで思考が停止する。
小さい子供の取り扱いなど知る由もない。どう喋れば良いのか、触っても大丈夫なのかなどなど焦りと緊張でコーヒーの味も分からなくなりつつある。
「なんか言ってあげなさいよ」
「どうすればいいのかわからん」
「情けないわね……。お兄さんの目、綺麗よねー」
「うん!!宝石みたい!!」
俺の状態を見てため息を吐いたアフェットが少女をヒョイと持ち上げ、自分の膝の上に収めるとニコニコと笑いながら会話を始める。
手慣れたものだ。子供と接点が無かった俺からすると触れば壊れてしまいそうなガラス細工に思えてとてもじゃないがあんな手軽には扱えない。
満面の笑みでおしゃべりをする少女はアフェットと会話が出来て満足そうだ。主に俺の目や髪の色が珍しいのかその話題でつたないながらも少女は小さな口を動かして喋り続けている。
「すみませんウチの子が……」
「あ、ママ!!」
数分しないうちに少女の母親だと思われる女性がやって来て、ぺこぺこと頭を下げる。俺もアフェットも問題ないと返すと、少女は母親に抱きかかえられて別のテーブルへとついていた。
既に興味は俺から食事へと移っているらしい。ケチャップを掛けたスクランブルエッグをスプーンでもしゃもしゃと食べている。口の周りはケチャップだらけだ。
子供の好奇心とはこうも移り変わりが激しいものなのかと実感する。世話をする親は大変だろう。さっきも一瞬目を離した隙に親元から勝手に離れていたのだろうしな
「子供にはもうちょっと愛想よくしたら?そのうち怖いって泣かれるわよ」
「俺たちはその泣かす側だろう。それに、頻繁に子供と接することもあるまい」
「そんなことばっかり言ってると父親になった時が大変よ」
「未来の事なんて俺たちが言うセリフではないだろう」
その未来をめちゃくちゃにしようというのが俺たちの目的だろうに、父親だのなんだのと夢見事を言う訳もないだろう。
それに俺は人造物。所詮は人間の模造品でしかない。父親になるなどとも考えたことが無ければ、友人すらいないのが現実だ。
なる気もなければなれるとも思っていない。その上、なったところでという気持ちもある。どうせロクな結末ではないのだ。妄想するだけ無駄だ。
「夢の一つくらいは持ったらどう?人生つまらないでしょ」
「つまらなくて結構。元より意味のない命だ。食い終わったのなら行くぞ。今日は魔法少女達の最近の動向についての聞き込みだ」
意味のない生に未来などあるまい。そんなことよりも今日の予定だ。
昨日は全体的な街の変化などについて大まかに知ることが出来た。今日は魔法少女達についての評判や意見等の情報を集めて行こう。本人達に会い戦うのが最も手っ取り早いが、何分そんなことをしようものなら諸々都合が悪い。
一般人からの視点や巷で流れている情報をかき集めれば意外な部分で切り口が見つかる可能性だってあるだろう。
さっさと立ち上がってコートを着込む俺にアフェットは呆れ顔だ。早くしろ。これが俺たちの今回の仕事だぞ。




